昨夜のサッカー日本チームは健闘虚しく……。
まあ、これも勝負のアヤなんでしょうが、やはり悔しいなぁ……。
意外な脇役が活躍して♪ なんて夢を描いていたのですが、現実は厳しかったというわけです。
そこで本日の1枚は――
■Trip To The Orient / Ronnie Mathews (East Wind)
ジャズは、ある意味で個人芸ですが、脇役の存在が重要でもあります。
伴奏やサポートの達人がいてこそ、主役が光るというのはプロレスに似ていますが、そういえば暗黙の了解で全体の流れを作っていくところに上手さが滲み出るのが、ジャズでもありますね。
で、そんな脇役達が、ある日、突然に主役になることが出来たのが、1970年代のジャズシーンでした。それはロックやフュージョンに押されて苦しくなっていたジャズの世界で、それでも真っ当な本物のジャズを製作しようとしていたマニア系のレーベルの活動があっての事です。
例えば「ミューズ」「スティープルチェイス」「ザナドゥ」あたりのレーベルは、ベテラン勢に加えて、ハードバップ~モード一筋にやってきた中堅のレコーディングも積極的に行い、例えばシダー・ウォルトン(p) やピリー・ハーパー(ts) は、一躍ジャズ喫茶の大スタアになりました。
本日の主役、ロニー・マシューズもそういう黒人ピアニストで、1960年代にはマックス・ローチ(ds) やジャズ・メッセンジャーズのレギュラーを務めた時期もあり、来日巡業にも加わっていたそうですが、そのスタイルはビバップ~モード中心のマッコイ・タイナー(p) 系という実力者です。
もちろんリーダー盤も1963年に「プレスティッジ」で吹き込んでいましたが、正直言うと、脇役の域を出る人ではなかったと思います。
ですから1970年代に入ってからの境遇は苦しかったと思われるのですが、ジャズから離れていなかったのは流石で、そのロニー・マシューズに久々のリーダー盤吹込みのチャンスを与えたのが、我国のマイナー・レーベル「イースト・ウィンド」でした。おそらく同レーベル初の海外録音・製作による発売作品だと思います。
録音は1975年7月7&9日のニューヨーク、メンバーはロニー・マシューズ(p,elp)、鈴木良雄(b)、ルイ・ヘイズ(ds) という実力者揃いです――
A-1 一番 (1975年7月9日録音)
アップテンポで最高に景気の良いモード曲です。タイトルの「一番」はロニー・マシューズが初来日時に作曲したことに所以しているそうですが、本人はその時の歓待が非常に嬉しかったと、後に語っています。
肝心の演奏はモード全開! バリバリ弾きまくるロニー・マシューズにベースとドラムスが見事な助演で応えています。
あぁ、こういう演奏こそ、1970年代のジャズ喫茶では熱烈に求められていたので、これには忽ちリクエストが殺到したのでした。
A-2 Manha De Carnaval / カーニバルの朝 (1975年7月9日録音)
お馴染みのボサノバの名曲をロニー・マシューズはエレピで弾いてくれます。そしてこれが非常に心地良い♪ 初めて聴いた時には、その歌心とエレピの爽やかな響きに、目からウロコ状態でした。あぁ、何度聴いても最高です。
ルイ・ヘイズのシャープでヘヴィなドラムスも気持ち良く、ズバリ名演だと思います。必聴~♪♪♪
A-3 Linda (1975年7月9日録音)
ロニー・マシューズが完全なソロピアノで演じるスローな曲です。しかし原曲のイメージが、いまひとつピンッとこないので、???
まあ、短い息継ぎのトラックかもしれません……。
A-4 K's Waltz (1975年7月9日録音)
そして、これぞ王道ジャズという重苦しいモード曲がスタートします。ドラムスとベースが重くハードに蠢きますが、演奏テンポは緩急自在というか、中盤からは激烈な高速4ビートの中をトリオの3者が奮闘します。
B-1 Jean-Marie (1975年7月7日録音)
これも典型的なモード曲ですが、ロニー・マシューズは自作の愛らしいテーマメロディを大切にしようとしています。ところがドラムスとベースが烈しいツッコミを入れてくるので、演奏はアフリカ色の強い、まさに当時のジャズ喫茶で好まれていた方向に進んでいくのでした。
バリバリ・グイグイと音を放出していくピアノに絡む鈴木良雄のベースが印象的です。
B-2 When Sunny Gets Blue (1975年7月7日録音)
美メロのスタンダート曲で、ロニー・マシューズは素晴らしい歌心で聴かせてくれます。何しろ原曲よりもグッとくるアドリブメロディが出るのですから、もう、たまりません。
演奏テンポはスロー~ミディアムなんですが、ビートの芯を外さないリズム隊も好演ですし、モード風解釈と原曲変奏のバランスが秀逸で、これも何度も聴きたくなる名演だと思います。
B-3 Summertime (1975年7月7日録音)
そして大団円はガーシュイン作曲の超有名スタンダードを素材にした大ハードパップ大会! こういうモードに成りかかって成りきれないというか、あえてそこに足を踏み入れるギリギリの演奏こそ、モダンジャズの王道としてファンには最も好まれるところではないでしょうか。
モードを使いながらも歌心を大切にしているロニー・マシューズには好感が持てます。
ということで、これも今では隠れ名盤です。CD化されているか否かは不明ですが、オリジナルのアナログ盤は録音も良く、如何にも1970年代ジャズという音がします。特に鈴木良雄のベースやルイ・ヘイズのシンバルが爽快ですね♪ つまりここでも脇役が光っているわけです♪
ちなみにロニー・マシューズはこの後、欧州のレーベルにも吹込みを行っていますし、1980年代にはジョニー・グリフィン(ts) のバンドや自己のトリオで地道に活動していきます。つまりこういう人こそ、モダンジャズ保守本流を守り抜いた王道派で、その活動は地味ながら、ジャズファンからは何時までも愛されるのでは……?
また、おそらくこの作品製作側とロニー・マシューズの波長もバッチリあったのでしょう。アルバムタイトルもそれらしくなっています。
その意味で、このアルバムこそ、ジャズ者ならば一度は聴くべし! と本日も独断と偏見で決め付けさせてもらいます。暴言ご容赦。