【社説②】:ごみ屋敷対策 迷惑行為正す法整備が必要だ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:ごみ屋敷対策 迷惑行為正す法整備が必要だ
居住者が大量のごみをため込む「ごみ屋敷」は地域の環境を損ね、近隣住民とのトラブルの原因となる。国は対策を自治体に委ねるのではなく、法整備を早急に進めるべきだ。
環境省が行った初の実態調査によると、全国の自治体で過去5年間に確認されたごみ屋敷は5224件に上った。東京都の880件が最多で、愛知県の538件、千葉県の341件が続いた。
高知県や三重県でも200件を超えており、約4割の自治体が「ごみ屋敷問題がある」と回答した。今や全国的課題である。
ごみ屋敷を放置すれば、悪臭や害虫などが発生し、火災の危険も高まる。それにもかかわらず、自治体が居住者への指導などでごみを撤去できたケースは、約半数にとどまっている。
ごみと認識していても高齢や病気で片付けられない人や、認知症で判断力が低下した人が、ごみ屋敷を生む例が少なくない。家族を亡くした高齢者が地域社会で孤立し、自治体の支援を拒否することもあるという。
こうした人々に対しては、自治体のごみ処理部門だけでなく、福祉部門や地域住民も加わり、一体となって取り組む必要がある。
しかし、より深刻なのは、居住者がごみを「財産」と主張し、説得に応じないケースだ。
ごみ屋敷問題に直接対応する国の法律はない。このため、一部の自治体は、行政代執行でごみを強制撤去できる内容や罰則などを盛り込んだ条例を定めている。
ただ、適用例は極めて少ない。自治体側に強制措置への抵抗感がある上、有識者会議に諮るなど、時間と労力がかかるからだ。
仮にごみを撤去できても、居住者が同じことを繰り返すようでは、根本的解決にはならない。自治体の対応だけでは限界があるのは明らかだ。
高齢化の進展や独居老人の増加により、ごみ屋敷問題が今後も拡大するのは避けられない。問題の重大性に比べて、政府の対応は遅れが目立つ。
ごみ処理は環境省、福祉分野の支援は厚生労働省、といった政府内の縦割りにとらわれていては、各地の実態や自治体の要望を十分に把握できまい。適切な支援も行えないだろう。
国は、ごみ屋敷に関する明確な対処方針を示す必要がある。廃棄物処理法などを改正し、近隣住民の生活を脅かす悪質な事例に対して実効性のある措置をとれるようにしてもらいたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月29日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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