OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

やっぱり夏はボサノバ!

2007-08-11 16:31:59 | Weblog

全く、暑い1日でしたから、映画館に非難してきました。

しかし表に出ると熱い、暑い!

こんな時は定石どおり、クールなボサノバしかありませんね――

Jazz Samba Encore ! / Stan Getz & Luiz Bonfa (Verve)

新しいブラジル音楽であったボサノバが世界に広まったのは、スタン・ゲッツとヴァーブレコードの貢献があってこそだと思いますが、その端緒となった1962年のアルバムは、ボサノバではなくて、「ジャズサンパ」と題されていました。

さらに続けて出たのが「ビックバンド・ボサノバ」という、スタン・ゲッツのクールサウンドをゲイリー・マクファーランドのアレンジが彩ったアルバムですから、ジャズサンバとボサノバは同じなのか? あるいは別物なのか? 私なんか、ちょっと素朴な疑問にとらわれてしまいます。

で、路線3作目として作られたのが、本日のアルバムで、タイトルはズバリ「ジャズサンバ・アンコール!」です。しかも今回の共演者は、本場ブラジルのギタリストであり、民族音楽の研究家でもあったルイス・ボンファというのがクセモノ♪

結論から言うと、お洒落な感覚の中に土着的な色合が出た傑作盤となりました。

録音は1963年2月、メンバーはスタン・ゲッツ(ts)、ルイス・ボンファ(g)、マリア・トレード(vo)、アントニオ・カルロス・ジョビン(g,p,per)、ジョージ・デュビビエ(b)、トミー・ウィリアムス(b)、Don Payne(b)、デイブ・ベイリー(ds,per)、Paulo Ferreira(ds,per)、Jose Carlos(ds,per) 等が入れ乱れたセッションです――

A-1 Sambalero (1963年2月8日録音)
 心に滲みる胸キュンメロディが最高の名曲です。ハミングボーカルのマリア・トレードは、アストラッド・ジルベルトとは違った味わいの涼しさが大きな魅力ですねぇ~♪
 演奏そのものはアドリブが少ししかない短いものですが、それがまた、良いんです。
 とにかく私には、棺桶の中でも聴きたいという、お気に入りになっています。

A-2 So Danco Samba (1963年2月8日録音)
 これはお馴染み、この後に吹き込まれる「ゲッツ~ジルベルト」でも印象的だった洒脱なボサノバ♪ スタン・ゲッツのクールで熱いテナーサックスも印象的ですが、ルイス・ボンファの予想外にジャズっぽいギターソロが最高です。
 そして聞き逃せないのが、作者であるアントニオ・カルロス・ジョビンが弾くリズムギターの素晴らしさ♪ これぞボサノバの真髄だと思います。

A-3 Insensatez (1963年2月8日録音)
 これも有名なボサノバのスタンダードで、確か邦題は「お馬鹿さん」でしたね♪ ここでは期待通り、マリア・トレードの爽やかボーカルが聴かれますが、どこか土着的な味わいが魅力的です。
 もちろんスタン・ゲッツのテナーサックスはムード満点ですし、アントニオ・カルロス・ジョビンのピアノが、シンプルで良い味出しまくりです♪

A-4 O Morro Nao Tem Vez / 悲しみのモロ (1963年2月8日録音)
 これもアントニオ・カルロス・ジョビンが書いた超有名曲♪ そして聴けば誰しも納得の名演になっています。
 まずスタン・ゲッツがクールな音色で歌心いっぱいのアドリブを聞かせれば、ルイス・ボンファのギターも味わい深いメロディを弾きまくりです。
 またリズム隊がジャズっぽさを強調したノリで、特に左右のスピーカーに分かれて印象的なペースを聞かせるジョージ・デュビビエとトミー・ウィリアムスの存在は強烈!
 ですから後半はバンドが一丸となった粘っこい雰囲気で、まさにジャズサンバの魅力が全開しています。

A-5 Samba De Duas Natos (1963年2月9日録音)
 原題は「トゥー・ノート・サンバ」という意味らしく、もちろん有名曲の「ワン・ノート・サンバ」を意識した演目です。
 軽快なリムショットとルイス・ボンファのリズムギター、リズミックなスタン・ゲッツのテナーサックス、そしてマリア・トレードのラララのボーカルが素晴らしい限り♪
 アドリブパートでは、ルイス・ボンファがスパニッシュ調のギターソロを聞かせてくれるのも、意味深かと思います。

B-1 Menita Flor / 私の花 (1963年2月9日録音)
 マリア・トレードとルイス・ボンファが共作した素敵すぎる名曲です。クールなテナーサックスのスタン・ゲッツは、せつなさも滲ませた好演ですが、ここではマリア・トレードのボーカルが最高ですねぇ~♪ ちょっと土着的な味わいがあって、たまりません。
 またルイス・ボンファのギターソロも完璧に出来すぎ! 何度弾いても、このフレーズしか出ないんじゃないでしょうか。

B-2 Mania De Maria (1963年2月9日録音)
 これも前曲と同じ作者による曲作ですが、確かマリア・トレードとルイス・ボンファは結婚していたような……。
 まあ、それはそれとして、アグレッシブなルイス・ボンファのギターが強烈で、スタン・ゲッツが押され気味……。その所為か、フェイドアウトが勿体無いところでした。

B-3 Saudade Vem Correndo (1963年2月27日録音)
 これもマリア・トレードとルイス・ボンファの共作となる軽快なボサノバの決定版です。
 ここではスタン・ゲッツがテーマメロディを流麗に歌いあげた後、マリア・トレードのボーカルが出て、ルイス・ボンファのギターソロが始るという、ジャズ系ボサノバ演奏の定石が決めつけられます。
 バックのリズム隊も実にシャープで、良い雰囲気ですねっ♪

B-4 Um Abraco No Getz / A Tribute To Getz (1963年2月8日録音)
 タイトルどおり、スタン・ゲッツに捧げられた演奏とあって、かなりジャズっぽいアプローチがスリル満点です。
 まずアグレッシブなルイス・ボンファのギターが痛烈ですし、スタン・ゲッツも、このセッションでは一番、突っ込んだアドリブを聞かせてくれます。ただし歌心とドライブ感のバランスを忘れていないのは、流石!
 そして再び登場するルイス・ボンファの指使いも、どうなっているのか、ちょっと圧倒されてしまいます。

B-5 Ebony Samba (1963年2月27日録音)
 オーラスは和み系ボサノバで、という趣向でしょうか、とにかく安らいでしまいます。ギターとテナーサックスの絡みが、何気に素晴らしく、何時の間にか入っているマリア・トレードのラララのボーカルが本当に素敵です。
 哀愁と涼やかさという、私がボサノバに求めるイメージが、好みの按配で出てしまったという、これも胸キュン演奏でした。

ということで、ヒットパレード的なA面に対して、意欲的なB面という雰囲気もある秀作だと思います。非常に涼しげなジャケットも素晴らしいですね♪

スタン・ゲッツのボサノバ物では、アストラッド・ジルベルトと組んだ作品が一番人気かもしれませんが、ここでのマリア・トレードとのコラボレーションは、その基本形でしょう。繰り返しまずが、土着的な味わいがあって、こちらも私は好きです。

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真夏のフリー

2007-08-10 18:19:55 | Rock

今日もジャズモードに入りません。

それどころか、尚更に暑苦しい、こんなアルバムを鳴らして顰蹙でした――

Tons Of Sobs / Free (Island)

外タレの来日伝説には誇張や美化が付物ですが、正真正銘、物凄かったのが、1971年4月に行われたフリーの来日公演だと言われています。

これは確か、ブラック・サバスの代わりだったか、あるいはジョイントだったものがブラック・サバスの公演中止で、単独公演になったのか、ちょっと確かな記憶が無いのですが、個人的にはフリーのライブには全く興味が無かったので、その来日公演には行きませんでした。

ちなみに我国でのフリーの存在感は、もちろん代表曲「All Right Now」のヒットも出ていましたし、深夜放送では人気もありましたが、とても大物ロックバンドという印象では無かったと思います。

ところが、その後の音楽マスコミは、ほとんど大絶賛でしたし、実際にライブに接した先輩から聞く話は、凄かった……! それが結論です。

当時の我国では、外タレの公演そのものが珍しかった所為もありますが、フリーのように若手のバリバリという本格的ロックバンドのライブには、なかなか接する機会がなかったという事もあったでしょう。

