中国の漁業船団が尖閣に迫っているとの情報が、まさに日本の政治的経済的文化的「危機」感を煽っている。だが、このような事態は、ある意味で、「後漢の光武帝が建武中元2年(57年)に奴国からの朝賀使へ(冊封のしるしとして)賜った印がこれに相当するとされ」(ウィキ)ている歴史から始まった約2000年の日中の歴史の教訓を根本的に変革する時期がきていることを、今世紀に生きる両国人民に迫っているのだと思う。
それは二つの面で言える。
一つは、「中国」「中華人民共和国」「中華民国」=中華思想について、石原慎太郎都知事に代表される「日本のナショナリスト」から述べられる見下した言葉は、ある意味で、劣等感情の代表だが、それは「倭国」から「日本国」への転換を確実なものにした古代渡来人たちが、劣等感と自立意識を交錯させながら、「日本国」の統治力を拡大・向上させたことと同じ思想だ。
そのことは、実は今日も尚継続している。「東京」そのものが中華思想の焼き直しだし、天皇号や天皇家の各人の名前も、元号も同様だ。そして、その天皇制を支えるために作られた教育勅語と、その思想そのものが中華思想である。これは「戦後レジーム」の「改革」と唱える安倍晋一元首相に代表される。
二つ目は、アメリカの後ろ盾で1871年9月に調印された日清修好条規以来の中国との間の負の歴史を根本的に変革していく時期がきたことを、「日本国」人民に提起しているのだ。
そういう視点から、今日の「朝日」をみてみよう。
一つは、2面の「尖閣 刺激避ける日米」と題して、以下の紙面がつくられている。
日本 同盟関係進展は強調
米国 肩入れや関与望まず
中国 包囲網を警戒 米の出方注視
日本政府は、「オスプレイ配備で日米がこじれている印象を与えないためにも決着を急いだ」と、日中問題を利用して欠陥機の配備を正当化した。同時に「尖閣諸島を日米安保条約の対象として日米間で確認するという「成果」を強調すれば、中国が強く反発しかねない」とも書いている。
そして日米安保条約第5条を掲載している。まさに日米軍事同盟深化論に立つ「朝日」ならではの紙面づくりと言える。ここに日中平和友好条約の理念を持ち込むことは、全くの想定外だ。
「日本国及び中華人民共和国は、…国際連合憲章の原則が十分に尊重されるべきことを確認し、アジア及び世界の平和及び安定に寄与することを希望し、両国間の平和友好関係を強固にし、発展させるため、平和友好条約を締結することに決定し」た日中平和友好条約の第一条を、本来であるならば、強調しなければならない。
第一条
1.両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。
2.両締約国は、前記の諸原則及び国際連合憲章の原則に基づき、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し及び武力又は武力による威嚇に訴えないことを確認する。
第二条
両締約国は、そのいずれも、アジア・太平洋地域においても又は他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国又は国の集団による試みにも反対することを表明する。
第三条
両締約国は、善隣友好の精神に基づき、かつ、平等及び互恵並びに内政に対する相互不干渉の原則に従い、両国間の経済関係及び文化関係の一層の発展並びに両国民の交流の促進のために努力する。
尖閣問題においてこそ、この条約の履行を遵守すべきだ。
次に39面だ。
「反日加速 緊迫の9.18」「満州事変の発端 中国では『国恥』」として「現地の日本人、警戒」「ネットで怒り増幅」「日本の過激デモに反発 デマも」「白鵬の訪中、中止」「中国総領事館に発炎筒投げ込む 福岡 男が出頭」などの記事が掲載された。そのなかで大変重要なことが書かれている。
「9月18日は中国にとって特別な日。気をつけて」。中国東北部の大連市。日系部品工場で働く日本人男性社員(35)は日本人の上司と中国人の同僚から相次いで助言され、初めて「9・18」を知った。同市は、日本が戦前、大陸進出の足がかりとした地だ。「何を言い返されるか分からないので、ふだんから現地の社員に歴史の話題は振らない」。ここ数日は、工場と自宅の往復以外の外出を控えている。…毎年、この日は、各地でサイレンの音が流れ、戦争犠牲者に向けて黙祷する。「中国人は侵略された歴史を忘れていない。18日は確実に参加者が増えるだろう。平日でなければ、私も行くつもりだったよ」(引用ここまで)
