【社説・12.12】:アサド政権崩壊 混乱収束、国際社会で支えよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.12】:アサド政権崩壊 混乱収束、国際社会で支えよ
内戦が続くシリアで、アサド大統領の政権が崩壊した。反体制派が攻勢をかけ、首都ダマスカスを掌握。親子2代で半世紀以上続いた独裁体制が終焉(しゅうえん)した。
反体制派を主導する過激派「シリア解放機構」(HTS)のジャウラニ指導者は「穏健な統治」を表明。「この勝利はシリア人全体のもの」と幅広い支持を訴えた。
その言葉の通り、旧政府関係者への報復ではなく融和を柱に、できるだけ早く政権崩壊の混乱を収束に導いてもらいたい。
ただ、HTSの統治能力は未知数だ。国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」を前身とし、国連や米国はテロ組織に指定している。
アサド氏は1971年から大統領を務めた父ハフェズ氏の死に伴い2000年に就任した。中東の民主化運動「アラブの春」で11年に広がった反政府デモを徹底して弾圧。反体制派も武力で対抗し内戦に陥った。死者は民間人を含め40万人以上とされる。
さらに看過できないのは、反体制派に対する化学兵器の使用疑惑である。化学兵器禁止機関(OPCW)は猛毒サリンを詰めた爆弾を投下したと断定している。事実であれば許されない行為だ。
政権の崩壊はあっけなかった。反体制派が11月下旬に攻勢を始めると、10日余りで要衝を次々と制圧。アサド氏はロシアに亡命した。
背景には国際情勢を反映したパワーバランスの変化があるのだろう。政権側はロシアやイランを後ろ盾としたが、ロシアはウクライナ侵攻、親イラン民兵組織ヒズボラはイスラエルとの交戦で、それぞれ疲弊していた。
国民に喜びと不安が交錯するのは当然だ。暫定政府の統治方針や治安の確保などの先行きは見通しにくい。
権力の移行がさらなる混乱を生む悪循環は、何としても避けなければならない。それなのにイスラエル軍は化学兵器やミサイルが過激派に渡るのを防ぐとして各地を空爆した上、シリア側に進軍した。中東情勢を不安定にする動きは断じて控えるべきだ。
内戦中に台頭した過激派「イスラム国」(IS)にも政権崩壊の混乱に乗じて活動を強める兆候があったという。米中央軍が拠点を空爆するなど動向に神経をとがらせる。シリア北東部には反体制派と距離を置くクルド人勢力の支配地域もある。対立が激しくなる可能性もある。
シリアには異なる民族、多数の宗教宗派が存在する。新たな統治体制づくりに当たっては、和解を重視するとともに、自由選挙を通じた民主国家の建設が望ましい。
1300万人を超える難民の一部が帰還を始めた。厳冬期を迎え、人道危機の一層の悪化が懸念される。必要な物資が届く態勢づくりが急がれる。日本を含めた国際社会の支援が欠かせない。
ノルウェーであったノーベル平和賞授賞式で、日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員は核兵器も戦争もない世界の実現を訴えた。その精神が、シリアと周辺国に広がってほしい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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