夏に向かって、いろいろとサングラスを物色していたら、急にこれが聴きたくなりました。
それにしてもジャズメンはお洒落な人が多いですね――
■A Night At The Village Vanguard / Sonny Rollins (Blue Note)
なんだかんだ言っても、つまるところ、モダンジャズの真実はアドリブの凄み! これに尽きると思います。
いかに聴き手を圧倒し、あるいは和ませることが出来るか!?
それを即興演奏という瞬間芸で表現しなければならないところに、ジャズ演奏者の苦悩と歓喜があるんじゃないか? 等とド素人の私は思うわけですが、そんな事を超越した自然体でアドリブ出来る天才が実在するところに、ジャズの恐ろしさがあるわけです。
本日の主役たるソニー・ロリンズは、当にその天才! 絶好調時にはどんな共演者でも太刀打ち出来ない破天荒な凄みと余裕が表出されますが、このアルバムは、その証の1枚で、しかもアドリブの出来が全てというライブ録音です。
録音は1957年11月3日、ニューヨークの名門クラブ「ヴィレッジ・バンガード」で行われ、メンバーはソニー・ロリンズ(ts) 以下、昼の部がドナルド・ベイリー(b) とピート・ラ・ロッカ(ds)、夜の部がウィルバー・ウェア(b) とエルビン・ジョーンズ(ds) というピアノレスのトリオ編成です――
A-1 Old Devil Moon (夜の部)
エルビン・ジョーンズの叩き出すラテンリズムも鮮やかですが、それに絡むウィルバー・ウェアの変態ベースが、まず絶品です。
しかしソニー・ロリンズは全く余裕のマイペースで、緩急自在のノリと痛快な破天荒フレーズの連発! しかも、今、曲の何処を吹いているか、ちゃーんと分かる歌心が絶妙で、これはスタンダード解釈の極北かもしれません。
こうなると流石のエルビン・ジョーンズも激烈4ビートで対抗せざるをえませんが、その背後で隙間を埋めるように蠢動するウィルバー・ウェアのベースが、また聞き物です。
実は白状すると、初めてこのアルバムを聴いた瞬間から、私はウィルバー・ウェアの裏街道的なベースの虜になり、ここでもそれ中心に聴いていたのですが……。
A-2 Softly As In A Morning Sunrise (夜の部)
ここでもいきなりウィルバー・ウェアの変態ベースが炸裂し、ソニー・ロリンズがおずおずと様子を見るかのようにテーマを吹奏するところが、憎めません。もちろん、その背後ではエルビン・ジョーンズのブラシが粘っこく蠢き、さらに「ゲロゲロ」と呻き声まで出してソニー・ロリンズを煽るのですが、流石は天才! 全く動じることなく、マイペースでテーマメロディを変奏していくのでした。
というわけで、ここではウィルバー・ウェアのベースが何よりも聞き物で、その飛んだり跳ねたり蠢いたりする変幻自在の弾けっぷりには、素直に脱帽です。
A-3 Striver's Row (夜の部)
お待たせしました♪ ソニー・ロリンズが自ら作曲したオリジナルでアドリブの真髄を披露してくれます。あぁ、このノリ! このドライブ感! さらにジョン・コルトレーンも真っ青な音の詰め込み! こんな演奏が出来ていたソニー・ロリンズですから、後年、ジョン・コルトレーンがシーツ・オブ・サウンドで売り出しても恐くなかったはずですが……。
それはエルビン・ジョーンズとの対決に圧勝しているところからも明確ですが、天才はこれでも満足出来ないという証なんでしょうか……。
B-1 Sonnymoon For Two (夜の部)
これも有名なソニー・ロリンズのオリジナル・ブルースなので、徹底して緩急自在なアドリブを展開するバンドの勢いは、誰にも止められません。全体としてはハードバップのブルース演奏から逸脱している瞬間がたっぷりあるのですが、エルビン・ジョーンズのポリリズムが強烈なので、全く気にならず、否、むしろそこが痛快です。
ウィルバー・ウェアも変態性を隠して王道のバッキングに撤していますが、ソロ交換時には本性を露呈してしまうあたりが、ジャズの面白さでしょう。
B-2 A Night In Tunisia (昼の部)
この曲だけが昼の部からの演奏で、メンバーはドナルド・ベイリー(b) とピート・ラ・ロッカ(ds) に交代していますが、彼等は当時新進気鋭の若手として注目されていたようです。
そしてこのピート・ラ・ロッカが、エルビン・ジョーンズとは似て非なるものというか、やや違った味で素晴らしく、私は最初にこのアルバムを聴いた時、エルビン・ジョーンズよりも気に入っていました。
肝心のソニー・ロリンズは、もちろん激烈です! お馴染みのテーマから爆発的なブレイク! そして怒涛のアドリブには共演者がついて行くのがやっとです。しかしその必死さが、逆に演奏全体から発散される強烈なスリルの源でしょう。
ソニー・ロリンズも全く遠慮会釈の無い突進ぶりで、とにかく凄い!
B-3 I Can't Get Started (夜の部)
烈しい演奏が続いたこのアルバムの締めは、有名スタンダードが歌心満点に披露されるという和みの大団円です。
それにしても、このゆったりとしたテンポの中でビートの芯を失わないバンドの纏まりは最高♪ 3人がバラバラをやっているようで、実は到達点が同じという暗黙の了解が見事です。
もちろんソニー・ロリンズはアドリブの極致に挑戦し、完全制覇の大偉業を成し遂げているのでした。
ということで、これは名盤の中の大名盤ですが、後年、この時の残り録音が公表されてみると、実は演奏の出来にムラがあったことが明らかになりました。したがって、如何にこのアルバムがベストのテイクだけで構成されていたかが分かります。
あぁ、全盛期のソニー・ロリンズと言えども、常に最高な演奏ばかりでは無かった……、と私のような凡人は安心したわけですが、しかし、それだからと言って、このアルバムの価値は下がることなど無く、永久不滅なアドリブ芸術の頂点を記録していることも、また事実です。テーマメロディという素材を、完全に自分の中に引き寄せてしまうアドリブ能力は、ジャズ史上でも屈指のものでしょう。
これぞモダンジャズ! 聴けば納得、誰しも文句のつけようがないはずです。
ジャケ写は完全に何処ぞの世界の顔役という、ロリンズの押しの強さを表していますね♪