【社説①・12.02】:死刑存廃の提言 実態の直視と議論の契機に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.02】:死刑存廃の提言 実態の直視と議論の契機に
国会議員や学識者ら16人でつくる「日本の死刑制度について考える懇話会」が、現行の死刑制度について「運用の在り方は放置することの許されない問題を伴っている」として、存廃や改善策について国に議論を求める提言を発表した。
議論には元検事総長や元警察庁長官ら刑事司法の幹部経験者、犯罪被害者の遺族らが参加した。
死刑制度に懐疑的な人だけでなく、制度の運用や犯罪被害の当事者側も加わっての提言は注目されよう。
かねて指摘されてきた誤審の可能性について、「神ならぬ人が行う裁判には誤判のおそれが必然的に伴うという否定し難い事実」があるとし、それが死刑制度そのものに根本的な疑問を投げかけている、と訴える。
刑事裁判をやり直す再審制度については、事件証拠の扱いを警察、検察が事実上独占している現状を踏まえ、誤審立証への証拠開示は「弁護人の熱意と能力と献身という偶発的事情に依存している」と批判する。
死刑判決を受けた袴田巌さんが58年の時を経て再審で無罪となった事件は、無実の人が死刑台に送られる可能性があることを改めて突きつけた。
死刑制度の存廃の立場を超えて、取り返しのつかない誤判を排除する仕組みが必要との提言は当然だ。超党派の議員連盟が議論を進めているが、再審法改正へ国会が動くべき時である。
提言は、死刑制度の維持が「国際社会での日本の国益を毀損(きそん)している」との視点も示す。
世界の国や地域の約70%が死刑を廃止か停止する中、国連人権条約機関は度々、日本に死刑廃止を勧告している。
懇話会は、死刑廃止国から容疑者引き渡しなどを拒否された事例をあげた上で、死刑存置が国際司法協力にどんな影響を与えているかを、国が調査して国民に説明すべきとする。
不透明さが内外から批判されている死刑の運用実態についても、情報公開が不可欠だ。
政府は死刑存続の理由に、「やむを得ない」と容認する国民が8割超(内閣府調査)という世論の支持をあげている。
ただ、ベールに包まれた刑執行の判断過程、現場の刑務官の心理的負担など、実態はほとんど知られていない。「国民が正しい意見を形成する前提が欠けている」という懇話会の指摘は的を射ているといえよう。
政府は提言について「廃止は適当でない」(林芳正官房長官)との従来の立場を繰り返す。
在任中に2人の死刑囚への執行命令書にサインした千葉景子元法相は「情報を公開し、国会や市民が刑罰の在り方を考えるべき」と訴えている。
死刑の存廃を考える上では、犯罪被害者支援の充実も欠かせない。社会と刑罰の実態、国際事情を幅広く見据えて議論する必要がある。
元稿:京都新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月02日 16:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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