【政局】:「是々非々」はすり寄ることか...国民民主党の予算案賛成、幹部が語った思惑 政治学者の憂い
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政局】:「是々非々」はすり寄ることか...国民民主党の予算案賛成、幹部が語った思惑 政治学者の憂い
世界がウクライナ危機で揺れる中、日本の国会も揺れている。国民民主党が異例の動きに出たためだ。問題の場は22日の衆院本会議。自公政権が提出した2022年度の当初予算案に賛成したのだ。同党は昨年10月の衆院選で与党の候補と対峙したのに、国の骨格を決める予算案で与党に歩み寄った。この間、わずか半年足らず。野党各党があっけにとられるのも当然だろう。国民民主党の矜持とは果たして何なのか。(木原育子、荒井六貴)
◆首相と肘タッチ、狙いは...
「虎穴に入らずんば虎児を得ず、といったところでしょうか」。発言の主は国民民主の国対委員長、古川元久衆院議員。「こちら特報部」の取材にそう語った。大きな成果を得るためには身の危険を冒すことも必要だ、という意味合いだ。
2022年度予算案が可決された衆院本会議=22日、国会で
22日の衆院本会議後、岸田文雄首相は「丁寧に政治を進める」と述べ、国民民主の玉木雄一郎党代表と肘タッチを交わした。取材は2日後の24日。古川氏は「ギブ・アンド・テーク」を求めた。利益を与える代わりに利益を得る、ということだ。
「与党に政策を提案していくということ。リスクを取って相手の懐に飛び込んだのだから必ず実現する。ここからが勝負だ」。思い起こすのは2009年の政権交代。旧民主党だった古川氏は「実績を出したことが政権交代につながった。国民民主も成果を取っていかないと」と意気込む。
◆「野党だから政権批判」は「永田町の常識」
身ぶり手ぶりを交えて熱く取材に応じたのは浅野哲衆院議員(茨城5区)。「野党だからこうあるべきって、そんなのに縛られなくていい。国民の生活のために議員をやっている」
くしくも24日、ロシアがウクライナに軍事進攻した。ガソリン価格の高騰に懸念が強まる中、ガソリン税を一時的に軽減する「トリガー条項」の連結解除について、岸田首相が検討を明言したことを評価する。これが予算案の賛成に回るきっかけになった。「野党だから政権を批判しなければならないっていうのはどうか。永田町の常識にしばられて考えるのは変えていかないといけない」
◆支持母体の連合、前例と違う動き
与党に歩み寄った国民民主党はどんな党か。
きっかけは17年の衆院選だ。東京都の小池百合子知事が旗揚げした「希望の党」の立ち上げとともに、旧民主党の流れをくんだ民進党は分裂。現在の立憲民主党の結党に参加しなかった議員で結成された。
現在所属する国会議員は23人。国政政党としては5番目の規模だ。支援労組は、電力総連や電機連合など大手企業の労組が中心。日本最大の労組団体「連合」からも絶大な下支えを受けてきた。
その連合も前例と違う動きをみせる。夏の参院選の基本方針について当初、支持政党を明記しなかった。結局、旧民主党時代から後押しした立憲民主、国民民主両党の名前は入ったが「支持」「支援」ではなく「連携」。一方で自民党議員とのやりとりは増えているようにも取れる。日立労組出身で前出の浅野氏は「連合はいつも人物本位で支援の判断をする。連合の人も、与党と食事ぐらいする。野党だって与党とごはんを食べる時もある」と話す。
◆政治ジャーナリスト「余裕がない証拠だ」
国民民主や連合が与党に歩み寄る理由は何か。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「経済が疲弊し、コロナも相まって雇用もますます不安定になり、企業と政治が一体となって立ち上がらないといけない風潮になっている。労使交渉も結果的に協調路線になるのではなく、最初から出来レース。どちらも余裕がない証拠だ」と指摘する。
国民民主は日本維新の会や都民ファーストとの共同歩調をにおわせたが、与党にすり寄った。政治ジャーナリストの泉宏氏は「党の支持率が低迷し、埋没の危機感があった」と指摘した上、玉木氏と岸田首相との接点も挙げる。
