またしても悲しい事件が起こってしまいました。全国紙の報道を検証してみました。ところが事実を「淡々」と伝えるのみで、命を絶たなければならなかった最大の理由である「メモ」について掘り下げた記事は見られません。以下一通り一覧しておきます。
時事 「どうか命とひきかえに」=自殺の小5、閉校中止訴え-大阪 (2013/02/15-21:33)
共同 自殺の小5、統廃合「中止して」 2013年2月15日(金)22時4分配信
http://news.nifty.com/cs/headline/detail/kyodo-2013021501001898/1.htm
J-CASTニュース 「とうはいごう中止して」 小5男児、抗議の飛び込み自殺 2013年2月16日(土)16時28分配信
http://news.nifty.com/cs/headline/detail/jcast-165663/1.htm
日経 大阪の小5自殺 「学校統廃合中止を」メモ残す 2013/2/16 0:29
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1505X_V10C13A2CC1000/
朝日 学校統廃合「中止してください」 小5、遺書残し自殺
http://www.asahi.com/shimen/articles/OSK201302150195.html
毎日 大東・小5自殺:「悩んでいたこと把握できず」校長が謝罪 2013年02月15日 21時18分
http://mainichi.jp/select/news/20130216k0000m040106000c.html
産経 「どうか小さな命とひきかえに…」自殺男児、学校の統廃合に反対か 2013.2.15 13:18 http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130215/waf13021513200016-n1.htm
毎日 大阪・大東の小5自殺:「学校統廃合」反対メモ 閉校式を延期 2013年02月15日 大阪夕刊
http://mainichi.jp/area/news/20130215ddf041040012000c.html
読売 自殺の小5、統廃合への賛否を同級生に尋ねる? 2013年2月15日23時45分
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130215-OYT1T01232.htm?from=popin
ところが、「『どうかひとつの小さな命とひきかえに、統廃合を中止してください』という趣旨の文言が書かれていた」(産経)と、多くの新聞も書いてはいるものの、自殺の原因となった「統廃合」政策について、どの新聞も沈黙です。
大津市の「いじめ」、大阪市立桜宮高校の「体罰」という名の「暴力指導」の時の書き方とは大きく違っています。さらに言えば、この事件に対する橋下市長のコメントはどこにもありません。橋下市長のツィッターにも、この事件のことは書き込まれていません。書き込まれているのは、2月8日と16日だけです。
http://twilog.org/t_ishin/month-1302
http://bluegreen-iza.iza.ne.jp/blog/entry/3003840/
http://blog.livedoor.jp/misutiru7878/archives/24668486.html
この不正カキコミ・ノットリは修復したようですが、未だこの事件について、記者会見でも発言していません。理由は、新聞記者やテレビ局の記者が、不思議なことに質問しないこともあるかと思いますが、ツィッターでもつぶやかないのです。不思議です。
あれほど教育委員会を口汚く罵って、罵倒していた、いや罵らせて、罵倒させていたマスコミが、沈黙しているのです。不思議です。その理由については、後で述べます。
もう一つ不思議なことがあります。
この少年の自殺事件は「息子の思いに気付いてやれなかったのが悔しい。自殺というやり方で世の中が変わると他の子が思わないでほしい」(毎日)という母親と「死んで何かを解決する風潮があってはいけない」(時事)祖母の発言によってスリカエられてしまったようです。
自殺に追い込まれていったのは何故か、以下の記事にヒントがあるようです。
小5自殺で両親手記「学校統廃合、再検討して」(2013年2月18日06時18分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130217-OYT1T01125.htm?from=ylist
それは子どもの権利条約の具体化を怠っている大人社会、教育界の有り様です。子どもの年齢にあった意見表明の権利の保障です。子どもであっても、一人の人間として権利行使の場を保障することで、人権思想を定着させていくこと、こうした訓練が日本の社会と学校で弱いからこそ、子どもの心理を袋小路に追いやってしまうことを大人、教育者は反省すべきです。
さて、この悲惨で不幸な事件がスリカエられている理由は、もう一つあります。それは文部科学省と橋下市長の教育政策の責任に、追及の手が及ぶことを妨害しようとするマスコミの「力」が働いているということです。この奥深いところに、国会審議でも明らかになったように、安倍自公政権の応援団と化した日本維新の会に対するマスコミの立場、正体が透けて見えてくるのです。
本来ならば、特色ある学校づくりと学校選択制の推進を学校間競争の扇動で格差拡大競争の渦中に保護者も地域も教師も陥らせ、逆らう者は排除ずるというのが橋下教育政策でした。その競争に成果を出せない学校は統廃合の対象に、成果を上げられない教師は賃金で差別し、生徒は学校から排除するというのが橋下教育政策でした。これも文部科学省と財界の意向を受けた教育政策で、「維新」どころか、陳腐な、古臭いものでした。
しかし、マスコミの応援を受けて、清新なものであるかのような印象を国民に与え、架空の「支持」を掠め取ってきた結果が、高校においては、部活動の成果を追い求めた結果、体罰指導=暴力指導による自殺という結果を招いたのです。
ところが、これには橋下市長は自殺の追い込んでしまった責任をとることなく、泣く逆に「改革者」であるかのように振る舞い、マスコミも手を貸しました。
しかし、今回は、「改革者」ぶることはできません。少年を自殺に追い込んだものは「学校選択制」と「統廃合」だからです。以下の記事をみれば、橋下市長の責任は免れることはできません。
「産経」にアッパレを上げてよいと思います!