「柳条湖事件」の解説は以下のようになっている。
1931年9月18日、中国東北部の奉天(現在の瀋陽)郊外にある柳条湖で南満州鉄道の線路が爆破された。これを機に、現地の日本軍は「爆破は中国側の仕業」として軍事行動を開始。満州事変の発端となったが、真相は日本車の自作自演だった。翌32年には清朝最後の皇帝だった溥儀を執政に迎え、傀儡(かいらい)国家の「満州国」を建国。日本は満州を支配した。(引用ここまで)
この程度の認識しか書かない「朝日」は、記事のなかで「日本政府は歴史問題を忘れてしまっているのでは」という元日本語教師の塩根寿美氏の言葉を紹介しているにすぎない。これでは、日系部品工場で働く日本人男性がいるのも仕方ないだろう。
被害国の9.18がどんな日か、これは加害国の8.15がどんな日かをみれば、明瞭だろう。だが、この記事は、「満州を支配した」とは書いても大連を「戦前、大陸進出の足がかりとした地」としか書けないような歴史認識では、中国国民を説得・納得させることはできないだろう。
38面に「拉致問題解決求める」「日朝会談10年 家族『時間ない』」と被害者の「つらい時間」を強調しているが、まさに加害と被害が逆転している記事を書く際の視点が中国の歴史問題については、全く被害者への慮りは想定外となっている。ここに最大の問題がある。
このことは今日の「天声人語」「産経抄」にも言える。
2012年9月18日(火)付
通り過ぎた台風になぞらえれば、きょうは中国で暴風に大潮の重なる日である。尖閣諸島をめぐって反日の嵐が渦巻いている。そこへもって、18日は満州事変の発端となった柳条湖事件から81年になる。それでなくても反日感情の高まる日だ▼加えて、東シナ海の休漁期間が一昨日明けた。台風一過の尖閣周辺へ、中国漁船が大挙繰り出す情報もある。中国当局は「漁民の生命と安全を守る」と強硬だ。海保の巡視船に漁船が体当たりした、2年前のような「英雄気取り」が心配される▼デモの参加者にしても、このさい暴れ回っても大丈夫なことは計算済みだろう。「愛国無罪」の錦の御旗(みはた)があるうえ、規制は手ぬるい。民衆の猛威を日本への圧力にする政府の思惑も、承知しているふうである▼テレビを見ると、尖閣諸島を地図で指せない参加者がいる。反日スローガンだけ覚えれば事は足りるらしい。それを政府もメディアも煽(あお)る。腹に据えかねる図だが、同じ土俵で日本人が熱くなってもいいことはない▼歴史問題もあって、日中関係はなかなか安定しない。小泉政権下でも凍りついた。その後、温家宝(ウェンチアパオ)首相の「氷を溶かす旅」の訪日などで関係は良くなった。それが国交回復40年の節目に、この間で最悪とされる睨(にら)み合いである▼むろん主権は譲れない。だが挑発せず、挑発に乗らず。あおらず、そして決然と。官も民も、平和国家の矜持(きょうじ)を堅持しつつ事を運びたい。諸外国の日本への支持を膨らますよう、考えていくときだ。(引用ここまで)
[産経抄]2012.9.18 03:06
『阿Q正伝』そのものだ。みなさんが中国各地で繰り広げている、日本人や日系企業に対する乱暴狼藉(ろうぜき)の映像を見ての感想です。なんのことかと、首をかしげる人もいるかもしれません。
▼ここ数年、中国の高校生向け国語教科書から、魯迅の作品が次々と姿を消していると聞きます。中国共産党一党独裁体制への批判につながるのを、当局が恐れているのでしょうか。
▼阿Qは貧しい農夫です。自尊心だけは高く、すぐケンカをふっかけます。辛亥革命の混乱の中、意味もわからないまま「謀反」だと浮かれますが、結局革命党の仲間には入れませんでした。それどころか、革命党が起こした略奪事件のぬれぎぬを着せられ、処刑されてしまいます。
▼衆を頼んで押し寄せるみなさんは、一人になると普通の青年なのではありませんか。みなさんが植え付けられてきた、愛国教育は間違いだらけです。「小日本打倒」などと気勢を上げる前に、尖閣諸島について正しい知識を得ていただきたい。
