昨夜はPCの電源トラブルでアップ出来ませんでした。
なんとか今朝になって復旧したのですが、そのおかげで、再びジャズモードに入ることも出来ました。
そこで――
■Leapin' And Lopin' / Sonny Clark (Blue Note)
ハードバップの名ピアニストであるソニー・クラークは、日本だけで突出した人気があると言われています。
なにしろソニー・クラークを見初めて自分のレーベル=ブルーノートで頻繁に録音したプロデューサーのアルフレッド・ライオンですら、ソニー・クラークのリーダー盤が日本だけで良く売れることに首をかしげた、という逸話があるほどです。
ソニー・クラークの魅力とは、一抹の泣きを含んだアドリブ・メロディの妙、けっして派手では無いビアノ・スタイルの中に、そこはかとなく漂う哀切の雰囲気、さらに本当に日本人の琴線にふれる作曲能力♪ おまけに黒人らしい粘りがありながら、嫌味にならないそのタッチ等々、聴くほどに味が染みてくる名手だと思います。
ただし、地味なところは否めません。ウィントン・ケリーのように溌剌・颯爽としたところもないし、オスカー・ピーターソンのようなド派手なテクニックの開陳も無く、バド・パウエルのようなエキセントリックなところは当然無く、ハンク・ジョーンズやアル・ヘイグのような趣味の良さもありません。
たった一言、ファンキーです!
しかし、ちょっとこのあたりは、1回聴いただけではピンッとこないのが本当だと思います。それだけに魅力に目覚めると、完全に虜になるのでした。
このアルバムは早世する前年に作られた最後のリーダー盤で、録音は1961年11月13日、メンバーはトミー・タレンタイン(tp)、チャーリー・ラウズ(ts)、ソニー・クラーク(p)、ブッチ・ウォーレン(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) を中心に1曲だけ、アイク・ケベック(ts) のワンホーン・セッションが組み込まれています――
A-1 Somethin' Special
いきなり仄暗い雰囲気が横溢したテーマが始まり、それだけでソニー・クラークの世界にどっぷりと惹きこまれます。もちろんこれはソニー・クラークのオリジナルですが、こういう作曲の上手さが魅力であることは言わずもがなです。
アドリブ先発のチャーリー・ラウズもそのあたりは充分に心得ているようで、アクの強いフレーズを織り交ぜながらハードバッブに撤していて見事です。と言うのも、この人は当時、セロニアス・モンクのバンド・レギュラーとして、何時も同じようなフレーズばかり吹いていたので、ここでのちょっと色合の異なったアドリブは新鮮なのでした。やはり実力者の証明?
そして続くトミー・タレンタインのトランペットが暗い輝きに満ちています。この人も超一流では無く、味の世界で勝負するタイプなので、この曲想はジャストミート♪
肝心のソニー・クラークはソロパートでは何時もと変わらぬ哀愁のフレーズを連発してくれますが、ホーン陣のソロのバックで聴かせる絶妙なコード弾きと斬り込んでいくようなカウンター気味の伴奏が、ジャズ者にはお気に入りではないでしょうか。
A-2 Deep In A Dream
ここでは前曲でのホーン陣2人が抜けて、アイク・ケベックが入ったワンホーン編成となり、スタンダードのスロー曲がじっくりと演奏されます。
まずソニー・クラークが泣きのテーマを素直に泣かせてくれるところが好感度、大♪ 実はこういうところが、モダンジャズではなかなか無いのですね。
そしていささかオールド・ファッションなアイク・ケベックのムード・テナーが、またまた素直にテーマ・メロディを変奏していくのですから、もう、たまりせん♪ このアルバムが人気盤なのは、この1曲があるからと言っても過言では無いのです♪ う~ん、ソニー・クラークの素直さの秘密は、アイク・ケベックの参加にあったのか……。
夜のムードにはぜひ、どうぞ。必ずオチます。ってなにが……。
A-3 Melody For C
如何にもソニー・クラークらしいハードバップの名曲・名演です。なにしろテーマからしてウキウキと、本当にジャズの楽しさに溢れています♪ リズム隊も快適♪
そしてアドリブパートでは、まずチャーリー・ラウズが中庸度が高いソロを披露すれば、トミー・タレンタインもジンワリと己の味を出しまくりです。
するとソニー・クラークはそのバックで叩きつけるようなコード弾きを爆発させ、続けて流麗なファンキー・ピアノを聴かせてくれるのです。
もちろん全体としては派手な演奏ではありません。しかしそこが如何にもソニー・クラークという世界♪ そこはかとない哀愁がたっぷり♪ その場にはテーマだけ聴いて満足したりする私がいます。
B-1 Eric Walks
ベーシストのブッチ・ウォーレンが作曲したアップテンポのハードバップで、何よりもリズム隊が好調なので、気持ち良くなります。そしてソニー・クラークはバド・パウエルの影響下にあるフレーズで勝負しているのですが……。
B-2 Voodoo
このアルバムの中で私が一番好きな演奏が、これです。
暗い雰囲気の中、ベースがムードを設定し、ソニー・クラークのファンキーなピアノを中心にテーマが演奏されるところで、私は悶絶してしまいます。
アドリブ先発のチャーリー・ラウズも本領発揮のハードなソロを聴かせてくれますが、トミー・タレンタインだって負けていません。
そしてやはりソニー・クラーク! 全篇、ファンキーの塊のような演奏で、気がつけば、もう、あたりは真っ黒です。このネバリ、ファンキーな音の選び方、曲想の妙♪ 何度聴いても飽きません!
B-3 Midnight Mambo
オーラスはトミー・タレンタインが作曲したハードバップ・マンボ♪ これが楽しいんだか哀切の情なのか、ちょっと混濁した雰囲気があって、不思議な気分にさせられます。
しかしアドリブパートはモード調が入った新しい解釈になっていて新鮮というか、それ故にトミー・タレンタインはマイルス・デイビスになったりするのですが、ソニー・クラークは完全にマイペース♪ こういう次なるステップが上手くいっていただけに早世が惜しまれてなりません。
ということで、ソニー・クラークは結局、悪いクスリが止められず、31歳で亡くなっています。その残された演奏からは、確かにソニー・クラークという優れたピアニストの存在が確認出来ますが、本人は自己の才能について、どう思っていたのでしょう……。クスリ代を稼ぐためにジャズを演奏していたとしたら、こんなに哀しいことはありません。
本国では全く人気が無く、良い仕事にも恵まれなかったソニー・クラークは、日本では人気者という真実を知らずにいたのでしょう。全く人生には答が無い……。そんな想いで聴くこのアルバムは、ますますホロ苦い雰囲気に満たされていくのでした。