しかし、その初来日公演の壮絶なライブは、間違いなく伝説になりました。そして行けなかった私は、今でも悔やんでいるのです……。

さて、このアルバムは、そのフリーが1969年に発売した最初の作品です。メンバーはポール・ロジャー(vo,g)、ポール・コゾフ(g)、アンディ・フレイザー(b)、サイモン・カーク(ds) というイギリスの4人組ですが、愕いたことに全員が十代だったのです。

その音楽スタイルは、所謂ブルースロックなんですが、しかしメロディよりは骨太なノリと黒っぽいノリを重視した演奏が見事すぎます。

ポール・ロジャースのボーカルはソウルフルでありながら、ロックに深く根ざしていますし、大袈裟なチョーキングとビブラートが特徴的なポール・ゴゾフのギターは、まさに「泣き」のギター! そして蠢くアンディ・フレイザーのベースと正確無比なサイモン・カークのドラムスが完全に一体となっているのです。

しかもアルバムとしての統一感も素晴らしいという、その演目は――

A-1 Over The Green Hills Part Ⅰ
A-2 Worry
A-3 Walk In My Shadow
A-4 Wild Indian Woman
A-5 Goin' Down Slow
B-1 I'm A Mover
B-2 The Hunter
B-3 Moonshine
B-4 Sweet Tooth
B-5 Over The Green Hills Part Ⅱ

まず、冒頭とラストに置かれた「Over The Green Hills」が生ギター主体のフォーク調でありながら、なかなか幻想的な味わいになっているのが、如何にも当時です。そして激烈なエレキギターに導かれて始る「Worry」で、もう完全に虜になるでしょう。

あぁ、ブルースロック! 重いビートに熱いリフ、泣きのギターにブリブリ動くベース、タイトなドラムスに真っ黒なボーカル! これには、何時聴いてもグッときます。

特にスローブルースの「Goin' Down Slow」は、もう暑苦しいばかりの熱演で、本当は夏場には厳禁のはずなんですが、許せます! ポール・コゾフのギターが大袈裟に泣きじゃくり、ポール・ロジャースの何かに苦しめられているかのようなボーカルは、説得力満点! ちなみに実際にライブを見た先輩の話では、ポール・コゾフのギター奏法はチョーキングとビブラートを同時にやっているそうで、腕が大きく動きまくっていたそうです。

う~ん、そうでしょうねぇ……。でなければ、ビーター・グリーンとマイケル・ブルムフィールドを渾然一体化したようなブルースギターは弾けないでしょう。

またバンド全員が生み出す重たいノリは驚異的です。特に「I'm A Mover」の重量感や「The Hunter」の突進力は、簡単そうでいて、決してコピー出来ない境地でしょう。グルーヴィな「Sweet Tooth」も実に良い雰囲気で、アンディ・フレーザーとサイモン・カークのリズムコンビは、明らかにスタックス系R&Bから影響を受けていると感じます。

ということで、このアルバムは素晴らしい傑作盤! 要所にダビングされたピアノの存在感もイヤミがありません。

実は、この作品、前述のライブに接した先輩が感動して買ったというブツを私が借り受けて、大衝撃を受けた因縁盤です。もちろん後追いで私も入手したんですが、こんな演奏を知っていたら、絶対にライブに行ったんですが……。と今でも悔やんでいます。

ちなみに彼等は1972年にエマーソン・レイク&パーマーの前座として再来日! そこで私はようやく待望のライブに接したわけですが、なんとその時のメンバーは、ポール・コゾフとアンディ・フレイザーが抜けて、ラビット(key) と山内テツ(b) が入っていたという臨時編成でしたから、その結果は、ここに書きたくないほどの……。

ですから、初来日公演が伝説化したのもムベなるかなです。

ご存知のように、フリーはこの後、ブルースロックからハードロックに進み、ウエストコーストロックやカントリーロックまでも吸収したポップさを身につけた素晴らしいアルバムを出していきます。

しかしそれに伴ってポール・コゾフのギターが徐々におとなしい雰囲気に変化していったのは、ちょっと??? 結局、個人的にはこのアルバムが一番、好きです。

かなり鬱陶しい作りではありますが、ブルースロックに少しでも興味があれば、聴いて納得の1枚だと思います。

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ガールジャケットのザ・フー

2007-08-09 16:50:45 | The Who

今日も暑いです。

そして、こういう時にはジャズモードに入らなくなる私ですから、この前に発見した強烈な嬉しい復刻CDから、これを聴いてしまいました――

My Generation / The Who (US Decca / テイチク)

ザ・フーはご存知のように1960年代英国ロックのブームから生まれ、オリジナルメンバーの死去を乗り越えて現存している最高のロックバンドのひとつです。

しかし我国では全盛期での来日が無かったことに加え、レコード発売のイザコザがあったりした所為で、リアルタイムではイマイチ、人気がありませんでした。

しかし、それでもたまに出すヒット曲の威力は絶大でしたし、個人的にはストーンズが麻薬関連で逮捕~裁判という騒動の時に、支援のレコードを出したということで、何となく気になって親しみの持てるバンドでした。

肝心の彼等のレコードについては、まず1965年12月に発売された「My Generation」が史上最高のデビューアルバムとして英米で高い人気と評価を得たにも関わらず、その後の契約の縺れで宙に浮いた形となり、きちんとした形で市場に出回らないという悲劇が……。

で、我国では、昭和42(1967)年に、曲順とジャケットを変えて発売されたのが、本日の1枚です。

しかしバンド名表記が「ザ・フゥー」とされている上に、劣悪な擬似ステレオ仕様とあって、売行きは悲惨だったようです。実際、私も小遣いが乏しかった所為もあって、買う気にはなりませんでした。キッチュなジャケットも???です。

ただし後年、それが通称「ガールジャケット」と呼ばれてウルトラ級のコレクターズアイテムになったのですから、時の流れは恐いものです。その内容は――

A-1 My Generation
A-2 Please, Please, Please
A-3 It's Not True
A-4 The OX
A-5 The Kids Are Alright
A-6 Instant Party
B-1 A Legal Matter
B-2 Out In The Street
B-3 I Don't Mind
B-4 The Good's Gone
B-5 La La La Lies
B-6 Much To Much

以上の12曲ですが、なんと現在、これが紙ジャケット仕様のCDとして復刻発売中です。しかもモノラルマスターが使われているんですねぇ~♪

実は、この「My Generation」は既に1980年代からアメリカでCD化されていますし、オリジナルのイギリス盤を基本にしたリマスターCDもボーナストラックを満載した2枚組で出されているのですが、前者はモノラルと擬似ステレオが混在していますし、後者はステレオのニューミックスに加えて、余計なダビングもあったりして、私にはオリジナル盤の復刻とは認められないものでした。

ちなみにイギリス仕様のオリジナル盤の曲順は――

A-1 Out In The Street
A-2 I Don't Mind
A-3 The Good's Gone
A-4 La La La Lies
A-5 Much To Much
A-6 My Generation
B-1 The Kids Are Alright
B-2 Please, Please, Please
B-3 It's Not True
B-4 I'm A Man
B-5 A Legal Matter
B-6 The OX

――となっています。つまりイギリス盤から「I'm A Man」を抜いて、代わりに「Instant Party」を入れたわけですね。

そして演目・演奏では、まず永遠の代表曲「My Generation」が、やっぱり凄いです! 暴れまくりるキース・ムーンのポリリズムドラミングと豪快うねるジョン・エントウィッスルのリードベースが、強烈至極なんです。当時、こんな烈しいビートを出していたバンドが他にあったでしょうか!? これは今日でも珍しいぐらいのブッ飛び方だと思います。

また限りなくポップでマージービート丸出しの「The Kids Are Alright」や「It's Not True」「A Legal Matter」は1960年代ロックの楽しさに満ちています。そしてR&Bのコピーで強烈な黒っぽさを披露した「I Don't Mind」と「Please, Please, Please」では、ロジャー・ダルトリーの粘っこいボーカルとコーラスワークのポップな対比が楽しく、せつない雰囲気で、たまりません。重たいビートの演奏も最高です。

また直線的なロック魂を表現した「A Legal Matter」や力強いフォーロック調の「Much To Much」、さらにサイケな「Instant Party」や「The Good's Gone」でも、けっしてポップな雰囲気を忘れていない姿勢は、素晴らしいと思います。

さらに個人的に大好きな「La La La Lies」では、モータウンサウンドとビーチボーイズの幸せな結婚のような、最高のポップスが楽しめます。バックの演奏もゲストのピアノ奏者が加わっていますが、とても3~4人で作り出しているとは思えない厚みが凄いです!