▼実は、怒りの矛先は、格差の拡大や就職難、官僚の汚職を許す政府に向けられている、との指摘があります。「反日」を掲げてさえいれば、当局も見逃してくれるからだ、と。魯迅は、そうした民衆の欺瞞(ぎまん)と、それを利用する政治権力こそ、中国の宿痾(しゅくあ)だと見抜いていました。なんとか覚醒を促そうと決意して、日本留学中に医学から文学へ転じたのです。
▼きょう18日は、柳条湖事件から81年に当たる日とあって、日系社会は緊張の度合いを高めています。あなたたちがみっともない振る舞いを続ければ、国の品格に傷が付くのは避けられません。ぜひ、理性ある行動をお願いします。魯迅もそれを望んでいるはずです。(引用ここまで)
「天声人語」子は、「産経抄」と同じだ。歴史問題が欠落し、現局面のみを抽出して、「腹に据えかねる」「乱暴狼藉」「愛国教育は間違いだらけ」など、感情的言葉を浴びせて、日本人の中国人観を過った方向に導くものと言える。
魯迅については、以下を参考していただきたい。日米軍事同盟の「武力」を抑止力として是認しておいて、中国人には「理性ある行動」を求める「産経抄」のご都合主義がよく判る。
鳥飼行博研究室Torikai Lab Network魯迅の日本留学・戦争・革命
7.日清戦争後の中国人の日本留学生・郭沫若,魯迅は,ともに医学から方向転換して,文学の道を志した。それは,日本の朝鮮半島・中国大陸への進出の時期,中国におけるナショナリズムが高揚した時期であった。…東北大学に魯迅が留学中「幻灯事件」がおきた。魯迅『吶喊』によれば,細菌学の教授が授業時間に、日露戦争のスライドを見せ,日本軍兵士が,ロシア軍スパイ容疑者(露探)とみなした中国人の処刑(銃殺あるいは斬首)をする場面があった。中国人が取り囲んで傍観していたのに衝撃を受けた魯迅は,中国人の治療には,医学よりも、精神の再構築が不可欠だと文学を志すようになった。
◆魯迅『阿Q正伝』には、革命党員の嫌疑をかけられ捕まった阿Qが、斬首されると思いきや、銃殺されたことが書かれている。これは、魯迅が仙台留学中に見た中国人スパイ容疑者の処刑とその中国人見物人の傍観者的様子の心象風景である。
阿Qは,節操なく革命家を気取った盗人であり,立身出世を目指した革命の謀反人であった。魯迅は,阿Qのようなエセ革命家が,今後の中国に出現することを危惧していた。革命の謀反人によって,革命家は犠牲にされ,一般市民も革命を劇場国家の一部として傍観する立場に終わってしまう。こうして,革命が失敗し,中国が混乱することを,魯迅は心配していた。
http://www.geocities.jp/torikai007/bio/rojin.html(引用ここまで)
次に「赤旗」である。以下を参考にしていただきたい。こういう報道が日本を駆け巡った時、真の友好と連帯が生まれるだろう。
中国政府は日本人・企業・大使館の安全確保に万全を期せ 中国での暴力行為 市田氏が演説
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-09-18/2012091801_02_1.html
冷静対応求める声も 新聞・ネット 「平和解決」支持48% 中国
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-09-18/2012091801_03_1.html
最後に今日の事態を解決するための方策について強調しておこう!
中国の「愛国者」に呼びかける言葉としては、以下のようになるだろう。
抗日にかけた「理想」を、今どのように使うか、世界が注視している。日本帝国主義の侵略拡張主義がもたらした弊害・害悪を根本的に変革していくためには、何を教訓とすべきか。民族自決権と対等平等の尊重、寛容と相互理解と連帯だろう。日中2000年の正の歴史を踏まえ、負の歴史の遺産を根本から克服していく営みを今世紀において成功させよう。そのために、
日中両国の若者が立ち上がろう!
冷静な話し合いを南京・重慶・広島・長崎で行おう!
というのは、どうだろうか!