OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

忘れえぬ人

2006-06-20 17:32:37 | Weblog

ちょっと前に書きましたが、マスコミの身勝手さには嫌悪感があります。

そういえばジャズマスコミでも、その犠牲者みたいなミュージシャンがいましたねぇ。そこで本日の1枚は――

Hollywood Madness / Richie Cole (Muse)

大ブームだったフュージョンが爛熟し、ジャズが伝統的な4ビートに回帰しようとしていたその狭間に、嘗てひとりの大スタアが出現し、アッと言う間に消えていきました。

それがリッチー・コールという白人アルトサックス奏者です。フィル・ウッズ(as) の弟子として超人的なテクニックを身につけていたそのスタイルの源は、師匠と同じくチャーリー・パーカー(as) 直系のビバップ派でしたが、演奏そのものは全くノーテンキというか、楽しければ何でも有り♪ つまり4ビートに拘りながらも、その実態はコミックバンド的なノリや祭の見世物的な胡散臭さに満ちていました。

もっとも、それは今だから言えることで、当時=1970年代末頃にはジャズマスコミが挙ってリッチー・コールを褒め称え、ジャズの救世主的な扱いをしていたのです。当然、我国のジャズ喫茶でも忽ち人気者になり、恐らくレコードもガンガン売れていたはずです。

何しろ聴いていて痛快な演奏が多いですし、特に4ビートを基調としたところに、フュージョンでジャズから離れていったファンが飛びついたというわけです。

このアルバムは、そんなリッチー・コールの人気絶頂時に作られた豪華絢爛な作品です。録音は1979年4月25日、メンバーはリッチ・コール(as)、ブルース・フォアマン(g)、ディック・ヒンドマン(p)、マーシャル・ホーキンズ(b)、レス・デミリエ(ds)、ミッシェル・スピロ(per) という当時のレギュラーバンドを中心に、マンハンッタン・トランスファー(vo)、トム・ウェイツ(vo)、エディ・ジェファーソン(vo) 等々の豪華ゲストが加わっています――

A-1 Hooray For Hollywood
 冒頭からアップテンポで演じられるハリウッド賛歌は、痛快なビバップ・フレーズで彩られています。ただしリッチー・コールの吹くそれは分かり易く、ビバップの特色であるエキセントリックな部分までも、現代的に翻訳してあるという按配です。
 もちろんリズム隊も的確なビートを送り続けていますし、ピアノのアドリブパートなんか、律儀なサーカス芸♪ ドラムスとリッチ・コールの対決さえも楽しさ優先になっているのでした。
 ちなみにここでのベースはボブ・マヌグッセンが臨時参加しています。

A-2 Hi-fly
 ラテンリズムを使った楽しい演奏で、当時のリッチー・コールのバンドでは十八番としてライブの場ではハイライトになっていた人気演目です。
 実際、聴いていてウキウキして困るほどの快演♪
 ちなみにこの頃から普及し始めた映像ソフトとしてのリッチー・コール作品では、この曲が大きなウリになっており、そこではボビー・エリンケスという野人のようなピアニストが大曲芸演奏を展開していますよ♪
 で、ここでの演奏はそれに優るとも劣らないもので、リーチー・コールの余裕とサポートメンバーの力演が光りますし、終盤にはマンハンッタン・トランスファーのコーラスを従えて、黒人ビバップ歌手のエディ・ジェファーソンが味のあるスキャットを聴かせてくれます。

A-3 Tokyo Rose Sings The Hollywood Blues
 明るい哀愁がある泣きのブルースという不思議な雰囲気ですが、そのキモはやっぱり分かり易さです。したがって、???と思ってはいても、結局、聴いていて気持ち良くなってしまうのですねぇ♪

A-4 Relaxin' At Camarillo
 チャーリー・パーカー(as) が自作自演したビバップの名曲に果敢に挑戦するリッチー・コールという、全く絵に描いたような4ビートの世界です。
 つまり、あまりにもプロデュースが先行しているところに嫌気がさすのですが、実際の演奏は見事という他はありません。エディ・ジェフーソンのビバップ・スキャットも流石のノリですし、バンド全体のコンビネーションもスッキリと纏まっています。
 まあ、そういうところが、またまた作り物の臭いに満ちているわけですが、当時はここまで楽しく、また完璧に王道ジャズの凄さを演じられるバンドが無かったのが実状でしたから、ジャズ喫茶では人気を呼んだというわけです。

B-1 Malibu Breeze
 これもラテンリズムの歌謡曲なテーマが魅力です。このあたりはサンタナ風でもあり、私は何時かこのバンドが「哀愁のヨーロッパ」を演奏したら恐いなぁ、とか思っていました……。
 さて、それにしても楽しい演奏です。辛口のファンからは様々な批判を受けても、リッチー・コールの歌心は本物だと、私は思います。したがって素直に楽しんで良いはずなのですが……。

B-2 I Love Lucy
 お馴染み「ルーシー・ショウ」のテーマで、ハリウッド的ノーテンキの最深部に迫るリッチー・コールは最高です。しかもラテン・リズムを使ったアレンジがゴキゲン♪ 強烈なアップテンポのフレーズを吹きまくって全く破綻しないリッチー・コールは流石に凄い人で、リズム隊との関係も良好です。
 ちなみにこのバンドは白人主体ですから、ハードバップ的な本格王道のノリは無いのですが、それを逆手に取った軽さの中にジャズの楽しさを追求した姿勢が、当時は新しかったのです。

B-3 Waitin' For Waits
 孤高のシンガー・ソングライター=トム・ウェイツに捧げたリッチー・コールのオリジナルです。もちろんその演奏は楽しさがいっぱい♪
 エディ・ジェファーソンがリードする歌唱のパートにはマンハンッタン・トランスファーのコーラスが加わり、さらには大団円でトム・ウェイツ本人までもが乱入するという豪華絢爛なクライマックスが待っています。
 もちろんリッチー・コールのアルトサックスも冴えていて、正直、何度聴いても好きです♪ と、ほとんど愛の告白になってしまいました♪

B-4 Hooray For Hollywood (Reprise)
 A面冒頭の曲をスローで再演して結びにするというトータル性を持たせたあたりに、このアルバムの作り物的な性格が現れています。
 しかも演奏がマンハンッタン・トランスファーのコーラスを主体にしたもので、リッチー・コールは何処に? という状況ですから!
 つまり正統派ジャズを装っていながら、実態はフュージョンと同じ手法で作られた作品というのが結論です。

ということで、非常に楽しいアルバムではありますが、この後、リッチー・コールの人気は急降下! 時代はウィントン・マルサリスの登場によって4ビート復権が急速に進みます。それはやはり、ジャズは黒人が演奏してなんぼ、という真実の世界ではありますが、極言すると、そこに至るまでにリッチー・コールがマスコミによって使い捨てにされたことは否定出来ません。なにしろ新伝承派と称されたマルサリス一派を持ち上げる当時のジャズ・マスコミの勢いは物凄く、リッチー・コールなんて……、という本音とも嘲りとも言える扱いに転換していくのです。

そして今ではリッチー・コールの諸作品がCD化されているか否かもわかりません。しかし新伝承派による4ビート復興の直前に、例え演技がミエミエでも、4ビートでファンを興奮させていたリッチー・コールという白人がいたことは、忘れられない思い出になっているのでした。

コメント (2)
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