《社説①》:エネルギー戦略の改定 将来に責任果たす議論を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①》:エネルギー戦略の改定 将来に責任果たす議論を
政府が中長期のエネルギー戦略を示す「エネルギー基本計画」の改定作業に着手した。3年をめどに見直しており、今回は40年度の電源構成の目標を盛り込む。
気候危機が深刻化する中、欧米は化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトを進める。欧州ではドイツなど電源に占める再エネの割合が5割を超える国も多い。
日本は22年度の再エネの割合が2割強にとどまり、7割超を火力が占める。3割は温室効果ガスを多く排出する石炭火力だ。現行計画は30年度に再エネを36~38%に高め、火力を41%に抑える青写真を描くが、これでは不十分だ。
主要7カ国(G7)は排出削減措置が取られていない石炭火力の30年代前半までの廃止で合意した。日本も対応が迫られる。
エネルギー安全保障の重要性も高まっている。ウクライナ危機をきっかけにロシアから西側への石油・天然ガス供給が停止され、中東産価格が高騰した。電力の安定供給を図るためにも脱化石燃料が急務である。
新計画では、再エネの普及目標を大幅に引き上げ、火力の割合を可能な限り低減すべきだ。天候に発電量が左右される再エネの弱点を克服できるように技術革新を後押しするなど、あらゆる手立てを講じなければならない。
政府は「脱炭素電源」として原発の活用を推進する。岸田文雄政権は昨年、東京電力福島第1原発事故以来の方針を覆し、運転期間延長や新増設解禁を打ち出した。
だが、22年度の原発比率は6%と、30年度目標の20~22%にほど遠い。国民の不信感が根強く、再稼働は停滞している。安全対策費が膨らみ、もはや「安い電源」でもない。現実離れした原発活用策は脱炭素にもエネルギー安保にも貢献しない。
現行計画は人口減少などで電力需要が減ると想定する。だが、人工知能(AI)普及などデジタル化の進展で需要増加が見込まれている。省エネの強化も不可欠だ。
脱炭素社会の実現という将来への責任を果たすには、国民や企業に行動変革を促す戦略が必要だ。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月20日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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