【社説①】:南米の統合構想 左右の政治対立超えられるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:南米の統合構想 左右の政治対立超えられるか
南米12か国がブラジルで首脳会議を開き、自由貿易圏の創設も視野に、地域の統合を進めることで一致した。各国の政治的立場の違いを超えられるかが問われよう。
南米各国は、持続的な経済成長や環境問題、組織犯罪、貧富の格差といった共通の課題を数多く抱えている。だが、近年は、各国間で左派政権と右派政権の対立が足かせとなり、一体となって取り組むことができなかった。
南米首脳会議は実に約10年ぶりだ。ブラジル、アルゼンチン、チリなど主要国がほぼ左派政権で占められる中、南米で唯一、台湾と外交関係を維持するパラグアイなど右派系の大統領も参加した。
会議を主催したブラジルのルラ大統領の指導力もあったが、各国で問題解決への危機意識が高まっていることの裏返しと言える。国際社会で南米の発信力を強めようという思惑も垣間見える。
今後は外相レベルで統合のあり方を話し合い、工程表を作るというが、具体的な将来像はまだ明確ではない。各国で政権交代があっても、統合協議を継続できるような枠組み作りが重要になる。
南米では2008年にも、米国への対抗を念頭に、左派勢力が主導する地域統合の動きがあった。しかし、その後、経済政策の失敗で右派政権に交代する国が相次ぎ、統合構想は失速した。
ルラ氏は今回、統合が必要な理由について、「自らの利益のために団結して戦うか、経済大国の操り人形であり続けるかだ」と述べた。米欧など先進国による富の独占が途上国の成長を阻んでいる、との認識があるのだろう。
だが、「反米」を強調するだけでは、同じ失敗を繰り返すのではないか。すでに、米国の制裁を受けているベネズエラのマドゥロ政権への対応を巡っては、南米各国の間で温度差が生じている。
米国と距離を置く左派政権の増加につけ込むように、中国は南米への浸透を図っている。途上国に対する過度な融資で相手国を「債務の 罠 」にかけ、中国の権益を増やす動きが広がりかねない。
地域の安定的な統合を進めたいのなら、中国に偏らない姿勢をとることが必要ではないか。
日本と南米は、日系人の活躍や長年の経済・文化協力を通じて良好な関係を維持してきた。天然資源に恵まれた南米は、日本の経済安全保障上も重要な地域だ。
日本は、「法の支配」といった普遍的価値に基づいて南米の統合が進むよう、支援を続けたい。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年06月11日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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