Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

前立線歌日記

2019-04-11 10:23:10 | 読書
四元 康祐 (よつもとやすひろ)「前立線歌日記」講談社 (2018/11).

著者はミュンヘン在住の詩人.前立腺癌は奥の細道,性器・排泄器を直撃する.そのことが詩人の文学的感興を刺激しないわけがない.もっとも本書第2章のタイトルは「尿道カテーテルをつけたまま詩が書けるか?」だけれど.
「歌日記」というが,毎日和歌を詠むといった殊勝なものではなく,詩も俳句も,自作・他作あるいはその改変 (ダンテ,谷川俊太郎,万葉集...)にかかわらず散りばめられている.

短いものを例に挙げると,著者の父も祖父も曽祖父も前立腺癌だったそうで

 我が眷属は千代に八千代に遺伝子の巌となりて虚仮と化すまで

生検の結果の血尿に

 臍下朱肉純白ブリーフシャチハタの朝

という調子.

本の内容は16トンの体験よりずっと劇的.
1)四元さんは 16 トンより 20 歳近く若い年齢で発症し,
2)ミュンヘンで治療した,
というふたつの違いによるものだろう.

1) お若いだけに性に対する執着が強い.若い異性の患者や看護師や医師に妄想を抱くのは 16 トンも同じことだが,四元さんは街で研修に来た日本人女性をナンパしたりする...もっともこの部分はフィクションかもしれない,デートの後,生検の後遺症が残る時期での手淫で湧き上がってきた液体の「イチゴミルクの赤白まだら」の表現は迫力満点.

2) ドイツの医療はずいぶん荒っぽいようだ.在日 16トンの場合 生検後の血尿は1日で収まってしまった.術後,ちんちんが何日も棍棒で殴られたように黒ずんだまま,という経験もない.
しかし日本と違って,ドイツの方が丁寧な面もある.オプションかもしれないが,手術後はリハビリ施設で3週間暮らすらしい.尿もれの指導などは行き届いているようだ.
また 16 トンの場合は PSA の値が再上昇するのを待って放射線を照射したが,ドイツでは術後「念のために」放射線を照射するらしい.

日本にいる前立腺癌患者にとってこの本は情緒面で参考になりそうだが実務面では役に立たない.ただしドイツの医療がどんなものかを感じることはできる.もっとも,著者の目的は患者のための参考書ではなかっただろう.
☆☆☆☆★ とても面白かった.
図書館本.文庫化したら買おうと思うが,文庫化されそうもない.
コメント
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