おどりの「藤娘」が目的で、都内の文化ホールで行われた歌舞伎の巡業公演を観に行く。
やはりああいった娘物のおどりは、ただ白粉を塗っただけで綺麗に見える若い女形で観たほうが楽しい―なにしろ後ろ向きにのけ反っただけで、お客は喜んで手を叩くのだ……。
この曲は日本舞踊の代表曲であり、また人気曲であり、わたしも大好きな曲なので、実に様々な人たちのものを観ているが、意外と「よかった……」と思える舞台に出 . . . 本文を読む
今年五月三十日に全線復旧したばかりの仙石線に乗り、旧野蒜駅を訪ねる。
あれから四年が経ったが、
この駅の時間は、
あの時のまま、
止まっている。
痕跡(きず)は、いつかはなおるのだろうか。
そしてそのとき、
一番列車はふたたび、
やって来るのだろうか。
白く刺し照らす光のもと、愛聴するNHKラジオの「ひるのいこい」で詠まれた一句が、脳裡によみがえ . . . 本文を読む
二年ぶりに山形県鶴岡市櫛引町を訪ねて、黒川能の薪能公演「水焔の能」をたのしむ。
二年前に初めて訪れた時は、ゲリラ豪雨による天候不順のため屋内に場所を移しての演能となったが、今回はなんとか雨だけは免れ、野外で観ることが叶った。
今年は能が「船弁慶」と「猩々」、間に狂言「針立雷」をはさんだ三番。
黒川能の狂言は、いかにも庶民によって受け継がれた芸能らしく、武家式楽の性格を濃厚に残した“ . . . 本文を読む
国立能楽堂の納涼能公演で、宝生流の「橋弁慶」を観る。
弁慶と牛若丸が五條橋の上で出逢う、わかりやすい曲だ。
一般に流布している伝説では、夜な夜な五條橋に出没して侍の刀を奪うのが弁慶で、そこへ現れるのが牛若丸、となっている。
しかし謡曲では、橋で人を襲うのが牛若丸で、それを迎え撃たんとするのが弁慶、と立場が逆になっている。
演能前の解説によれば、弁慶と牛若丸の伝説がつくられたのは室町時 . . . 本文を読む