そして中心人物のピート・タウンゼントは、リズムカッティング主体のギターワークに加え、ソングライターとしての冴えが抜群です。こんなにポップで力強く、クールに不貞腐れた曲を書ける人は稀でしょう。

ということで、ロックの力強さを持ちながら完璧にポップなバンドのザ・フーを聴くなら、この復刻CDが最適です。なにしろアメリカ経由のモノラルマスターを仕様した音質がド迫力! それゆえに「The Kids Are Alright」が編集バージョンになっているんですが、それもご愛嬌♪

オリジナル盤と異なる曲順については、CDブレイヤーならば簡単に変更出来ますから、好きなように楽しめるはずです。これで「I'm A Man」がボーナストラックだったら最高だったんですが、それは言わないお約束ということで、ご理解願います。

ザ・フーは最高です! 全てのロックファン、音楽ファンは必聴ですよっ! と本日は断言させて下さい。

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迷っている名盤

2007-08-08 17:21:26 | Weblog

珈琲が大好きな私ですが、今日のように来客が多くて、その度に接客用珈琲を飲んでいると、流石に飽きてきます。

そこで麦茶も用意していると、やはり夏は、これに限りますねぇ♪ という御意見ばかりでした。

でも、やっぱりカップとお皿とスプーンが付かないと、決まらないような感じになるのは、私が古い人間だからでしょうか?

ということで、本日は古くて新しい名盤を――

Matador / Kenny Dorham (United Artists Jazz)

最近、急速に認知されている「ジャケ買い」趣味の中で、明らかに中身とジャケットがミスマッチしているブツが、確かにあります。

本日の1枚も、そのひとつでしょう。幾何学的な騙し絵のような、眺めていると異次元に引き込まれそうなデザインはジャズっぽく無いと感じますが、中身はバリバリのハードバップ! しかしモード手法も使った新しい響きも聴かれますから、やっぱり、これで良いのか!? 迷っているぐらいがちょうど良いのかもしれません。

録音は1962年4月15日、メンバーはケニー・ドーハム(tp)、ジャッキー・マクリーン(as)、ボビー・ティモンズ(p)、テディ・スミス(b)、J.C.モーゼス(ds) という、なかなか興味深い面々ですが、どうやら短期間ではあるものの、実際に活動していたグループだと言われています――

A-1 El Matador
 軽快なボサロック風のビートに乗って展開されるスパニッシュ調の名曲です。もちろんそれに基づいたモード手法によるアドリブは、一種独特の色合が強烈!
 ケニー・ドーハムのトランペットは当にイブシ銀の音色で、短いフレーズを積み重ねるという煮詰まりが、ディープな雰囲気を増幅させています。またジャッキー・マクリーンが情熱を内に秘めたような考えすぎのフレーズばかりというも、非常に珍しい展開でしょう。
 しかしボビー・ティモンズは十八番のゴスペル風味を丸出しにて、大正解のバカノリ大会♪ リズム隊一丸となった執拗なグルーヴは聞きごたえがあります。

A-2 Melanie part 1-3
 ジャッキー・マクリーンが書いたモード色の組曲ですが、あまり難しく構えずに聴くのが良いかと思います。
 まず東宝怪獣映画のテーマ曲のような重々しいメロディからスタートしていくあたりで、ワクワクさせられます。そしてアドリブパートでは痛快なアップテンポの4ビートになって、まずケニー・ドーハムがツボを押えたハードバップを聞かせてくれますから、たまりません。突進力のあるリズム隊も強烈!
 ですからジャッキー・マクリーンも負けじと大ハッスルで、激烈な「泣き節」を存分に披露していきますが、その受渡し部分で一端テンポを落としたテーマメロディを入るあたりは、ちょっとベタな雰囲気です。しかし憎めないんですねぇ~♪
 さらにボビー・ティモンズが唸り声をあげながらの突撃ピアノです! 唯我独尊のベースとちょっとバタついたドラムスが、妙に新しい感覚だと思います。

B-1 Smile
 さてB面は一転して正統派のハードバップ大会です。
 この曲はチャップリンの映画でお馴染みのメロディを素晴らしいモダンジャズにした名演で、そこはかとない哀愁を滲ませるケニー・ドーハムの歌心が最高ですし、ジャッキー・マクリーンも泣いていますから、もう完全に中毒になりそうです。
 また軽やかにスイングするボビー・ティモンズも良いですね。そして素晴らしいバッキングを聞かせるテディ・スミスのベースが強烈! 個人的には、そのベース中心に聴いて快感の名演だと思うほどです。

B-2 Beautiful Love
 モダンジャスではビル・エバンス(p) の十八番として有名なスタンダード曲ですが、ここではジャッキー・マクリーンのワンホーン体制で、せつせつと演奏されています。
 もちろん得意の「泣きじゃくり」が存分に楽しめますから、やっぱり背伸びしたジャッキー・マクリーンよりは、こっちのほうが、私は好きです。

B-3 Prelude
 ケニー・ドーハムとボビー・ティモンズのデュオで演奏されていますが、私には完全に??? けっこう哀しい雰囲気のテーマメロディなんですが……。

B-4 There Goes My Heart
 ちょっと地味なスタンダード曲なんですが、こういうものなら俺に任せろのケニー・ドーハムが大名演です。小粋なメロディの変奏から間然することの無いアドリブ展開まで、流石のモダンジャズを聞かせてくれるます。
 またジャッキー・マクリーンも本領発揮の激情節♪ 決して潔いとは言えない J.C.モーゼスのドラミングが妙にマッチしています。
 そしてテディ・スミスのベースが、ここでも良いですねぇ。新しい響きのアドリブソロも秀逸だと思います。

ということで、これはジャズの解説本にも掲載される事が多い名盤だと思われますが、A面とB面では演奏の趣が異なっていますから、ジャズ喫茶ではどちらの面を鳴らすかによって、その店の傾向と対策が分かったりすると、昔から言われていました。

まあ、CD時代の今日からは想像も出来ないことでしょうが、自宅では律儀にA面から聴いて、B面にひっくり返すという儀式があってこそ、完結する名盤かもしれません。

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怒りを静める、この1枚

2007-08-07 18:35:10 | Weblog

なあ~んだ、朝青龍は、結局、モンゴルに帰ってしまうのかっ!?

じゃ、横綱返上していけよっ!

こんな精神力の弱い奴が日本の国技のトップを張っているなんて、ふざけるなっ!

横綱審議委員会と協会は、全員坊主になれっ!

という過激な気分ですよ、今日は! いやはや、失礼致しました。

でも、なぁ……。復帰したら、弱虫横綱~、辞めちまえ~!

とかヤジが飛ぶだろうなぁ、それはそれで楽しみですよ、もう……。

ということで、本日はこれを――

Grand Encounter:2 Degrees East-3 Degrees West / John Lewis (Pacific Jazz)

ジャズ界恒例の対決盤のひとつですが、丁々発止のバトル物ではありません。タイトルどうり、東から2人、西から3人の優れたミュージシャンが参加し、素敵な出会いから見事な協調を聞かせた名盤が、これです。

メンバーは東からジョン・ルイス(p) とパーシー・ヒース(b) というMJQ組、そして西からはビル・パーキンス(ts)、ジム・ホール(g)、チコ・ハミルトン(ds) という名手が参加しています。

ちなみに録音は1956年2月10日という当時、MJQ=モダンジャズカルテットは人気を確立していましたし、チコ・ハミルトンが率いていたクインテットはMJQと同じくクラシックの室内楽的演奏をジャズに取り入れて人気急上昇中でした。そこにはジム・ホールも加わっていたわけですし、つまり東西人気グループの共演という趣向が確かにあります。

もちろん東が「ハードバップ」という黒人ジャズ、西が「ウエストコーストジャズ」という白人ジャズの対決と融合が、いったいどうなっているのか? という魅力もあるのです――

