Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

岩田礼「香月泰男」

2018-03-17 08:48:26 | 読書
日動出版 (1976/12).

香月泰男(1911-74)は,自らが体験したシベリア抑留をテーマとする一連の油彩画「シベリア・シリーズ」によって,洋画壇に確たる地位を築いたとされる.長門市三隅には香月泰男美術館があり,自作のおもちゃや絵葉書が展示されていて,中国地方では親しまれている.デパートの絵画市にはよく小品が出てきて,シベリアを思わせないほのぼの感が漂っているものが多い.

そこそこ画家に関心があったところ,たまたま古書店で見つけ購読.画集が手許になく,絵を見ながら読めないのが残念.

この画家はシベリアでひどい目にあった悲劇の人という印象だったが,実は徴用から帰国まで,絵の具箱を持ち歩いた.後方部隊に属し,理解ある上官に恵まれ,満州から内地の展覧会に絵を送ったりもしているのだ.抑留生活は悲惨だが,それでもソ連将校の肖像画を描いたりソ連のためにポスターを描いたりする.甘い汁を吸ったという言い方もできそうだ.

著者も徴兵・抑留された経験があり,自身の経験もときどき挿入される.画家に対する筆致がときにやっかみを感じさせるが,結局,香月が画家として都合のいい環境を自分の周りに作ったのも,彼の画家としての執念がもたらしたとしている.
最後のほうに2ページ弱だが,美大出というだけで軍隊で虐待されたという,浜田知明について書いてある.

カバー絵のタイトルは「朕」の一部.原画はカラー.1945年の紀元節,ハイラルにいた香月らのの部隊が軍人勅諭奉読に臨んだ場面で,絵の中央は軍人勅諭.
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