【社説①】:自衛隊と海保 有事に備え連携を深化させよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:自衛隊と海保 有事に備え連携を深化させよ
日本が武力攻撃を受ける事態は単なる理論的可能性ではなく、現実の脅威となっている。領土・領海を守るため、自衛隊と海上保安庁は連携し、対処能力を高めねばならない。
政府は、有事の際に防衛相が海保を指揮するための手続きである「統制要領」を策定した。自衛隊と海保が協力し、円滑に任務を行えるようにする狙いがある。
自衛隊法は、首相が自衛隊に防衛出動を発令した場合、防衛相が海保を指揮下に置くことができる、と定めている。
この規定は1954年の法制定時からあるが、具体的にどのように運用するかについては、決まっていなかった。政府が長年の課題を解消したのは、日本周辺の安全保障環境がかつてないほど悪化しているからにほかならない。
海保は通常、国土交通相が指揮・監督しているが、新たに決めた統制要領では、閣議決定で防衛相の指揮下に入ることになる。
他国から侵攻を受けた場合、自衛隊は攻撃を排除するため、前線での防衛作戦に集中する。
一方、海保はその後方で、住民の避難や救援、周辺の漁船などへの情報提供、港湾施設でのテロ警戒といった任務に従事する。海保は、あくまでも警察機関として活動することになる。
自衛隊と海保の役割分担を明確にし、それぞれが備える能力を最大限に発揮することが重要だ。
ただ、手続きを定めただけで、万一の事態に的確に対処できるようになるわけではない。事前の綿密な共同訓練が不可欠だ。
自衛隊と海保は、近く机上訓練を行ったうえで、海上での実動訓練を実施するという。武力攻撃事態はむろん、武装した漁民が離島に上陸するといったグレーゾーン事態も想定し、着実に練度を向上させてもらいたい。
有事への備えでは、国民保護の体制作りも急務だ。特に離島住民の避難には、輸送力をどう確保し、避難先はどこにするのかなど、様々な課題がある。
沖縄県は今年3月、先島諸島の住民を、民間の航空機や船舶を活用して九州に避難させる図上訓練を初めて行った。想定していた約12万人の避難を完了するには、最短でも6日を要したという。
国民保護では、都道府県が多くの役割を担っているが、航空会社との調整や、県域をまたいだ避難先の確保といった業務までこなすのは容易ではない。
政府は自治体任せにせず、様々な取り組みを支援すべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月29日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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