《社説①》:衆院の10増10減 地方の声反映させるには
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:衆院の10増10減 地方の声反映させるには
「1票の格差」是正は先送りできないとしても、地方軽視がさらに強まらないか。
衆院選挙区画定審議会(区割り審)が、衆院選小選挙区の区割りについて改定案を検討している。
人口比を反映しやすい議席配分方法「アダムズ方式」を導入する。2020年の国勢調査確定値に基づき、「10増10減」となる見通しだ。16年に成立した改正公選法が根拠である。
定数は東京が5増、神奈川が2増など大都市部で増える。一方で宮城、新潟、和歌山、山口など10県が各1減となる。
自民党には削減対象となる県の現職議員が多い。10減となれば候補者の調整が難航するため、党内には異論が続出している。
二階俊博元幹事長は「地方にとっては迷惑な話」と批判。自民党出身の細田博之衆院議長も「地方の政治家を減らすことだけが能ではない」と述べている。
細田氏は議長就任前に私案として「3増3減」も提示した。党内には激変緩和策として共鳴する議員が少なくないという。
「投票価値の平等」は憲法に基づく。党利党略を優先することは看過できない。
自民党は16年の改正後も、アダムズ方式の導入を先送りにした経緯がある。17年の選挙では経過措置として定数を「0増6減」して格差は1・98倍に収まった。最高裁は18年に「合憲」とした。
同じ区割りだった昨年10月の選挙では人口増減で、29選挙区で2倍を超えた。6日までに出た高裁判決では、高松と大阪高裁が「違憲状態」と判断した。3月9日までに高裁判決が出そろい、最高裁が統一判断を示す見通しだ。
最高裁は最大格差が2・43~2・13倍だった09、12、14年の衆院選を「違憲状態」と判断した。司法は「2倍」の格差を強く意識している。現状を放置すれば、将来は「選挙無効」の判決も現実味も帯びてくる。
ただし、各都道府県が区割り審に提出した意見書では、削減対象の10県のうち9県が定数減に懸念を示している。少子高齢化や過疎化といった地方が抱える問題の解決が遠のくという指摘である。
政府が地方創生を掲げても、地方の衰退が加速している現状では当然だろう。
10増10減を実現した上で、地方の声を国政に反映させる選挙制度を早急に研究していくことが欠かせない。比例代表や参院の在り方も議論の対象になる。国会は抜本的な改革に乗り出す必要がある。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 ニュースセレクト 社説・解説・コラム 【社説】 2022年02月07日 09:31:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。