A-1 Love Me Or Leave Me
 小粋なメロディが魅力のスタンダードですから、まさにこのセッションにはピッタリの選曲だと思います。しかもイントロからテーマにかけての、若干クラシック調の響きが感じられるジョン・ルイスのピアノが実に良い雰囲気です。寄り添うパーシー・ヒースのベースと控えめなチコ・ハミルトンのドラムスも趣味が良いですねぇ~♪
 しかしビル・パーキンスが入ってくるアドリブパートになると、流麗なテナーサックスの背後では、けっこう黒いグルーヴが感じられたりします。それはリズム隊が黒人の所為かもしれませんが、ビル・パーキンスが手本としたテナーサックスのスタイルは、レスター・ヤングという黒人だったというルーツの確認も意味深じゃないでしょうか?
 またジム・ホールのギターが大名演! 素晴らしいピッキングとコード選びの妙、歌心と深みのあるアドリブメロディの展開には、驚嘆して感動するしかありません!
 もちろんジョン・ルイスは、MJQの時と同様にクラシック色のフレーズや絶妙という「間」の芸術を聞かせてくれるのでした。
 スバリ、淡々とした中にジャズの本質が垣間見えるような気分になるのは、私だけでしょうか……。

A-2 I Can't Get Started
 これもジャズの世界では有名なスタンダード曲で、その「泣き」のメロディがこよなく愛されていますから、このメンバーによる演奏には大いに期待して、見事に感動させられてしまう仕上がりです。ゆったり感が絶妙なんですねぇ~~~♪
 まずジョン・ルイスの隙間だらけのピアノが、たまりません。それを埋めていくようなパーシー・ヒースのベースも、説得力があります。そして実はピアノトリオだけの演奏という仕掛けが、最後にわかるという展開が、ニクイところです。いけねぇ、ネタバレ書いてしまいました。
 まあ、それが分かっていても感動出来る名演ということで、ご理解願います。実際、何度聴いても、飽きませんよ♪

A-3 Easy Living
 これも和み系の有名スタンダード曲で、初っ端からビル・パーキンスのテナーサックスがスカスカと歌ってくれるという、これまた決定的な名演になっています。
 もちろん全篇がゆったりと展開され、タメと「間」の妙技、さらに歌心の追求に全員が没頭している様が、濃密です。あぁ、こういう演奏を洒落たホテルのラウンジで聴いていたら、美女が隣に寄添っていたという夢に浸れそうです♪

B-1 2 Degrees East-3 Degrees West
 アルバムタイトル曲はジョン・ルイスが書いたブルースですから、一筋縄ではいかない奥深さがあります。
 まず淡々としたテーマが進むうちに、パーシー・ヒースのベースが蠢きながらアドリブソロに変化していくあたりで、悶絶です。さらに正統派4ビートに移ってからは、ジム・ホールが虚心坦懐のブルースを聞かせてくれます。
 またビル・ピーキンスの流麗で味のあるテナーサックスも最高♪ 2人とも全然、黒っぽくないんですが、立派なブルースになっているんですねぇ~。いやはや吃驚です。
 そしてジョン・ルイスが十八番という隙間だらけのブルースを演じてくれますから、たまりません。全く深夜の雰囲気が漂うという、不思議なグルーヴに満ちた仕上がりだと思います。

B-2 Skylark
 これまた愛らしいメロディが人気のスタンダード曲で、それをジム・ホールが自然体で弾いてくれるんですから、聴いている私は気分がウルウルして、妙にせつなくなってしまうほどです。アドリブでのメロディ展開の妙も素晴らしすぎ♪
 控えめなサポートで独特のグルーヴィな雰囲気を醸し出すリズム隊も、名人芸としか言えません。

B-3 Almost Like Being In Love
 オーラスは小粋なメロディのスタンダード曲を軽妙にスイングさせた、このアルバムの中では一番、普通のモダンジャズになっています。
 もちろんリズム隊はグルーヴィなところも打ち出していますし、ビル・パーキンスのテナーサックスもドライブ感が強くて、楽しさは倍増♪ 全てが「歌」というアドリブは、もはや即興とは思えないほどです。
 さらにグイノリのベースに撤するパーシー・ヒース、シンプルなサポートで自己主張するチコ・ハミルトンのドラムスが最高のコンビネーションを発揮していますから、ジム・ホールもアタックの強いフレーズを繰り出しています。あぁ、この人も本物の名人ですねぇ~。
 もちろんジョン・ルイスは、例によってシンプルなフレーズの積み重ねで分かり易いアドリブを聞かせるのです。
 クライマックスでは、チコ・ハミルトンのブラシの芸術が存分に楽しめるソロチェンジまでもが用意されているという、周到さが憎めません。

ということで、これは元祖ソフト&メローなジャズの名盤だと思いス。ひとり深夜に聴くも良し、下心に満ちた場面の演出にも最適♪ もちろん気分はロンリーな時にも心に滲みる名演ばかりという、全く出来すぎたアルバムだと思います。

所謂「美女ジャケット」としても必ず引き合いに出される1枚ですから、まさに生涯の友となる作品でしょう。これほどクールで温か味のある演奏集は、めったに無い! と今日は断言させて下さい。

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快楽のウェス

2007-08-06 17:40:57 | Weblog

それにしても、いったい相撲協会はどうなっているのか!?

ここに至っても親方と横綱にだらしなさのケジメをつけさせられないとは!?

もうこれは、国技を騙って日本人全体をバカにした所業としか思えません。ええぃ~、腹がたつ!

と怒ってばかりではラチがあきませんね……。

ということで、本日は爽やかに楽しいこれで気分転換です――

California Dreaming / Wes Montgomery (Verve)

天才ジャズギタリストのウェス・モンゴメリーは、純ジャズだけではなく、所謂イージーリスニング物でも真髄を披露したがゆえに、あらためて「天才」と尊敬されるのでしょう。

もちろん、抜群のテクニックで広められたオクターブ奏法とドライブ感、歌心の妙は他の追従を許さぬ境地です。

で、このアルバムは、その両方の特質が存分に楽しめる傑作!

録音は1966年9月14~16日、メンバーはウェス・モンゴメリー(g)、ハービー・ハンコック(p)、リチャード・デイビス(b)、グラディ・テイト(ds)、レイ・バレット(per) を中心に、ドン・セベスキーがアレンジしたオーケストラがついています――

A-1 California Dreaming
 西海岸ポップスの代表格だったママス&パパスが1966年2月に放った大ヒットをジャズバージョン化した演奏です。あまりにも有名なメロティは、誰もが必ずや耳にしたことがあるはずですから、ここでの原曲の味を損なわないアレンジには、思わず惹きつけられるでしょう。
 ウェス・モンゴメリーの演奏も快適そのもので、オクターブ奏法を主体にしながら、非常にメロディアスなアドリブを聞かせてくれます。テーマの弾き方も素直で最高ですねっ♪
 それとアレンジが出来過ぎです! まるっきりウェス・モンゴメリーのアドリブを先読みしたようなリフやアンサンブルが気持ち良く決まっています。否、と言うよりも、アドリブを含めた演奏そのものに、相等の書き譜があんじゃないでしょうか?
 このあたりはガチガチのジャズファンからは見下される要因かもしれませんが、聴いていて気持ちよければOKでしょう。

A-2 Sun Down
 ウェス・モンゴメリーが書いた小粋なジャズブルースで、単音弾き~オクターブ奏法~コード弾きと展開されていくアドリブには、お手本となるべきフレーズの見本市! 全く快適で爽快です。
 またリズム隊も軽い雰囲気ながら、実にグルーヴィな4ビートの真髄!

