いつも古い録音ばかり聴いている私ですが、たまには新しいものも♪
ということで、本日はこれです。――
■Easy / Pietro Condorelli (Red)
イタリアで製作されたCDで、主役の Pietro Condorelli は写真で見ると、これが拘りの強そうな中年おやじです。
そして実際に聴いてみると、確かにそのギターは白人系の正統派ながら、要所ではオクターブ奏法や変則コード弾きも交えて、新しい感覚も備えています。
実は私はこの人の演奏を、これで初めて聴いたんですが、そのきっかけは、参加メンバーと収録曲の魅力に惹かれたのです。
録音は2004年、メンバーは Fabrizio Bosso (tp), Roberto Schiano(tb), Daniele Scannapieco (as,ts), Jerry Popolo (as,ts), Pietro Condorelli (g), Francesco Nastro (p), Pietro Ciancaglini (b), Pietro Iodice (ds) となっていますが、それにしてもイタリア人は名前の読み方が正確にわからないので、今回はこのまんまでいきます――
01 Full House
ジャズギターの王様=ウェス・モンゴメリーの自作自演に果敢にも挑戦した演奏です。とはいえ真っ向勝負ではなく、ここに参加している複数のホーン隊を自在に使いこなしたアレンジで逃げている部分が否めません。
演奏そのものも軽く、ハードバップというよりは西海岸風の展開ですが、それでもアドリブパートでは先発のサックス奏者がモードを使って熱く盛り上げています。
そしてホーン・アンサンブルを経て、いよいよ Pietro Condorelli のギターが登場し、ウェス・モンゴメリーのフレーズを借用しつつも、それなりに独自性が感じられるアドリブを聴かせてくれるのですが……。
正直、曲の良さに助けられている演奏です。
02 Del Sasser
キャノンボール・アダレイ(as) のバンドでは定番の最高にカッコ良いハードバップ曲を、Pietro Condorelli はいきなりバリバリと弾きまくり、スカッとしたホーン隊のテーマ吹奏に繋げています。
おまけにサビのメロディの背後では Francesco Nastro のピアノが暴れたり、先発のサックスが熱血ぶりを発揮してくれるので、もう、ウキウキ・ワクワクしてきます。
そして Pietro Condorelli は流麗なフレーズを積み重ね、Fabrizio Bosso は最高にイキの良いトランペットで対抗するのです。あぁ、最高ですねっ♪
これも全体に軽さが目立つ出来ではありますが、それが逆に爽快なのでした。
03 Search For A New Land
これもリー・モーガン(tp) が同名タイトルのアルバムで披露していた大仰なモード曲でした。ここではホーン隊を中心として、そのテーマを忠実に再現、いよいよという時に終わってしまう物足りなさです……???
04 M.L. Samba
一転して Pietro Condorelli が書いた情熱のジャズサンパです。う~ん、実は前曲は、このイントロというか、前奏曲になっていたことに気づかされます。
そしてこれが、ハードバップの美味しい部分を巧みに取り入れた名曲なんですねぇ♪ カッコ良いホーン隊のリフやリズムアレンジもキマッています。
アドリブ先発は、もちろん Pietro Condorelli の流麗なギター! まるっきりジミー・レイニー(g) になっている部分も憎めませんし、モード解釈も上手く取り入れての早弾き、極力ごまかしをしないように力演するあたりも好感が持てます。
さらにここでも、Fabrizio Bosso が柔らかな歌心と爽快なノリで楽しませてくれますね♪ この人は日本では無名に近いですが、間違いなく若手では世界最高峰の実力者だと思います。
05 Finjang
Pietro Condorelli が書いた不思議な情熱曲です。
ただし、ここでの演奏は落ち着かないリズムアレンジというか、場当たり的なテンポチェンジが??? です。しかし、かなり硬派な演奏を目指しているようで、Pietro Condorelli のギターは正統派一直線! Francesco Nastro のピアノもそれに追従していますが、それゆえにイマイチ熱くならない演奏では……?
06 Y Todavea La Quiero
黒人テナー奏者の巨匠=ジョー・ヘンダーソンの作曲になっている情念のモード曲です。
Pietro Condorelli は、どうやらこの手の雰囲気が得意らしく、持ち前の流麗なフレーズを暗い方向に展開させていきますが、ここでは Francesco Nastro のキース・ジャレット系のピアノが圧倒的に素敵です。
そしてそれに触発されたか、再度登場する Pietro Condorelli はロック系のフレーズまでも弾きこんで、プログレ風味の演奏に昇華させる裏ワザを披露するのでした♪
07 Red Apple Jam
ロックビートを内包したポリリズムが嫌味ですが、演奏はプログレ風味のモダンジャスという、ちょっとソフトマシーンみたいに展開していきます。
ただし、それが面白いかといえば、私は否と答えます。
全く意味不明の演奏というか、煮えきりません! CDの利点はこういう部分を簡単にスキップ出来るところですね。
08 Bedouin
初っ端からギターとドラムスの一騎打ちが痛快です。
そして自然に突入していくアフロなテーマは、知る人ぞ知る名ピアニストのデューク・ピアソンが作曲したものです。
アドリブ先発は Francesco Nastro のモード全開ピアノ♪ 全くジャズ喫茶全盛期のフレーズばっかり弾いてくれますねぇ。それはもちろんハービー・ハンコックあたりの影響が大きいわけですが、何となく嬉しくて、素直にノセラれてしまう私です。
また、ここでは Pietro Iodice のドラムスがビシバシとキメまくりですが、やや軽いのが好き嫌いの分かれるところかもしれません。
そして、いよいよ登場する Fabrizio Bosso は、やっぱり最高ですね♪ 私はこの人のコンプリートを目指すかもしれない覚悟になっています。欲を言えば、もう少し「汚れ」が欲しいのですが、まあ、若手ということで……。
肝心のリーダー、Pietro Condorelli はモダンジャズの美味しい部分を拡大解釈したようなモードフレーズの大嵐! それが嫌味になっていないのはベテランの味というところでしょうか、ちょっと一貫性が足りないのが難点です。
09 Ask Me Why
いきなりギターとピアノが2人だけの会話、そこへリズム隊と Fabrizio Bosso が重苦しく参入して始まるスロー曲です。
これは一応、Pietro Condorelli のオリジナルになっていますが、題名から容易に推察出きるように、セロニアス・モンクの名曲「Ask Me Now」の雰囲気が漂っています。
アドリブパートでは、ここでも Fabrizio Bosso のワザとらしい下世話さ満点のミュート・トランペットが微笑ましく、Pietro Condorelli の余裕のギターが逆に必死に聴こえたりします。
まあ、このあたりは全員の真摯な演奏姿勢が裏目に出たのかもしれませんが、こういう律儀な部分は個人的に嫌いではありません。
ということで、モダンジャズ全盛期の作品に比べれば満足出来ない演奏集ではありますが、 Fabrizio Bosso が聴ければ、それで満足の私でした。
惜しむらくはリズム隊が軽いということで、これは録音の所為かもしれません。
やっぱり新しいものは、私には合わないのか……? なんて事を思ったりもします。