今日は美味いと評判のラーメン屋に連れられていかれましたけど、正直言って、ちっとも美味くなかったという1日でした。お客さんは満員だったんですけどねぇ……。
本当に美味いのか、尋ねてみたくなりました。
まあ、連れて行ってくれた人が「美味かったでしょう♪」とキメつけるので、曖昧な相槌だけは打っておきましたけど、それが私のイケナイところですね。
はっきり物が言いたいなぁ……。
ということで、本日は常に厳しく大衆的なこの人のアルバムを――
■Smackwater Jack / Quincy Jones (A&M)
ポビュラー音楽界のドン、クインシー・ジョーンズが1971年に発表した名作中の大名作です。
クインシー・ジョーンズといえば、当時からあらゆる音楽に精通した稀代のアレンジャーとして有名でしたが、同時に音楽の大衆性を大切にした製作志向も業界では大いに評価されていました。
なにしろジャズでは自らビックバンドを率いていましたし、プロデューサーとしては白人アイドルのレスリー・ゴーアを売り出し、ブラック・ミュージックではレイ・チャールズの盟友として素晴らしい共同作業を残しているのは、氷山の一角にすぎません。
さらに映画音楽の分野でも秀逸な作品を多数手がけ、そうして培った人脈を次の仕事に活かしていく手腕と人望は、本当に大したものだと思います。
この作品のレコーディング・セッションにも、そうした人脈から多くの優れた人材が参集しており、まずリズム隊だけでもグラディ・テイト(ds)、ポール・ハンフリー(ds)、レイ・ブラウン(b)、チャック・レイニー(elb)、キャロル・ケイ(elb)、ボブ・ジェームス(key)、ジョー・サンプル(key)、ジミー・スミス(org)、エリック・ゲイル(g)、ジム・ホール(g)、ジョー・ベック(g) 等々、書ききれないほどです。
またメインゲストにはフレディ・ハバード(tp)、ミルト・ジャクソン(vib)、トゥーツ・シールマンス(g,hca)、ヒューバート・ロウズ(fl)、ハリー・ルーコフスキー(vln)といった超大物が顔を揃えています。
そしてもちろん、ブラス&リード、木管隊、さらにコーラス隊にも、当時のスタジオ系ミュージシャンの一流どころが集められているのですから、クインシー・ジョーンズの緻密なアレンジが完璧に表現されているのです――
A-1 Smackwater Jack
私の大好きなキャロル・キングの名曲を、クインシー・ジョーンズはメチャ、ソウルフルに料理してくれました。
まずイントロは擬似チョッパー・ベース! そしてソウル魂全開の女性コーラスとブル~ス満開のハーモニカ♪ 黒くてソフトなリードボーカルは、何とクインシー・ジョーンズです!
あぁ、自然と腰が浮いてしまいますねぇ♪ 浮遊感のあるキーボードも素敵ですが、元々、原曲にはソウル味が秘められていましたから、それをクインシー・ジョーンズは最高に美味しく引き出してしまったというわけです。
A-2 Cast Your Fate To The Wind
一転してゴスペル風味が漂うテーマが、複数のキーボードによって柔らかく演奏されていきます。もちろんリズム隊はタイトでルーズという、矛盾したビートを打ち出しているんですが、それが当時のニューソウルの決め技でした♪
ギターソロはエリック・ゲイル、生ピアノはボビー・スコットだとライナーにはありますが、私はリズム隊中心に聴いてゴキゲンです♪
A-3 Ironside
出ました! 「ウィークエンダー」のテーマじゃありませんよ! ハリウッド産の警察テレビドラマ「鬼警部アイアンサイド」のテーマです。
う~ん、それにしてもインパクトのあるイントロですねっ♪ 皆様、一度は聴いたことがあるはずですよ。
またテーマを奏でるヒューバート・ロウズのフルートがハードボイルドですし、シャープなブラス隊と暖かい隠し味になっている木管群の対比も鮮やかです。
アドリブパートはジェローム・リチャードソンのソプラノサックスに続き、一転して4ピートでフレディ・ハバードが十八番のフレーズを吹きまくり、16ビートに戻してヒューバート・ロウズが締めくくりのフルートソロという鮮やかさです♪
全体に打楽器が効果的に使われていますし、なによりもオーケストラ編曲が最高という、当にクインシー・ジョーンズの魔法が全開した名演です。
A-4 What's Going On
ギョエ~! マービン・ゲイ畢生の名作をクインシー・ジョーンズが素晴らしく焼き直してしまいました。
なにしろエレピとフルートが絡むイントロからテーマが、ソフト&メローの極致! もちろんリズム隊も素晴らしく、ジワ~ッとくる女性コーラスも最高です。
