東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪に問われた東電旧経営陣の公判が30日、東京地裁(永渕健一裁判長)で開かれ、勝俣恒久元会長(78)は「福島県に大津波は来ないと聞いていたので特に問題意識はなかった」と主張した。
- 被告人質問で謝罪する勝俣恒久元会長と(左から)武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長(イラストと構成・勝山展年)(共同)
08年2月、3被告が出席した会議で、7・7メートル以上の津波の予測を報告したとする元担当者の供述を、勝俣元会長は「記憶がない。勘違いと思う」と否定。経営トップとして「カミソリ勝俣」と呼ばれた異名についても「非常にアバウトです」と否定した。
「カミソリ勝俣」の異名を持つ勝俣元会長が、なぜ、社内で指摘されていたとされる津波被害の危険性に対し、その名の通りの鋭い対応を取らなかったのか。検察官役の指定弁護士側が「カミソリ」のように切れるのではないのかと問うと、勝俣元会長は「まったく違います。非常にアバウトです」と異名を返上。傍聴席からは苦笑が漏れた。
- 勝俣恒久元東京電力会長
検察審査会制度の強制起訴による33回目の公判で迎えた、事故当時の経営トップだった勝俣元会長の被告人質問。昨年6月の初公判で津波被害は「予見不可能だった」と無罪を主張していた勝俣元会長は弁護側の主尋問に先立ち、「亡くなられた方々、ご遺族、地域の皆さまに大変申し訳ない」と謝罪した。
その上で、社内で4本部と30の部に分かれた東電の業務をすべて把握できるかと問われ「不可能に近い」と発言。当時の会長職について「社長が助言を求めたら補佐し、対外的な仕事や付き合いをしていた」とし、原発の業務は原子力・立地本部に任せていたとした。
検察官役の指定弁護士側の質問には、08年2月の「御前会議」と呼ばれる社内会議での「7・7メートル」予測報告は「なかった」と否定。09年2月の御前会議で、当時原子力設備管理部長だった吉田昌郎元福島第1原発所長(故人)が「14メートル程度の津波が来る可能性があると言う人もいる」との発言については「聞いた」とした上で「半信半疑のムードだった」と重視していなかったことを明かした。
公判では事故以前に津波被害を予見できていたのかが争点だ。東電は08年3月、太平洋側に大津波の危険があるとの国の長期評価(02年)を受け、子会社が試算を行い、最大15・7メートルの報告を受けていた。
検察官役の指定弁護士側は、07年の新潟県中越沖地震の影響で東電柏崎刈羽原発が停止しており、「15・7メートル」を公表すれば、福島第1原発も停止せざるをえず、津波対策を先送りしたとの見方だ。「公表せず情報を隠し持っていた」と指摘された勝俣元会長は「試算値でしょ」と声を荒らげる一幕もあった。【清水優】
<東電の津波試算巡る動き>
▼02年 国の地震調査研究推進本部が福島県を含む太平洋岸に大津波の危険があるとの長期評価を公表。
▼08年2月 勝俣元会長ら3被告が出席した社内会議で、長期評価を基にした暫定の試算で福島第1原発を襲う津波の高さは7・7メートル以上で、従来の想定を上回ると担当者が報告。
▼3月 東電の子会社が長期評価を基にした試算で津波が最大15・7メートルになると東電に報告。
▼6月 東電の担当者が武藤栄元副社長に試算結果を報告。
▼7月 武藤元副社長が試算手法の研究を専門家に依頼するよう指示。
▼8月 武藤元副社長が試算結果を武黒一郎元副社長に報告か。
▼09年2月 3被告が出席した社内会議で、担当者が「14メートル程度の津波が来る可能性があるという人もいる」と発言。
▼11年3月7日 東電が試算結果を原子力安全・保安院に報告。
▼11日 東日本大震災発生。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【裁判・福島第一原発事故】 2018年10月31日 08:39:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。