やっぱり、梅雨ですね、ジメジメ・ムシムシ……。
こういう時は真夏の我慢大会、逆効果のウサ晴らしを狙って、これを――
■The Book Cooks / Booker Ervin (Bethlehem)
ブッカー・アーヴィンはズバリ、脂っこいテナーサックス奏者です。
そのスタイルの基本はR&B系の所謂テキサステナーなんですが、モダンジャズ全盛期の1950年代後半から頭角を現したということで、コルトレーンからの影響も隠せません。
しかも吹奏が馬力満点というか、投げっ放しのバックドロップというか、野放図で烈しいツッコミが魅力とはいえ、そこが好き嫌いの別れるところです。
もちろん黒人らしいネバリ、激情の泣きもたっぷりなんで、チャールズ・ミンガス(b) のお気に入りとなったのですが……。
そうして注目されて後のこのアルバムは初リーダー盤ということで、参加メンバーも豪華絢爛♪ ブッカー・アーヴィンのパワフルな魅力を全開させるべく、プロデュースも念入りで、全く対照的なスタイルのズート・シムズという大名人を相方に抜擢するという大勝負に出ています。
録音は1960年6月、メンバーはトミー・タレンタイン(tp)、ブッカー・アーヴィン(ts)、ズート・シムズ(ts)、トミー・フラナガン(p)、ジョージ・タッカー(b)、ダニー・リッチモンド(ds) という、なかなかのクセモノ揃いです――
A-1 The Blue Book
ジョージ・タッカーの強靭なベースに導かれて始まる入魂のスローブルースです。このあたりは完全にチャールズ・ミンガスのバンドの様ですし、先発でアドリブを聴かせるトミー・フラナガンまでもが、何時もの洗練されたスタイルを捨てて泥臭いグルーヴを発散させるので、ブッカー・アーヴィンも安心したのか、地を這うような黒~い咆哮! 続くトミー・タレンタインも暗い輝きに満ちたハスキーなブルース衝動に撤しています。
そしてお待ちかね、ズート・シムズはやっぱり上手い! 滑らかなドライブ感に満ちた余裕の瞬間芸をたっぷりと披露しています。
また全篇をがっちり支えつつ烈しく蠢動しているジョージ・タッカーのベースも特筆物です。
A-2 Git It
ゴスペル調の楽しいハードバップとくれば、もうブッカー・アーヴィンには十八番ですが、トミー・タレンタインも大ハッスル♪ お約束のフレーズを連発してシンプルに露払いを務めています。
そしてズート・シムズは本領発揮のグルーヴィな名人芸を聴かせますが、白人らしいスマートな感覚と秘めた黒さのバランスが秀逸! それはトミー・フラナガンも同様で、洒落た感覚を大切にしつつも黒人ジャズ本来のノリを大切にしていて好感が持てます。
こうして、いよいよ登場するのがブッカー・アーヴィン♪ コルトレーンのスタイルを借用しつつも、基本であるR&Bのフィーリングを蔑ろにしないスタイルは節操が無いという声も聞こえますが、このクサ~イいノリは唯一無二です。
またチャールズ・ミンガスのバンドでは盟友のダニー・リッチモンドがシャープなドラムスで煽るまくりなので、油断が出来ない雰囲気なのでした。
A-3 Little Jane
この気だるいムードがハードバッブ爛熟期の証とでも申しましょうか、とにかく重たい雰囲気がチャールズ・ミンガスの好んだスタイルのコピーのような演奏になっています。
したがってブッカー・アーヴィンにとっては手馴れたものなんでしょうが、それでも緊張感を失っていないのは流石です。
ただし個人的には、ここまでがドロドロの3連発になっているので、真夏に炬燵で鍋焼きウドンを食っているかのような、我慢大会モードに入ってしまいます……。ズート・シムズの存在が清涼剤か……?
B-1 The Book Cooks
ブッカー・アーヴィンが初っ端からアップテンポで烈しい吹奏を展開し、お約束の単純なリフが付いているという、アドリブ命の曲です。
これはブッカー・アーヴィンにとっては十八番でしょうが、ズート・シムズも負けていません。否、むしろ水を得た魚状態で吹きまくり、もちろん歌心も全開♪
続くトミー・フラナガンはベースとのデュオからドラムスを従えて、完全に自己のトリオ・セッションのようです。
そしてクライマックスは2大テナーサックスのバトル大会! もちろん丁々発止の展開ですが、リーダーがどんなに頑張ってもズート・シムズの余裕が目立つと言う、皮肉な結末と感じるのは私だけでしょうか? 本当に何を吹いても上手い人です♪
あぁ、汗びっしょりでスカッとします!
B-2 Largo
暗い情念に満ちたブッカー・アーヴィンのオリジナルで、雰囲気はまたまた重苦しい方向に流れていきます。はっきり言うと、私には全く面白くない演奏なので、ここはトミー・フラナガン中心に聴いてみると、おぉ、やっぱり名盤請負人の証明がっ♪ 繊細なコードでの伴奏から深いエモーションに彩られたアドリブソロまで、流石です。
B-3 Poor Butterfly
このアルバムでは唯一のスタンダード曲を軽やかに演奏するブッカー・アーヴィは、意想外の魅力があります。それは素直な歌心とテナーサックス王道の音色♪
ただしアドリブパートでは何時もの投げやりフレーズとかヒステックな節回しが出てしまい……。
しかしズート・シムズとトミー・フラナガンが洒落た歌心をたっぷりと披露してくれるので、ようやく私も安心出来るのでした。
短い演奏ですが、和みます♪
ということで、グロテスクな部分、ヒステックな部分を含みつつ、やはりこれもジャズの楽しさを詰め込んだアルバムだと思います。
なによりもミスマッチの魅力というか、濃厚なビールと極上ワインの味比べというようなプロデュースに仰天♪ もちろんブッカー・アーヴィンとズート・シムズの対決の場を指しているわけですが、どっちがどっちかは、言わずもがな!
またリズム隊も地味ながら凄いグルーヴを発散しており、実はドラムスとベースだけ聴いていても満足してしまう瞬間が、多々、あるのです。
ジャズって、本当に怖いですね。
肝心のブッカー・アーヴィンは、この後も何枚かのリーダー盤を出していて、それは全てジャズ喫茶の人気盤でもありますが、残念ながら1970年に40歳で亡くなっています。合掌。