A-3 Oh, You Crazy Moon
 ちょっと地味なスタンダード曲で、ここでもゆったりとした演奏になっていますが、ウェス・モンゴメリーの雰囲気満点のギターを彩るドン・セベスキーのアレンジが秀逸です。

A-4 More, More, Amor
 ソフト&メローな名曲・名演♪ 確か矢野顕子もカバーしていたほどの素敵なメロディは、何度聞いても飽きません。ボサロック調のリズムも効いていますし、なによりもウェス・モンゴメリーのギターが鮮やかすぎます♪
 こういうお洒落な感覚こそ、ジャズの魅力ではないでしょうか? 私は大好きです。

A-5 Without You
 ディープなラテンフィーリングが心地良い、穏やかな名演です。じっくりと感情を込めて弾かれるウェス・モンゴメリーのシングルトーンによるアドリブは、実に味わい深いですねぇ。もちろんオクターヴ奏法も冴えまくり! とてもアドリブとは思えないメロディアスな展開には、しっとりと酔わされてしまいます。
 控えめで深みのあるリズム隊の存在感も流石だと思います。

B-1 Winds Of Barcelona / バルセロナの風
 これは当時のちょっとしたヒット曲でした。けっこうラジオや商店街でも流れていましたし、ビアガーデンのバンドには必須の演目だった時期もあります。
 それはラテンロック風のノリ、歯切れのよいブラスとビート、そして気持ち良くノリまくるウェス・モンゴメリーの素晴らしいギター♪ これで楽しくなかったら、バチが当ります。

B-2 Sunny
 ふっふっふっ、私が偏愛する名曲ですから、もう何も言いません。
 ボサロックにアレンジされた原曲メロディをウェス・モンゴメリーが弾いてくれるだけで、満足です。う~ん、それにしても鮮やかすぎるオクターブ奏法は気持ち良いですねぇ~~~♪ あぁ、どうしてこんな美メロが飛び出すんでしょう、神様の思し召しとしか思えません。

B-3 Green Peppers
 これもラテンロックのグルーヴが鮮やかな名演です。メロディやアレンジにも下世話なところがあって、たまりませんねぇ~♪
 実はこのアレンジや演奏の雰囲気は、同時期の昭和歌謡曲に、たっふりとパクられていますから、ますます要注意です。例えば大原麗子の「ピーコック・ベイビー」とか! でも本当の元ネタはセルジオ・メンデスでしょうか?
 肝心のウェス・モンゴメリーのギターは強烈に歌いまくって、さらにエネルギッシュ! 出来すぎのアドリブとアレンジの妙は、痛快至極です♪

B-4 Mr. Walker
 これまたマイナー調のラテンロックですから、心底、参ってしまいます。つまり前曲の続篇のような雰囲気なんです。あぁ、昭和歌謡曲の味わいも深く、それでいて正統派ジャズの凄さと楽しさが満喫出来るんですから♪♪~♪
 快適なリズム隊のグルーヴも、実は一筋縄ではいかないようですし、ウェス・モンゴメリーのギターにも一切の手抜きがありません。

B-5 South Of The Border / 国境の南
 これはフランク・シナトラやディーン・マーチンも歌っているメキシコ色のスタンダード曲ですから、ここでの楽しい演奏は「お約束」でしょう。
 ウェス・モンゴメリーの歯切れの良いギター、弾けるハービー・ハンコックのピアノ伴奏、さらに軽やかなリズムの嵐♪ 実に爽快です。もちろん、そこはかとない哀愁も滲み出た、これも名演でしょうねぇ。

ということで、何時、如何なる時に聞いても気分は最高という、和み系の名盤だと思います。ジャズ入門用としても最適ですし、長らく愛聴しても聴き飽きることは無いと、私は確信しているほどです。

この手の作品が軽く扱われるのは確かな事実だとしても、聴かないのは勿体無いし、ウェス・モンゴメリーの物分りが良くて、しかもガンコな天才性が楽しめるアルバムだと思います。

特に今の季節には、ぴったりかもしれません。

それとジャケットの美女の素晴らしさ♪ 今、こうして聴いていても、彼女の行末が気になるしまつです。

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爽快なジャック・シェルドン!

2007-08-05 17:34:08 | Weblog

今日は家族・親戚、そして友人一家と海へ出かけました。久々に優雅な休日というわけです。ちょっと台風の余波で海は濁っていましたが、海辺でワイワイやることに意義があるというか、お決まりのバーべキュー大会とか♪

そしてカーステレオで聴いていたのが、これです――

The Quartet & The Quintet / Jack Sheldon (Jazz:West)

ジャック・シェルドンは西海岸派の白人トランペッターですが、私の世代ではコメディアンとして有名かもしれません。なにしろ私の少年時代には、テレビで放送されていたギャグアクションの決定版「逃げろや逃げろ」のイメージが絶大ですから!

で、そのジャック・シェルドンの正体が、実はジャズのトランペッターだったことを知ったのは、かなり後のことで、アート・ペッパー(as) の相方として参加した名盤「リターンズ(Jazz:West)」における屈託の無い名演には、完全に虜になりました。

そして同じレーベルにリーダー盤を残していると知っては、聴かずにいられません。ところがそれは、10吋盤が2枚というウルトラ級の幻盤! さらにその2枚をカップリングして再発した12吋のLPも、なかなか希少度の高い人気盤ということで、本日の1枚が、それです。

ただし収録時間の関係で、2曲がオミットされたのは残念――

Jack Sheldon Quartet (1954年録音)
 これは「Jazz:West JWLP-1」として発売された10吋盤からの演奏です。メンバーはジャック・シェルドン(tp)、ウォルター・ノリス(p)、ラルフ・ペナ(b)、ジーン・ギャメージ(ds) という、所謂ワンホーン編成――

A-1 Get Out Of Town
A-2 Ahmoore
A-3 Dozo
A-4 Mad About The Boy
A-5 Toot Sweet
A-6 Jack Departs

 以上の6曲は、いずれも明快な歌心とスイング感に満ちた演奏ばかりです。しかしそれゆえに、聴き通すと、やや飽きがくるのも正直な感想でしょうか……。
 それでも「Get Out Of Town」は素直なテーマ解釈と爽快なドライブ感が一体となった快演で、分かり易いアドリブは美メロの宝庫という感じです。
 また哀愁が滲む「Ahmoore」は、しっとりとした情感があって、ちょっとワビサビの世界です。「Mad About The Boy」も、やや内向的なメロディ展開の妙が、ジャック・シェルドンの屈託の無さと上手くブレンドした名演だと思います。
 共演者では、やはりウォルター・ノリスが素晴らしく、ホレス・シルバー調のゴンゴンいう左手のコード弾きとビル・エバンスっぽい右手のメロディラインが、非常に面白いスタイルです。ちなみにこの人は、後にオーネット・コールマンと共演したり、自己のリーダー作品では浮遊感溢れるスタイルで独自の世界を築いた隠れ名手ですから、要注意です。
 もちろんリズム隊が一丸となったグルーヴも強烈で、けっこう黒い感覚も魅力的♪ さらに疾走感に満ちた「Dozo」でのノリなんか、新主流派っぽいところまで行っていますので、聴いて吃驚でしょう。煽られたジャック・シェルドンも過激な姿勢を示してくれます。
 同じく「Jack Departs」での幾何学的な演奏は、とても1954年とは思えません。今日でも古びていないのではないでしょうか!?

Jack Sheldon Quintet (1955年録音)
 こちらは「Jazz:West JWLP-2」として発売された2回目のセッション音源です。メンバーはジャック・シェルドン(tp)、ズート・シムズ(ts)、ウォルター・ノリス(p)、ボブ・ホイットロック(b)、ローレンス・マラブル(ds) という、なかなか凄い顔ぶれ――

A-7 What Is There To Say
B-1 Groovus Mentus
B-2 Beach-Wise
B-3 Palermo Walk
B-4 Blues
B-5 Irresistible You
B-6 Guatemala
B-7 Getting Sentimental Over You

 ここでの注目は、やはりズート・シムズの参加でしょう。この時期のズート・シムズが絶好調だったのは、残れた録音からも歴史的に証明されていますが、ここでも流石の名演を聞かせてくれます。
 もちろん主役のジャック・シェルドンも好調を維持しています。
 まず「Groovus Mentus」が凄いですねぇ~♪ けっこう黒いハードバップでズート・シムズがグルーヴィにスイングしまくって痛快です。リズム隊もハードエッジな雰囲気で容赦なく攻め込んできますから、これにはジャック・シェルドンも大ハッスル! そしてズート・シムズも刺激されたのでしょうか、終盤のドラムスとの対決では待ちきれずにツッコミを入れてしまう場面もあったりして、憎めません。
 そのあたりは即興的なブルースを聞かせる「Blues」でも楽しめる展開で、いきなりプローしまくるズート・シムズが最高です。ノリの良いリズム隊も素晴らしいですねぇ~♪
 肝心のジャック・シェルドンは「What Is There To Say」で聞かせる歌心の妙が、尚一層、ディープなフィーリングで流石です。あぁ、泣けてきますねぇ……。もちろん「Irresistible You」での明快な歌心も不滅です。ズート・シムズとの関係も実に上手くいっているようです。
 それはオーラスの「Getting Sentimental Over You」で頂点に達し、明るく楽しく、そしてちょっぴりセンチなハードバップを聞かせてくれます。あぁ、こういう哀愁系のモダンジャズこそ、何時の世にも受け容れられるものでしょうねぇ。こんな文章を書いている自分が虚しくなるばかりです。
 また、このセッションでもウォルター・ノリスの活躍が素晴らしく、ファンキーな感覚に新主流派っぽい浮遊感が混じったような不思議系のスイングには、グッと惹きつけられます。

