《社説①・12.19》:ホンダ・日産の統合協議 ピンチを好機にできるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説①・12.19》:ホンダ・日産の統合協議 ピンチを好機にできるか
自動車産業は100年に1度と言われる転換期のさなかにある。電気自動車(EV)の普及や新興勢力の台頭といった構造変化に対応し、経営の革新を実現しなければならない。
ホンダと日産自動車が統合に向けた協議を進めている。三菱自動車が加わる可能性もある。3社が集結すれば販売台数は800万台を超え、世界3位に浮上する。
国内メーカーはトヨタ自動車を中核とするグループとの2陣営に集約される。業界再編は1990年代から断続的に続いたが、国内でしのぎを削る2、3位の統合は、かつては考えられなかった。
背中を押したのは危機感だ。
脱炭素やデジタル化が産業構造を変えている。次世代自動車の本命とされるEVは、モーターなどの主要部品を組み立てれば完成できるため、参入のハードルがエンジン車より低い。デジタル家電と同様の現象が再現されつつある。
◆産業構造の転換が加速
世界の勢力図は塗り替えられ、米テスラがEVの主役に躍り出たかと思えば、BYDなどの中国勢が猛追している。
燃費性能の高さなどで世界市場を席巻した日本勢の足もとは、盤石といえない。ホンダは今年度上半期の売上高が過去最高を更新したものの、中国では現地メーカーとの厳しい競争にさらされる。
日産の業績不振は深刻だ。ハイブリッド車(HV)の出遅れが響き、主力市場の北米で失速した。世界で9000人を削減するリストラ策を打ち出したが、販売回復の展望を描けていない。
両社は3月、車載ソフトや電池での提携で合意していた。経営再建途上の日産との統合に踏み切れば、ホンダはリスクを引き受けることになる。
それでも統合を目指すのは、一体化して迅速に経営判断できる体制を構築しなければ、急速な産業構造の変化に対応できないと考えたのだろう。
一方で、組織が大きくなるほど意思統一が遅れがちとなる点には留意が必要だ。スピード感を欠けば、肥大化の弊害が大きくなる。テスラがEV専業のビジネスモデルを完成できたのは、創業者イーロン・マスク氏の強力な指導力があったためだ。
経営体質が異なるホンダと日産の融和は簡単ではあるまい。
日産はカルロス・ゴーン元会長による長期政権に幕を下ろした後の経営体制を模索している最中で、経営難もあいまって迷走が続いている。創業以来、独立路線を貫いてきたホンダには、統合への慎重論も根強い。
もちろん、規模のメリットは大きい。90年代には、販売台数400万台を目指した業界再編が進んだ。脱炭素対策や自動運転などの開発に巨額の投資が必要となる中、生き残りの条件は厳しさを増している。
各社が注力しているEV市場は、値段の高さなどから想定外の減速に陥った。先行きの不透明感が強まり、割安なHV向けの投資などにも資金を振り向ける必要性が高まっている。自動運転の開発では、資金力のある米GAFAなどIT勢との競争に直面する。
◆供給網への影響大きく
トヨタ自動車は、HVやEVから水素を使う燃料電池車まで「全方位」で展開している。それを可能とするのは、1100万台超の販売台数に裏付けられる収益だ。
今のホンダや日産には、こうした路線を取る余裕はない。
日産はHVに経営資源を割けず、量産で先行したEVでも消費者にアピールできる商品を十分にそろえられないでいる。ホンダはHVで先行するが、注力するEVや燃料電池は道半ばだ。
互いの弱点を補完し、リスクを分散しながら成長の伸びしろを増やす取り組みが欠かせない。
自動車は日本経済の稼ぎ頭だ。完成車メーカーを頂点に多数の部品メーカーが連なり、関連産業の就業人口は550万人を超える。再編が取引先の経営や雇用に与える影響は大きい。
エンジン車の縮小を見越し、宇宙や医療など他産業へ活路を見いだそうとしている下請け企業も多い。大手企業や政府は、取引先企業の成長の芽をつぶさない支援策を講じるべきだ。
日本経済の屋台骨が競争力を維持できるかどうかの正念場である。危機感をバネに組織や商品構成のあり方を見直し、成長の推進力を高める戦略が求められる。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月19日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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