玉木氏は同じ香川県出身で元大蔵官僚の大平正芳元首相を目標にする。大平氏は岸田首相の出身派閥の宏池会の元会長だ。「岸田氏が参院選に負けず、しばらく政権が続くとみられるため、岸田氏にすり寄っている」。自民にとって国民民主の賛成はメリットが大きいという。「野党はバラバラという印象を有権者に与える効果もある」
◆野党各党から疑問符「与党か野党か問われる」
国民民主には、野党各党から厳しい声が上がる。立憲民主党の泉健太代表は「予算の賛否は首相指名選挙と同様に非常に重い。与党か野党か問われる」と疑問視。共産党の小池晃書記局長は「事実上の与党宣言と受け取らざるを得ない」との見方を示す。維新は自民との近さを指摘されるが、予算案は反対だ。藤田文武幹事長は「政権与党に何らかの取引をしたいのか、入りたいのか」といぶかる。
衆院事務局によると、野党が衆院本会議で当初予算案に賛成したのは少数政党を除き、1994年度分の社会党と新党さきがけ以来。首相は新生党の羽田孜氏だった。「社さ」はのちに自民と連立政権を組んだ。
◆「申し訳ない。賛成するみたい」
国民民主がまず予算案賛成を表明したのは21日の衆院予算委員会だった。出席した維新の浦野靖人氏は取材に「『えっ』というのはあった。与野党ともあきれているようだった」と語る。午前中の審議で国民民主の前原誠司代表代行は反対の姿勢で質問。それが午後に一転、前原氏が体調不良を理由に欠席し、玉木氏が賛成の趣旨を述べた。
前原氏は午後の審議前、浦野氏らに「外れることになった。申し訳ない。賛成するみたい」と伝えたという。浦野氏は「維新は連立すら考えていない。国民民主はどこに向かって行くのだろうか」と首をひねる。政界では「前原氏が離党し、維新入りするのでは」とささやかれているという。
◆「野党は与党にとって面倒くさい存在でないと」
野党にとって政府提出の当初予算案を審議する意味は重い。明治大の西川伸一教授(政治学)は「国民の利益になっているか、無駄遣いはないかチェックするのが1番重要な仕事」と説く。国民民主は「や」党ではなく、与党に近い「ゆ」党を超え、さらに「よ」に近い「え」党だと唱える。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「国が1年間やろうとしている事業が、お金で数値化されたのが予算。賛成するのは政府与党の1年間の取り組みを認めたことになる」と語る。
昨秋の衆院選で玉木氏は自らの選挙区で自民候補と戦った。同時期の参院静岡選挙区補選で立憲民主の枝野幸男代表(当時)とともに応援した。「野党で1つになっているからと投票した人には裏切りにもなる」
「是々非々」という言葉が一部野党で好まれるが、先の西川氏は「聞こえはいいが、すり寄るということだ。野党のプライドはないのか」とクギを刺す。
今後、ウクライナ危機が深刻化し、日本にも影響が及ぶと「国を挙げて団結を」という空気が世間に漂うかもしれない。ただ、団結の旗を振るであろう政府与党が的確に判断できるとも限らない。それは他の局面でもだ。だからこそ野党の厳しい視線が必要になる。
西川氏は「野党は与党にとって面倒くさい存在でないと、権力のブレーキにならない。戦前の大政翼賛政治になる。取引し賛成してくれるのであれば与党になめられる。それならば自民党に投票すればいいということにもなる」と憂う。
◇ ◇
◆デスクメモ
古川氏の言葉で気になったのは「実績を出したことが政権交代につながった」。今も政権交代を視野に入れるのかを知りたい。政権交代を狙いながら現政権と手を結んだとすると、話のつじつまが合わない気が。確固たる決意がないまま要求をのまされてばかり、とならぬよう願う。(榊)
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 政治 【政局・国会・問題の場は22日の衆院本会議・国民民主党が異例の動き】 2022年02月25日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。