ということで、珍しいだけのアルバムでは決してありません。ただし、惜しむらくは1954年のセッションから2曲が欠落していることです。

しかしご安心下さい♪ 我国でCD化されたアルバムにはボーナストラックとして、その「Cheek To Cheek」と「Streets Of Madashi」が収録されています。前者は溌剌としたスタンダード解釈が素晴らしいアップテンポの名演ですし、後者はウォルター・ノリスが書いた和み系の名曲ですから、たまりません。

実は告白すると、オリジナル盤を入手した後、その2曲のために件のCDをゲットし、いろいろとあってオリジナル盤を手放したというのが、今の私です。まあ、オリジナル盤といえども盤質がイマイチでしたから、リマスターの良いCDでガッチリ鑑賞♪ なんて負け惜しみにしか聞こえないでしょうか……。

いずれにしても、これは聴かないと損をする演奏集だと思います。特にズート・シムズの快演、ウォルター・ノリスという隠れ名手の存在がありますから、ノー文句でジャズの楽しさに浸れると思います。

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マシュー・ジーのイナタイ魅力

2007-08-04 16:34:48 | Weblog

今日は涼しくなりましたが、湿度が高いですねぇ。夕方からはムシムシしてきました。

ちょっと仕事も休めないし、野暮用も多発していますから、こんな時こそ聴きたいのが、このアルバムです――

Jazz By Gee ! / Matthew Gee (Riverside)

黒人トロンボーン奏者のマシュー・ジーは、テキサス出身の隠れ名手です。テナーサックスの世界には所謂「テキサステナー」と称される一派があるんですが、マシュー・ジーは「テキサストロンボーン」でしょうか? と言っても、しつこさとオトボケはほどほどですし、音色は暖かくてフレーズは和み系という、全く私好みなんです。某ジャズ喫茶で一度聴いた瞬間から、虜になりました。

で、その楽歴はビバップ~中間派、モダンスイングのビックバンドあたりで活動しており、なかなかの実力派なんですが、このアルバムは、おそらく唯一の単独リーダー盤でしょう。

しかもオリジナル盤は超コレクターズアイテムで、ウルトラ級の貴重盤! 幾ら金を積んでも、ブツそのものを見つけるのが至難の技ですから、私は最初っから入手を諦めていました。

それが一時、我国でアナログ盤として復刻されたらしいのですが、その時も私は海外で仕事をしていた所為で入手不能……。尤もそれも、アッという間に売れきれたらしいのです。

ところが神様の思し召しというか、少し前に紙ジャケット仕様のCDが出たので、勇躍ゲットして、日々楽しんでいる1枚となりました。

肝心の内容は、ハードバップ丸出しのセッションが2つ収められていて、出来はもちろん最高級♪ A・B面で味わいが微妙に異なるあたりも、名盤の条件かと思います。

で、まずA面の録音は1956年8月22日、メンバーはマシュー・ジー(tb)、アーニー・ヘンリー(as)、ジョー・ナイト(p)、ウィルバー・ウェア(b)、アート・テイラー(ds) というシブイ顔ぶれ――

A-1 Out Of Nowhere
 古いスタンダード曲ですが、ビバップ時代にも定番演目化していましたから、ここでも味わい深い演奏が聞かれます。
 テーマ部分のアレンジも和やかですし、アドリブパートではマシュー・ジーのホノボノとした雰囲気に対し、溌剌としたリズム隊のコントラストが実に良い感じです。
 また相方のアーニー・ヘンリーは小型チャーリー・パーカーという先鋭さがあって、大いに魅力的♪ そしてジョー・ナイトのピアノが、これもホレス・シルバー系のファンキーな味わいで、最高です。短い演奏ですが、飽きないですよ、実際。

A-2 I'll Remember April
 これもモダンジャズでは定番のスタンダード曲で、刺激的なベースソロをイントロにした名演になっています。ジョー・ナイトのピアノもビンビンにスイング♪
 もちろんマシュー・ジーはモゴモゴした音色と爆裂気味のフレーズの妙が歌心になっているという、独自の個性を存分に聞かせてくれます。続くアーニー・ヘンリーのコピー丸出しというフレーズの連発も憎めません。

A-3 Joram
 真正ハードバップという名曲・名演です。全体のヘヴィな雰囲気が実に黒っぽいですし、ジャック・ヒギンズによる、これぞリバーサイドというギスギスした録音も素晴らしいと思います。それはリズム隊の歯切れの良さ、特にアート・テイラーのドラムスが見事に録られていると感じます。
 肝心のマシュー・ジーは悠々自適の大らかなスイング感で楽しく、またアーニー・ヘンリーのアルトサックスには、思わずグッとくるビバップの魂が溢れています。
 そして終盤でのアート・テイラー対マシュー・ジーの対決にも熱くさせられてしまうのでした。

A-4 Sweet Georgia Brown
 これも古いスタンダードをハードバップ化した演奏で、アップテンポのバリバリ感が強烈です。そのキモは、イントロから炸裂するウィルバー・ウェアの変態ウッドベース! ビンビンバンバン、不思議に弾むビートの嵐は本当に痛快です。またアート・テイラーの執拗なハイハットも素晴らしいです。
 そしてマシュー・ジーがウダウダグタグタに吹きまくりです。しかし歌心が満点なんですねぇ~♪ クライマックスではアート・テイラーとの対決もあって、ジャズの楽しさが満喫出来ます。

A-5 Lover Man
 独特の哀しみが滲むスローな歌物を、マシュー・ジーは暖かく吹奏してくれます。ジョー・ナイトを中心とした伴奏も実に味わい深く、なんとも言えないホノボノ感のハードバップ的解釈として、いつまでも心に残る演奏だと思います。
 そう、何かの拍子に、フッと心をよぎるような感じでしょうか。
 ウィルバー・ウェアのベースソロは骨太変態の極みで、なんだか楽しくなってしまいます。

さて、ここから以下のB面はメンバーが拡大された大ハードバップセッションです。録音は1956年7月19日、参加したのはマシュー・ジー(tb) 以下、ケニー・ドーハム(tp)、フランク・フォスター(ts)、セシル・ペイン(bs)、ジョー・ナイト(p)、ジョン・シモンズ(b)、アート・テイラー(ds) という筋金入りの面々です――

B-1 Gee !
 タイトルどおり、マシュー・ジーのオリジナル曲で、まず厚みのあるアンサンブルで演奏されるテーマ部分からワクワクしてくる楽しさです。
 アドリブパートではモゴモゴと口ごもりながらも素敵なフレーズとノリを聞かせるマシュー・ジーが、これこそトロンボーン本来の魅力かと思わせる吹奏です。
 そしてフランク・フォスターがワーデル・グレイ直系の歌ってスイングしまくる快演ですし、ケニー・ドーハムは流石の貫禄! ソフトな低音で迫るセシル・ペインも存在感がありますねぇ♪
 またリズム隊の充実度は最高で、ガンガン叩きつけるようにスイングするジョー・ナイトのピアノやビシビシに煽るアート・テイラーのドラミングには、思わず血が騒ぎますよ。
 終盤で再び登場するマシュー・ジーは、絶好調の歌心を存分に聞かせ、実力を大いに発揮しています。いゃ~あ、本当に楽しいですねぇ~~~♪ ラストのバンドアンサンブルも見事です。

B-2 Kingston Lounge
 これもマシュー・ジーのオリジナルで、痛快なアップテンポのハードバップを聞かせてくれますが、その原動力は豪快なドラミングのアート・テイラー! ビシバシのハイハットが実に気持ちE~~♪
 もちろんマシュー・ジーも豪快なトロンボーンソロで期待に応える大熱演です。そのスタイルはビバップ以前のフレーズも使っていますが、ノリが間違いなくファンキーという素晴らしさ! 何度聴いても飽きません。
 そしてフランク・フォスターが、カンウト・ベイシー楽団での活躍に負けない存在感で、これも痛快なアドリブソロを披露すれば、ケニー・ドーハムもシブイ音色で流麗なフレーズを積み重ね、山場を作っていきます。
 さらにそれを引き継ぐセシル・ペインがブヒプヒに吹きまくり! リズム隊も強烈なグルーヴを発散させていますから、もう辺りは修羅場寸前!
 ですからリズム隊だけのパートになると、ますます黒くてエグイ演奏になるんですねぇ~♪ ジョー・ナイトは有名ではありませんが、このアルバムでの熱演があって、私は大好きなピアニストになりました。
 演奏はこの後、マシュー・ジー対アート・テイラーの激突となり、ブチキレ寸前のドラミングを披露するアート・テイラーは、やっぱり凄いとしか言えません。これはリバーサイド特有の録音がしっかりと感じられるところです! う~ん、最高です!

