【社説②・01.16】:女子医大背任 理事長の専横をなぜ許した
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・01.16】:女子医大背任 理事長の専横をなぜ許した
医療を専門とする大学の経営再建を託された理事長が、厳しいコスト削減の裏で私利私欲を満たしていたとすれば、言語道断だ。警察は不正な蓄財疑惑を徹底解明してほしい。
警視庁が、東京女子医大の元理事長岩本絹子容疑者を、新校舎建設を巡る背任容疑で逮捕した。
岩本容疑者は、副理事長や理事長だった2018~20年、建築士に対し、実態のない業務の報酬という名目で、大学から1億円余りを不正に支出させ、大学に損害を与えた疑いが持たれている。
警視庁は、このうち3700万円が岩本容疑者に還流し、ブランド品の購入などに充てられていたとみている。岩本容疑者の自宅などからは、現金2億円と、2億円相当の金塊も押収された。
女子医大には、国の私学助成金も交付されている。不正な資金の流れを明確にする必要がある。
女子医大の創立者一族で卒業生でもある岩本容疑者は、14年に副理事長に就いた。当時は、付属病院で起きた鎮静剤の大量投与事故の影響で大学の経営が悪化していて、立て直しを担った形だ。
教職員の人件費削減などで黒字化を果たし、19年には理事長になった。だが、こうしたコストカット優先の姿勢が医師らの反発を招き、退職者が続出した。昨春には同窓会組織を巡る不正給与疑惑で大学が警察の捜索を受けた。
大学の第三者委員会は、問題が多発する背景に、岩本容疑者の「1強体制」と、金銭に対する強い執着心があったと指摘した。
他の幹部たちは、トップの暴走を食い止められなかった。その結果、病院は患者離れが一層進み、大学運営は危機に 瀕 している。
人事や経理の権限を一手に握る容疑者の報復を恐れて異論を挟めなかったのかもしれないが、幹部らの経営責任も免れない。
大学は岩本容疑者を理事長から解任し、支出のチェック強化などを盛り込んだ改善計画を公表した。計画を着実に実行することが信頼回復の第一歩となろう。
東京女子医大は日本で唯一、女子だけを対象に医学教育を行う大学として、多くの女性医師を社会に送り出し、高度医療や地域医療にも貢献してきた。大学の混乱は、患者こそが被害者であることを、忘れてはならない。
私大では近年、理事長らの不祥事が相次いでいる。今年4月には、ガバナンス(組織統治)の強化を図る改正私立学校法が施行される。組織の運営に緩みがないか、各大学で点検してもらいたい。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月16日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。