《余録・12.18》:「盗難ということもあるし…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《余録・12.18》:「盗難ということもあるし…
「盗難ということもあるし、火災ということもある。銀行の個人用貸金庫がもっとも安全であろう」。与党の総裁選びを背景に全共闘崩れのゴーストライターや議員秘書が暗躍する松本清張の「迷走地図」。41年前に映画化されたミステリーのカギとなる文書は貸金庫に保管されていた
▲保有者の代理人となり中身を手にした男は隠し場所に困り、再び貸金庫を探す。だが取引がないと銀行に断られ、別の銀行からは定期預金契約を勧められた。脱税に使われ国税当局が捜索した例もあると知り貸金庫をあきらめたことが悲劇を招いた
▲ネタバレを避けようとすると隔靴搔痒(かっかそうよう)になる。それでも推理小説の巨匠が「貸金庫なら安全」を前提にストーリーを組み立てていたことはご理解いただけるだろう
▲その前提を崩す銀行内部の犯罪だ。三菱UFJ銀行の元行員が東京都内の貸金庫から顧客の金品を繰り返し盗んでいた問題で記者会見が開かれた。被害は4年半にわたり総額十数億円というから驚く
▲「幅28・6センチ、奥行き53・5センチ」の保護箱を開けるには「銀行側と客のキーが必要」。縁のない身には小説の描写で想像するしかないが、現在も大差ないシステムという。カギの管理人による犯罪を想定せず、発見が遅れた銀行の責任は重いが、どこか「昭和の犯罪」を思わせる
▲複雑なパスワードやICチップ、生体認証も万全とはいえず、量子暗号に期待がかかるデジタル時代。貸金庫がアナログのままではトリックに使っても説得力に欠ける。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2024年12月18日 02:03:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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