【大阪の教育は輝くのか(4)】定員割れの恐怖…「競争=善」は幻想2012.11.13 08:00 http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121113/wlf12111308000000-n1.htm
【大阪の教育は輝くのか(5)】理想と現実… 学校選択制が生む功罪2012.11.14 08:00
http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/121114/wlf12111408000000-n1.htm
大阪市教委が平成26年度の導入を目指す、橋下徹市長肝いりの市立小中学校の学校選択制。児童・生徒や保護者が、従来の学区に縛られず一定のエリア内で「行きたい学校」を選ぶことができる制度だ。10月には市教委が、進学先を複数校希望できる全国初の「大阪方式」を盛り込んだ方針案を了承し、導入に向けた準備が加速している。… 橋下市長の狙いは、学校間に競争原理を持ち込むことでそれぞれが切磋琢磨し、特色ある学校づくりを推し進めることにある。子供たちの利益につなげることが一番の目的だが、結果的に「選ばれない学校」は淘汰(とうた)されることになる。 「地域コミュニティーの崩壊につながる」。制度導入には反対論も根強いが、橋下市長は「地域と学校のつながりは大事だが、保護者や生徒の選択権を奪ってまで押しつける価値なのか」と反論する。 ただ、学校選択制の先進地では、メリットの半面、制度がもたらすひずみも表面化している。
はられるとはがせない「レッテル」
全23区のうち19区の区立小中学校で学校選択制が導入されている東京都。今年度で制度導入から10年を迎えた杉並区教委は3月末、平成27年度限りで同制度を廃止することを決めた。(引用ここまで)
「産経」が指摘するまでもなく、以下の記事をみれば、橋下市長の教育政策の破綻は明らかです。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-05-11/2012051106_01_0.html
http://www.jcp-osaka.jp/2012/04/post_1048.html
http://blog.livedoor.jp/ideas_frogegg/archives/7121282.html
橋下市長の「維新」のゴマカシ教育政策の奥深いところに、文部科学省の中教審路線がることをマスコミは検証していくべきです。以下の記事が、その誤りを雄弁に語っています。
小・中学校における学校選択制等の実施状況について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/08062504.htm
学校選択制に関する主な意見等の整理(平成21年7月6日中央教育審議会初等中等教育分科会資料)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakko-sentaku/08062504/1290797.htm
学校選択制等に関する最近の主な提言等
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/038/siryo/08071404/009.htm
特色ある学校づくりの象徴である体罰=暴力指導も学校間格差助長政策も、その行き着く先に文部科学省の、自民党の教育政策があります。このことは、実は経団連の教育政策に、その大元をみることができるのです。それは安上がりの労働者の育成、低賃金政策の推進による国際競争力の強化路線です。その被害者に未来のあるべき少年たちが取り込まれ、命を絶っているのです。
21世紀を生き抜く次世代育成のための提言-「多様性」「競争」「評価」を基本にさらなる改革の推進を-2004年4月19日(社)日本経済団体連合会
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/031/honbun.html#part2
「競争」と「評価」を基本に現場の取り組みを促す
教育機関が互いに切磋琢磨する環境を整備することによって、学校や教員が改革に取り組まざるを得ない状況をつくることが重要である。そのためには学校選択制の普及など、競争的環境をつくるための仕組みづくりが欠かせない。
また、予算面では、特に、予算面では、学級数や学生数など学校の規模に応じた予算配分から、現場が創意工夫を発揮してつくりあげた研究・教育プログラムに対する予算配分へと考え方を根本から転換すべきである。また、国際化やIT化など重点的に取り組まねばならない分野には必要な予算を確保することも必要である。教育は国家戦略の重要な柱であるとの認識のもと、ばらまき型の予算配分ではなく、メリハリの効いた予算編成を行い、生徒・学生一人あたりの教育予算が世界最高レベルにまで引き上げるよう努力することを求めたい。
一方、各教育機関の取り組みに対する評価を徹底することも併せて必要となる。その際、生徒・学生、保護者、企業、地域など教育のステイクホルダーが直接学校や教員を多面的に評価できるように、各教育機関に対して、教育目標の開示、その達成状況等について情報公開し説明することを求めたい。さらに、校長や教頭による教員に対する評価とそれに応じた処遇制度(給与・賞与の査定)、校長、教頭を補佐する管理職制などを速やかに導入すべきである。現状では、やる気のある教員が、変化を嫌う事なかれ主義の現場に埋没し、やる気を失ってしまう。現場の努力が正当に評価されるよう早急な改革を望みたい。…(引用ここまで)
この「提言」が政権政党の教育政策となり、政府の教育政策となり、文部科学省を通じて各都道府県教育委員会から市町村教育委員会へ、そうして学校現場へ下ろされるのです。その最大の被害者が子どもであり、保護者であり、教師であることは、約10年前に出された「提言」の「結果」をみれば、明瞭です。