そしてリードボーカルは、ここでもクインシー・ジョーンズがソフトにキメてくれますが、この人は子供の頃からゴスペル合唱隊で活躍していましたし、何よりも音楽を良く知っているので、妙な力みが無く、好感が持てます。
さらに凄いのがアドリブパートで、まずは4ビートでフレディ・ハバードが白熱のトランッペットソロ! 一転して16ビートに戻してトゥーツ・シールマンスの口笛からミルト・ジャクソンのヴァイブラフォン、そしてまたまた4ビートでジム・ホールの神業ギターが飛び出すのですから、もう、たまりません♪
もちろん背後ではソウルフルなコーラスと膨らみのあるブラスが躍動し、タイトなリズム隊も秀逸です。ジャズとソウル、ロックはこう交じるべきというお手本のような演奏ですが、クライマックスではハリー・ルーコフスキーの超絶バイオリンがエキセントリックに登場して、不安と緊張の一幕を演出していきます。
こうして盛り上がった大団円を彩るのがトゥーツ・シールマンスのハーモニカ! 全く最後まで息がつけない濃密さです。
B-1 Them From The Anderson Tapes
クインシー・ジョーンズが音楽を担当した映画「盗聴作戦」のテーマを、ここでは西海岸の名アレンジャーであるマーティ・ペイチの手を借りて再構築、ミステリアスな哀愁のテーマがさらに膨らみ、緊張感と安らぎが交錯した素晴らしい仕上がりになっています。
もちろんジャズとしての主題も大切にされ、ミルト・ジャクソンのヴァイブラフォンが素晴らしい味♪ 背後を彩るギターやシンセサイザーも素晴らしく、最後にはトゥーツ・シールマンスのハーモニカが激情を吐露するのでした。
B-2 Brown Ballad
このアルバムではリズム隊の要として大活躍する名人ベーシストのレイ・ブラウンが作った哀愁曲です。
もちろんクインシー・ジョーンズのアレンジは深みのある音使いに加えて、ソロイストとしてトゥーツ・シールマンスのハーモニカをメインに起用、またジム・ホールのギターも良い感じです。
う~ん、このスローな展開は、最高の心地良さ♪
B-3 Hikky-Burr
アルバムのライナーによれば、アメリカの人気黒人芸人=ビル・コスビーが司会をするテレビショウのテーマらしいです。
なかなか躍動的&ファンキーな演奏で、素っ頓狂なボーカルというか掛声はビル・コスビー本人によるものですが、とにかく動きまくりのエレキベースはチャック・レイニーか? 最高です♪ ちなみに口笛とギターのユニゾンはトゥーツ・シールマンスの十八番芸、ツボを押さえたオルガンはジミー・スミスでしょう。
するとタイトなドラムスはポール・ハンフリー? 何せ、このファンキー節には腰が浮きまくりです♪
B-4 Guitar Blues Odyssey From Roots To Furits
さて、これが問題の演奏です。
内容はギターを通じてアメリカ音楽史を描いたもののようで、まずは素朴なカントリーブルースに始まって4ビートのスイングジャズ、ビバップからハードバップに流れは続き、それらが折り重なるようにギターの饗宴が続くのです。
しかしこれがタイトルどおりにブルースの感覚があるかといえば、私は否としか答えられません。なんとなく様式美に落ちこんでしまったかのような……。
おまけにブルースロックの世界までも描きだしたのは、???ですし、続けてハードロック~サイケロックにまで突っ込んでいくのです。
もちろん演じるギタリストはジム・ホール、エリック・ゲイル、ジョー・ベック、トゥーツ・シールマンスという名人揃いなんですが……。
そして最後は収拾がつかなくなったという雰囲気で、音のコラージュが展開され、またまた???です……。
まあ、最後には一応、正統派ブルースの世界に舞い戻るのですが、クインシー・ジョーンズの才気が空回りしたとしか、私には思えません。ただし妙な説得力があるのは確かです。
ということで、全曲、最高に面白く聴いて納得の演奏ばかりです。そしてもちろん、フュージョンの原点ともいうべき仕上がりになっているのですが、クインシー・ジョーンズは、あくまでもジャズと言う視点を蔑ろにしていません。
いや、拘ったというべきでしょうか。
しかしそういう部分が4ビートとして現れた時、それが本当に必要なのか? という疑問がつきまとうのも、また事実でした。
その所為か、クインシー・ジョーンズはこの後、ますます大衆路線を追求しつつ、4ビートを捨てていくのですが、ジャズ魂は失うことがありませんでした。それ故に仕上がりが散漫な作品もあるのですが、このアルバムはその分岐点にあって、最高にバランスのとれた1枚だと思います。
楽しく聴いて、聴くほどに味が出る作品です。