B-3 The Boys From Brooklyn
 これもマシュー・ジーの楽しいオリジナル曲で、ちょっと中間派の味わいがあります。しかしリズム隊は完全にハードバップのノリですから、マシュー・ジーのオトボケも気合が違う感じです。歌心いっぱいの和みのフレーズが実に素敵ですねぇ~~♪ 途中で唸っているのは、本人でしょうか? このあたりの臨場感も、たまりません。
 またフランク・フォスターも硬軟取り混ぜたフレーズの妙で、負けじと和みますし、ケニー・ドーハムはスリルとサスペンスを存分に聞かせるシブイ妙演です。
 それとセシル・ペインが、ソフトバリトンの魅力とでも申しましょうか、これまたシブイです。

ということで、暖かくてシブイ雰囲気が横溢した演奏集なんですが、それでいて立派なハードバップの隠れ名盤だと思います。飽きがこないのも大いに魅力ですし、個人的にはアート・テイラーの強烈なドラミングに熱血させられるんですねぇ。

しかしリアルタイムの売上げは決して良くなかったみたいですし、その後の再発もB面のセッションだけだったようですから、ジャズの解説本にも登場しないアルバムかもしれませんが、こういう素敵な演奏が日常的に行われていたモダンジャズ黄金期の雰囲気には、間違いなく浸れると思います。

見つけたら直ぐに買いましょうね。

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イケイケ3管編成

2007-08-03 18:23:55 | Weblog

昨夜から家族や親戚が来ています。もちろん夏休みの遊びなんですねぇ。鮎釣に出かけた伯父なんか、ゴキゲンでウキウキしていますよ。よく疲れないねぇ……、なんてイヤミが出そうです。

ということで、本日は――

Buhaina's Delight / Art Blakey & The Jazz Messengers (Blue Note)

所謂「3管編成」時代のジャズメッセンジャーズでは、代表作となるアルバムです。もちろん音楽監督はウェイン・ショーターであり、メンバーも若手の精鋭を集めて最先端のモダンジャズを追求していたわけですが、それを許していたアート・ブレイキーの度量の大きさは流石の大親分というところでしょう。

と言うよりも、まあ、実際のライブの場では「Moanin'」とか「Blues March」という往年のヒット曲を演奏していたんでしょうし、闇雲な最先端主義は興行主やレコード会社にとっては困り者ですから、その配慮が上手くないと煮詰まった演奏しか生まれないと思われます。

で、この作品は、そういうバランス感覚が実に秀逸な仕上がりになっています。

録音は1961年11&12月、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、カーティス・フラー(tb)、ウェイン・ショーター(ts)、シダー・ウォルトン(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) という最強の顔ぶれです――

A-1 Backstage Sally (1961年12月18日)
 ウェイン・ショーターが書いた、ちょっとこの時期にしては珍しいほどのファンキー・ハードバップです。強烈なバックビートで煽るアート・ブレイキーも流石の貫禄で、こういうミディアムテンポでグルーヴィなノリこそ、確実にジャズ者を浮かれさせるものだと思います。テーマメロディを吹奏する3管の迫力も最高!
 アドリブパートでは、まずウェイン・ショーターが屈折しまくったファンクネスを披露すれば、背後では実にグッとくるホーンのリフが付いています。このあたりは、当に3管編成の魅力でしょうねぇ♪
 続くカーティス・フラーとフレディ・ハバードも好調ですし、シダー・ウォルトンはフィンキーな中にも新鮮な響きを感じさせるモード系のアドリブで、若手の意地を聞かせています。

A-2 Contemplation (1961年11月28日)
 これは如何にもウェイン・ショーターという名曲・名演です。
 スローで抽象的ながら、実に美しいテーマメロディとハーモニー感覚の新しさ! これが当時の最先端でしょうが、今日でも全く古びていないと感じます。
 アドリブパートではウェイン・ショーターがジョン・コルトレーンの影響下にある音符過多のスタイルに加えて、独自のメロディ感覚を存分に発揮した素晴らしさです。あえて申し述べれば、スタン・ゲッツの味わいまでも含んでいるような気がしているほどです。しかし、これはウェイン・ショーターでしかありえません!
 またシダー・ウォルトンが最高です。幻想的なタッチも加えながら、メロディアスにところも凄いです。寄り添うジミー・メリットの上手さも聞き逃せないところでしょう。
 個人的にはアルバムのハイライト演奏だと思っています。

A-3 Bu's Delight (1961年12月18日)
 カーティス・フラーが書いた強烈なハードバップで、タイトルどおり、アート・ブレイキーのドラムスを中心にして聴くと、一層強烈です。もちろん全体はモード味という新鮮さ!
 そしてアドリブでは、先発のウェイン・ショーターが凄まじいばかりです! アップテンポで煽るリズム隊を尻目に、突撃しては自爆寸前の過激フレーズを連発しています。
 そして溌剌としたフレディ・ハバード、爆裂するカーティス・フラー、疾走するシダー・ウォルトンが実に爽快です。もちろん、その背後ではホーン陣のバックリフがカッコ良く入りますから、たまりません♪
 肝心の親分=アート・ブレイキーのドラムソロは、十八番のアフリカ色とポリリズム、さらに全体の流れを殺さないスピード感を加えた猛烈なスタイルで炸裂しています。う~ん、こういうイケイケの姿勢こそ、リーダーの条件のひとつかもしれません。

B-1 Reincarnation Blues (1961年12月18日)
 これもウェイン・ショーターが書いた、如何にもというアップテンポのブルース曲なんですが、一筋縄では行かない虚無感が……。
 ですから、アドリブ先発のウェイン・ショーターが作者としての見本を示したというか、無機質にドライブしまくっています。
 しかしカーティス・フラーは唯我独尊! 自らの持ち味であるハートウォームな魅力を全開させ、ハスキーな音色でハードバップの王道を聞かせるという、こういうバンド全体のバランス感覚の良さが、早くも証明されています。したがって続くフレディ・ハバードも新感覚のアドリブを披露していますが、アート・ブレイキーの煽りなんか、もうハードバッブそのまんまですから、最高です♪
 それとシダー・ウォルトンの何時もながらの上手さ! 黒っぽいくせにキザっぽいような部分もあって、一聴覚、地味に聞こえますが、充分に個性的だと思います。
 ちょっと混濁したラストテーマの吹奏も魅力的です。

B-2 Shaky Jake (1961年12月18日)
 シダー・ウォルトンが書いたゴスペル調のハードバップなんですが、モードとしても解釈可能という雰囲気が新しいところでしょうか。
 アドリブパートでは、初っ端からフレディ・ハバードが大進撃! クールな音色に熱いエモーションを込めたカッコ良いフレーズを連発してくれます。そして続くウェイン・ショーターが本領発揮の屈折節に加えて、不思議に黒いフィンキー感覚も表出させた熱演なんですねぇ~♪ これには流石の親分も大喜びらしく、刺激的なドラミングでオカズを入れていますし、カーティス・フラーも負けじと得意技でラッシュ攻勢です。
 しかし、この曲の主役は作者のシダー・ウォルトン! その黒いフィーリングと小粋なピアノタッチは、大いに魅力です。背後から襲い掛かってくるホーン陣のリフも良い感じ♪

B-3 Moon River (1961年11月28日)
 さて、アルバムの締めはヘンリー・マンシーニが書いた大名曲をハードバップにアレンジした名演です。
 もちろん強烈なアップテンポとハードエッジなアレンジが冴え渡り、アドリブ先発のウェイン・ショーターの過激な突進にはゾクゾクしてきます。もちろんアート・ブレイキーも大ハッスル!
 ですからフレディ・ハバードも遺憾なく本領発揮のバリバリスタイルですし、カーティス・フラーは大らかなノリと小刻みなフレーズの対比で烈しく場を盛り上げていくのです。
 さらにシダー・ウォルトンが、ここでも実に良いですねぇ~~♪
 そしてラストテーマの潔さ! 爆裂するアート・ブレイキーのドラムスとメリハリの効いたテーマのアレンジ! 最後まで間然することの無い大名演だと、あらためて思います。

