
東京都目黒區駒場の日本近代文学館にて、「芝居は魂だ! 築地小劇場の軌跡」展を観る。
大正十三年(1924年)、前年の関東大震災で焦土と化した東京築地に、小山内薫と土方与志によって建てられた五百席の中劇場──築地小劇場の登場こそが、日本の近代演劇が本當に産聲をあげた瞬間と云って良い。
現在の日本の有名劇團はそのほとんどが築地小劇場を發祥としており、よって役者や役者志望でこの劇場の名を知らぬ者は、恥ずべき者である。

(※築地小劇場跡地 東京都中央區築地2-11-17)


築地小劇場の舞台に関わった人たちの最大の使命は、國家權力に對して烈しく異を唱へ、觀衆を啓發して同感を得ることにあった。
さうした“左”な情熱は、まさに戰前の時局の産物と云へる。
この熱い劇場は第二次大戰中の東京大空襲によって焼失したが、戰後に“主権在民”となり、かつて攻撃してゐた權力が自分たち國民の掌中に納まったことを考へると──もちろん建前上の話しだ──、やはり築地小劇場は丁度良いところで使命を全うしたのだと思へなくもない。
だが、戰後日本の現代演劇を大いに牽引したのはかつてこの劇場の舞台を経験した役者たちであり、その一人だった杉村春子が遺した芝居の台詞、
『失敗だの成功だの、そんなことをいってみて一体何かになるんでしょうか。誰かが選んでくれたのでもない、御自分でお選びになった道じゃありませんか』
は、なにやら私自身が励まされたやうでもあり、この出逢ひが今回の思ひがけない収穫となる。