アルツハイマー病の新薬「アデュカヌマブ」が6月、米食品医薬品局(FDA)に条件付きで承認されました。原因に直接働きかけ、進行を抑えることを狙った治療薬として世界初の承認です。認知症患者は世界で約5000万人、国内で約600万人に上り、うち6割以上がアルツハイマー型といわれます。患者や介護する人から大きな注目を集める一方で、承認の是非をめぐって論争もあります。どんな薬なのか、課題や今後について、日本認知症学会理事長の東京大学・岩坪威教授に聞きました。【取材・構成=久保勇人】

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【アルツハイマー病の原因は?】

 -アルツハイマー型認知症は記憶など認知機能が低下していきますが、原因など分かっていますか

 岩坪教授 まず脳の神経細胞の外にアミロイドベータというタンパク質がたまって老人斑(アミロイド斑)というシミのようなものができます。それによって細胞の中でタウというタンパク質がたまって溶けにくい線維の固まりを作り(神経原線維変化)、細胞が死んで発症すると考えられています。

 アミロイドベータは固まりやすい、形の悪いゴミのようなタンパク質で、どんな人にも生まれた時から作られています。若いうちは掃除されていますが、年を取るとうまくこわせなくなり、たまりだすと毒性が出てきます。患者さんでは発症の20年くらい前からたまり始めていると言われます。

 【新薬はどんな薬?】

 -米バイオジェンと日本のエーザイが共同開発したアデュカヌマブはどんな薬ですか、これまでの薬とどう違うのですか

 岩坪教授 アミロイドベータが増えるのを止めるのではなく、たまってきたものを取り除く薬です。抗体がアミロイド斑にくっつき、掃除屋の細胞に喰わせます。これによって認知機能の低下の進行を22%くらい遅くすることができたというデータが出ています。

 -1年半の投与でアミロイドベータが59~71%減少したとか。どんな患者さんにも効果があるのですか

 岩坪教授 もの忘れが相当出てきた段階でも、認知症かどうかを決めるのは、日常生活に支障があるか。独立して生活できる段階はまだ認知症ではなく、常にアシストが必要というところからが認知症です。アリセプトなどこれまでの薬は、認知症で神経細胞が抜け落ちたあとに足りなくなっている物質を補い、症状を一時的に改善するものです。今回の薬は病気の上流の過程で、原因、すなわち病気のメカニズムに直接働きかけて改善しようというもので、アルツハイマー病の病期としては、認知症に先だつ軽度認知障害(MCI)と、それに引き続く軽症の認知症の段階を対象にしています。