ということで、メンバーと演奏の充実度、演目のバランス感覚、さらに時代に対する先鋭性が非常に素晴らしくミックスされた、これはジャズメッセンジャーズの代表作だと思います。

同時期には歴史的名盤と認定される「モザイク(Blue Note)
」というアルバムも残されていますが、個人的には、このアルバムも捨て難いところ! というよりも、実は過小評価に納得していない1枚でもあります。

ちなみに現行CDには、「Backstage Sally」「Bu's Delight」「Reincarnation Blues」「Moon River」の別テイクがオマケとして入っています。これらは、いずれも1961年11月28日に録音されたものですが、マスターテイクに比べてもアドリブや演奏自体に遜色はありません。

ただし「Backstage Sally」「Bu's Delight」には、本テイクでアドリブの背後に付いていたホーン陣のリフが無く、「Reincarnation Blues」は、あっさりとした短めの演奏になっています。また「Bu's Delight」もアート・ブレイキーのドラムソロが短くて物足りないような気がしますが、個人的には、こちらでも良かったと思っています。しかし「Moon River」は、明らかにテンションが低め……。まあ、このあたりは十人十色の感想でしょう。

いずれにしても、わざわざ録音し直したということは、バンドメンバーもプロデューサーも気に入っていなかったはずですから、ボーナストラックが勿体無いというのは、マニアの贅沢というものでしょうか……。

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やっぱりフレディ・レッドが好き

2007-08-02 17:52:47 | Weblog

今日は暑くて、流石に参りました……。風も無く、これがフェーン現象なんでしょう。

樺太方面では大きな地震があったようですし、北海道や伊豆諸島あたりでも連鎖的な揺れが頻発し、やっぱり最近の気象はヘンテコです。

政治も大相撲の世界も可笑しいし、せめて個人がしっかりしないと、何かあったらどーしようも無いと、独り気分を引き締めておりますが、いやはやなんともの毎日ですねぇ。

ということで、本日は――

Freddie Redd In Sweden (Metronome / LHJ)

ジャズ者の琴線のふれる曲作りとシビアなピアノタッチで人気のフレディ・レッドが、1956年9月にスウェーデンで吹き込んだ音源を復刻したCDです。

ということは、先日ご紹介した「Tommy Potter's Hard Funk」と同じ時のセッションというわけですが、元々は3枚のEP盤として発売されていたものを、我国のテイチクレコードが1970年代にLPとして纏め、発売していた時期があります。このジャケットは、そのデザインの流用です。そしてそのLPですら、今や超幻のブツとして、海外のコレクターさえも血眼になって探していたのですから、これは嬉しい復刻!

個人的には大好きなピアニストなので、迷わずゲットして連日楽しんでいます。

ちなみに本篇は12曲で、ボーナストラックとして6曲が追加収録というのも、ニンマリです――

☆1956年9月5~18日録音
01 Dawn Mist 
02 Beautiful Adela 
03 I'll Remember April 
04 Reminiscing 
05 Get Happy 
06 Bye Bye, Blackbird
07 Blues X
08 People's Park 
09 A Night In Nalen 
10 Blue Hour 
11 Studio Blues 
12 Farewell To Sweden

 以上が、お目当ての演奏です。メンバーはフレディ・レッド(p)、トミー・ポッター(b)、ジョー・ハリス(ds) というトリオ編成♪ フレディ・レッドのオリジナル曲を中心としながらも、混ぜ込まれたスタンダードの選曲が実に興味津々です。
 まず「I'll Remember April」は定石どおり、テーマ部分にラテンビートを用いた楽しい展開を聞かせてくれますし、溌剌とした「Get Happy」の迫力が素晴らしいです。このあたりはビバップの基本を大切にしながらも、フレディ・レッドならではの「せつない」フレーズが要所で飛び出しますから、たまりません♪
 しかし、気になる「Bye Bye, Blackbird」は若干、期待はずれというか、妙にクラシック調のアレンジが??? まあ、このあたりは、誰しもマイルス・デイビス(tp) の名演が耳タコですからねぇ……。それでもアドリブパートではアップテンの快演に仕立てています。
 さて、肝心のオリジナルは、いずれも「哀愁」と「泣き」が滲み出た名曲ばかりです。まず冒頭「Dawn Mist」からして、そこはかとない雰囲気が不思議な魅力を発散させていますし、「Beautiful Adela」や「Reminiscing」、そして「Farewell To Sweden」の気分はロンリーな感覚も、たまりません♪
 もちろん正統派ビバップ魂を開示した「Blue Hour」、そして「Blues X」や「Studio Blues」のブルースフィーリングも素晴らしく、エキセントリックな一面も聞かせる「People's Park」も流石という演奏です。
 共演したトミー・ポッターとジョー・ハリスは、もちろん手堅い中にも刺激的な自己主張を忘れておらず、特にジョー・ハリスのメリハリの効いたドラミングは最高です。
 曲毎の演奏時間が3~4分程度なので物足りないところも確かにありますが、フレディ・レッドが独自の歌心を存分に聞かせてくれますから、その密度は濃厚! 充分に楽しめると思います。

☆1955年2月28日録音
13 Debut 
14 Lady J. Blues
15 Things We Did Last Summer
16 Ready Freddie
 ここからはボーナストラックで、まず上記4曲はプレスティッジに吹き込まれた初リーダーセッション! 当然、アメリカでの録音で、最初は10吋盤「フレディ・レッド・トリオ(Prestige 197)」に収められ、後に12吋LPとしても再発売された演奏です。
 メンバーはフレディ・レッド(p)、ジョン・オー(b)、ロン・ジェファーソン(ds) という、これもトリオ編成ですが、ここではスウェーデンの演奏に比べて、ややビバップ色が強く感じられます。もちろん1曲を除いて全てがフレディ・レッドのオリジナル曲なんですねぇ。
 しかし、その哀愁フィーリングは絶品♪ 特に「Debut」は、どうしてこんなに「泣き」のフレーズが弾けるのだろう……。と思わずにはいられません。デューク・ジョーダンが好きな皆様ならば、必ずや虜になると思います。
 それと唯一のスタンダード曲である「Things We Did Last Summer」が、これまたグッと惹きつけられる名演です。小粋でせつないテーマの解釈が全く自分好みなんですが、当に「あの夏の思い出」に相応しい仕上がりになっています。あぁ、何度聴いても、甘酸っぱいような青春の思い出が……。
 もちろん「Lady J. Blues」での黒くてシンプルな味わいや「Ready Freddie」での抑えたファンキー感覚は、これから後のハードバップ時代を予見させるに充分な出来だと思います。
 全体的に共演者が地味な雰囲気ですが、纏まりの良さは最高です。

☆1956年7月30日録音
17 I'll Remeber April 
18 These Foolish Things

 再びスウェーデンでのセッションですが、これは放送録音のライブセッションのようです。当然、音質は若干、落ちますが、問題無く聴けますので、ご安心下さい。多分、以前に「Dragon」というレーベルから出たものと同一のような気がします。
 で、メンバーは最初のセッションと同じトリオ編成ながら、やや精彩が感じられません。というよりも、本来ガンガンにやって欲しい「I'll Remeber April」が、どういうわけかシミジミと演奏されているんですねぇ……。まあ、これはこれでフレディ・レッドの個性には合っているような気も致しますが……。
 しかし続く「These Foolish Things」はトミー・ポッターを中心にしたアップテンポのアレンジで、バックには正体不明のホーン隊もいるような……。そしてトミー・ポッターのベースソロが素晴らしい限り! 歌いまくりのフレーズ展開に加えて、アタックの強いピチカートの魅力がたっぷりです。

ということで、これも非常に嬉しい復刻でした。リマスターも上々ですし、解説書には珍しい写真も掲載されています。

ただし、はっきり言うと地味な演奏集です。この手が好きなファンだけが、密かに聴いてニンマリするというブツかもしれません。それもジャズというマイナーな音楽の楽しみと言えば、ミもフタもありませんが……。

コメント (3)
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