【社説①】:ロシアのウクライナ派兵 主権と領土を侵す暴挙だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:ロシアのウクライナ派兵 主権と領土を侵す暴挙だ
ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部で親ロシア派が実効支配する二つの地域の独立を承認した。さらに「友好条約」に署名したとして、平和維持を名目に2地域への派兵を命じた。
バイデン米大統領は「侵攻の始まりだ」と非難し、対ロ経済制裁を発動した。
ロシアの行動は、持続的な停戦と和平手続きを定めた2014、15年の「ミンスク合意」違反である。紛争の平和的解決を加盟国に義務づけた国連憲章にも反する。
国際法を一方的に破り、国境を越え派兵するのは暴挙と言える。ウクライナの主権と領土を侵害するもので、断じて認められない。
ロシア軍が駐留すれば対立は長期化し、紛争がウクライナ全土に拡大する危険性も高まる。
欧州連合(EU)も制裁を科し、対立が先鋭化しつつある。
ロシアはウクライナ国境に集結させた19万人に上るとされる部隊を直ちに元の配置に戻すべきだ。
欧米をはじめ関係国との外交交渉によって、解決への道を探らなければならない。
■停戦合意違反は明白
親ロシア派の2地域に「特別な地位」を与えるとするミンスク合意を巡っては、ロシアも履行を強く求めていた。その前提には、この地域がウクライナ領であるという共通認識があったはずだ。
ウクライナは改定を求めていたが、米国やドイツ、フランスが履行の重要性を訴えていた。
その外交努力が続く中で、プーチン氏は「ウクライナに合意を履行する意思がないのは明らかだ」と決めつけて2地域を国家承認し、派兵を決めた。合意を崩壊させた責任はロシアにある。
ロシアはウクライナ東部にロシア系住民が多いとして自決権を主張する。だが国連は2地域の分離独立を認めてこなかった。
ウクライナ憲法も分離独立に国民全体の投票が必要としている。
独善的なロシアの対応は正当化できない。
08年のグルジア(現ジョージア)紛争の時も、ロシアは「自国民の保護」を侵攻の口実に使った。
ロシアとウクライナの間には、国境不可侵などを定めた友好条約もあったが、これを14年のクリミア編入に際して、ほごにしたのもロシアだ。
大国の威光を振りかざして影響圏確保を狙い、国際的孤立を深める行動様式を改めるべきだ。
■外交解決求められる
国連憲章は武力による威嚇や武力行使について、いかなる国の領土保全や政治的独立に対してであっても、慎まなければならないと規定している。
ロシアは国連の一加盟国であるだけでなく、安全保障理事会の常任理事国だ。国際法を順守する責任はより重いものがある。
国連のグテレス事務総長が派兵命令を「平和維持の概念を歪曲(わいきょく)する」と断じたのも当然だろう。
かねてプーチン氏は北大西洋条約機構(NATO)に東方不拡大を要求してきた。
バイデン氏はこれをかたくなに拒否した。東欧に軍を増派し経済制裁にも言及、ロシア軍の動きなど機密情報を積極的に開示した。だが派兵を未然に防げなかった。
米ロ間で外交が十分に機能しなかったと言えよう。前任のトランプ政権当時を含め、対応を検証する必要がある。
NATOは未加盟のウクライナへの防衛義務はない。欧米各国は武力で応じるのではなく、外交解決に力を傾けてもらいたい。
米国は本格的侵攻には「前例のない金融・経済制裁」を科す方針だ。新型コロナによる国際経済の混乱に拍車をかける恐れがある。
ロシアは自らの決断が及ぼす影響の重大さを省みるべきだろう。
■日本は毅然と対応を
北京冬季五輪の場で中ロ首脳会談を開き、両国の結束を誇示した中国は、ウクライナを巡る紛争の解決に向けて責任を果たすべきだ。一方的にロシアの肩を持つことは理解を得られない。
北朝鮮がミサイル発射を繰り返すなど、北東アジアの安全保障環境は不安定さを増す。中国と台湾の間の緊張も見過ごせない。
他国の主権や領土を侵害するウクライナの混乱を、アジアに波及させてはならない。
北方領土交渉を抱える日本はロシアのクリミア編入時、米欧ほど強硬な対応を取らなかった。
だが、それで交渉が前進を見たわけでもない。国際法違反には毅然(きぜん)とした対応で臨む必要がある。
岸田文雄首相は今回、親ロ派2地域の関係者を対象とした査証(ビザ)発給停止などの制裁を発表し、ロシアに対し、解決への外交プロセスに戻るよう強く求めた。
平和国家として、武力による紛争解決は許さない原則を前面に出した外交に努めるべきだ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年02月24日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。