【社説・11.19】:兵庫知事出直し選 信頼回復は真実の究明で
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.19】:兵庫知事出直し選 信頼回復は真実の究明で
自らの失職に伴う兵庫県知事出直し選挙で、斎藤元彦・前知事が再選を果たした。
知事が議会の不信任を受けた事例は過去4例あり、出直し選を勝ったのは「脱ダム宣言」で議会と対決した長野県の田中康夫氏のみ。自らの疑惑で不信任を突き付けられた斎藤氏が大方の予想を覆して勝利したのは、極めて異例であり、驚かざるを得ない。
パワハラなどの疑惑告発文書問題をはじめ、何が真実なのか有権者に分かりにくい選挙戦だった。情報が真偽不明のまま飛び交い、投票に迷った人も多かろう。そうした事情が知事再選の追い風になった面もあるのではないか。
とりわけ交流サイト(SNS)を活用した「インターネット選挙」の影響力はすさまじかった。根拠を欠いているとしか思えない陰謀論や他陣営への攻撃などもSNSで拡散した。選挙の公平性に配慮する新聞やテレビなどの既存メディアが、根拠を欠く主張や誤情報を相手にしないことも「都合の悪いことに、だんまりを決め込んでいる」と逆手に取られた感さえある。
2013年7月の参院選から解禁されたネット選挙で、ウェブサイトやメールで政策の中身や投票を呼びかけることが可能になった。はがきやビラより安く、手軽に主張を届けられるのは利点になる。
しかし、今回のような対立や分断を深める発信は明らかにマイナスだ。こうした発信が拡散したのは、若者を中心に既存メディアへの信頼感が低下していることも原因の一つなのだろう。その現実を私たち既存メディアは重く受け止めなくてはなるまい。
斎藤氏は3月の会見で、元西播磨県民局長だった男性が告発した内容を「うそ八百」と切り捨てた。退職数日前に男性の退職人事を取り消し、公益通報の調査結果を待たずに停職3カ月の懲戒処分にする判断も示している。
男性が死亡に至った、県の一連の対応が果たして適切と言えるのか。プロ野球阪神・オリックス優勝パレード経費を巡る不正疑惑などの真相も何ら解明されていない。
知事への県議会の不信任決議は地方自治法100条に基づく調査委員会(百条委)の結論後にすべきだったという声がある。事実確定しないうちに結論を突き付けたことは先走りという批判もある。
ただ、百条委が実施したアンケートには県職員の4割が知事のパワハラを見聞したと回答した。全てが事実無根であるならば、知事を支えていた副知事が斎藤氏に5回も辞職を勧めること自体が不可解ではないか。そうした県政の実態が選挙戦できちんと議論され、有権者に十分に示されたとは到底言い難い。
百条委は25日の証人尋問に斎藤氏の出頭を要請する。第三者委員会の調査も続いている。斎藤氏は出直し選当選後の取材に対し「政策を進めていく民意が示された」としたが、選挙で勝利したからといって一連の疑惑が全て解消したわけではなかろう。
信頼回復には真実の究明が欠かせない。県政の正常化はそこが出発点であるはずだ。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月19日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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