京王井の頭線の「駒場東大前」驛ちかくで見つけた、軽食店の看板。
『こうひい』
平仮名でこの表記。
なんだか、懐かしい。
かういふセンス、私は好きだ。
入口扉のガラスに貼られたメニューによれば、「こうひい」──コーヒーは¥300。
だが、私が通りかかった時、お店は「少しお休み」中。
どんな「こうひい」なのかは、いつかまた縁があった時に……。
同じ通り沿ひには、古本屋もあ . . . 本文を読む
自販機でペットボトル飲料を買おうとしたら、釣り銭だけ出て来て、肝心の商品(モノ)が出て来ない。
モーターの回転する音は聞こへるから、なかで詰まったやうだ。
すぐに、フリーダイヤルのコールセンターへ電話をかけた。
すると、おそろしくマニュアル通りの、無表情な調子で喋る女性が現れた。
聲に全く抑揚がない、いはゆる一本調子で、なんだか自動音聲を聞いてゐるやうだ。
それが肉聲であるだけに、ひどく . . . 本文を読む
横浜市中区の日本郵船歴史博物館で、「時計×航海──経度ヲ発見セヨ──」展を見る。
GPSで自分がどこにいるのかすぐ判明するどころか、他人の居場所すら簡単に割り出せてしまふ現代から300年以上も昔、海上で「緯度を発見する」といふ言葉は英國におゐて、
『不可能である』
との意味で使はれていたほど、航海中に自分の居場所を測定することは困難だった。
しかし、ジョン・ハリソンといふ時計職人が「マリ . . . 本文を読む
来る2020年3月、京浜急行は創業120年を機に次の四驛を改称すると発表した。
すなはち、
「産業道路」を『大師橋』に。
「花月園前」を『花月総持寺』に。
「仲木戸」を『京急東神奈川』に。
「新逗子」を『逗子•葉山』に。
沿線在住の小中学生(ジャリども)を対象とした一般公募で驛名を決めるとのことで、かなり物議をかもした今回の改称騒動を、わたしもかなり憂へたクチだったが、小中学生の . . . 本文を読む
活弁士•坂本頼光氏による「サイレントシネマ&活弁ワールド」を、今年も横浜市岩間市民プラザで楽しむ。
いつもの大仕掛けな道具立てと体を張ったギャグで、約二十分間笑ひを誘ふといふより、驚きを誘はれる「キートンのマイホーム(文化生活一週間)」(1920年、米)と、大正十四年(1925年)に“バンツマ”こと阪東妻三郎が主演した画期的なチャンバラ作品「雄呂血」の二本立て。
バスター•キートン . . . 本文を読む
今年も国立能楽堂で、恒例の「手話狂言•初春の会」を観る。
威張る人種を山伏に象徴させて揶揄した「柿山伏」、
主人が太郎冠者に、『供はまだ決まらぬと言へ』と言ひつけるところに、雇用者の俗な計算が仄見える「素袍落」、
けっきょく男女の縁とは“諦め”であることを、妻と愛人の手車が皮肉たっぷりに笑はせる「鈍太郎」──
ろう者俳優たちが魅せるこれら赤裸々な人間賛歌に先立ち、黒柳徹子さんが「お話 . . . 本文を読む
東京都港区南青山の根津美術館で開催中の企画展、「酒呑童子絵巻──鬼退治ものがたり──」を見る。
源頼光と四天王の一行が山伏に姿を変へて酒呑童子に接近し、毒酒を吞ませて見事に討ち取る話しは、謡曲「大江山」をはじめ様々に藝能化され、よく知られたところ。
酒呑童子の棲み家は大江山と伊吹山の二ヶ所が伝へられ、今回全八巻が公開された“住吉弘尚(すみよし ひろなお)版”は後者。
前半、酒呑童子の生ひ . . . 本文を読む
東京都北区王子にあるお札と切手の博物館で開催中の、「お札の色 切手の色~偽造を防ぐ技と美~」展を見る。
私のやうな弱小庶民はいつも泣かされてゐるお金、
ヒラヒラと、見へない翼が生へてゐるらしい紙幣──
“カネは仇”と叫びたくなる紙幣だが、それら一枚一枚は明治以来150年にわたる高度な印刷技術の結晶であることが、よくわかる特別展。
紙幣の印刷技術を高水準たら . . . 本文を読む
私は決して、好き好んでその町へ出かけたわけではなかった。
そこはすでに、
川の向かふの、
よその「國」だったからだ。
しかし私は、その人に会ふことだけを今日の利点と考へ、
オトナと云ふお面をつけて、
川を越へた。
猿楽師はかつて、
旅藝人であった。
彼らは、
あらゆる國の堺を越へて、
猿楽を演じつづけた。
無駄なものはすべて削ぎ落とす知恵は、
その日々から生み出 . . . 本文を読む
久しぶりに神田神保町の古書街へ出かけたら、行きつけの古本屋が廃業して無くなってゐた。
広ゐ売り場に品数も豊富で、新書、文庫、ハードカバーとよく整理されてゐたのでとても探しやすく、また絶版本が、ヤケてゐるといふだけで百圓から手に入るのも魅力だった。
神田神保町で古本探しのときは必ずそこが手始めで、いかにも“知識の森”へ分け入って行く感じがあって楽しかっただけに、残念だ。
これが時代の流れ、な . . . 本文を読む
近所で、百人一首の催しの案内を見つける。
目に留まったのは、
『競技ではありません』
の一文。
肘当てに膝当てを嵌めた物々しい小娘が、獲物を襲ふ獣よろしく畳に飛びかかる近頃のそれは、まるで手癖の悪さを競っているかのやうで、
「なにやら汚らしいものが流行りだした……」
と、苦々しく思ってゐた折から、近所に本来の文化を守ってゐる人々がいることを知り、
安堵で心が暖まった、
寒空の午後 . . . 本文を読む
鎌倉歴史文化交流館の春季企画展「鎌倉 災害と復興」を見る。
大正十ニ年(1923年)九月一日の関東大震災につひては、都市部の被害にばかり目が行きがちだが、鎌倉も甚大な被害に遭ってゐたことを、今回の企画展ではじめて認識する。
まったく不明不覚の至りである。
木造建築の古刹が大屋根を残してことごとく押し潰され、高徳院の大佛も南へ45cmもずれるなど、それら被害状況を克明に記録したいくつもの貴重 . . . 本文を読む
久しぶりに大和駅前の骨董市に出かける。
昨日になって、今月は十九日が開催日であることをふっと思ひ出し、午前中の予定を変更して、覗きに行って見ることにする。
もっとも、久しぶりに相模鉄道線に乗るのもいいなァ、といふ気持ちもあったのだが、
御縁が呼び寄せたまふたものか、現代手猿楽の“次回作”によく合ひさうな絵柄の扇を見つけ、手に入れる。
年の初めの末廣かり。
ただし、
浮世に浮か . . . 本文を読む
昼下がり、戦国時代には兵士が洗ひ流した血で赤く染まったと伝はる、小川のほとりを散歩する。
現在(いま)は静かな小径が整備されたその小川で、一羽の白ひ水鳥に逢ふ。
水鳥は私が近付ひても驚くことなく──むしろ知らん顔のやうにも見へた……──、悠然と小川を歩き、時折ほとりの草を突つく。
共存共生。
ことごとく木々を伐りはらひ、
ことごとく陳腐なつくりの家屋を建ててゐる様を見て、
. . . 本文を読む
横浜開港資料館の企画展示「明治の戦争と横浜─伝わる情報、支える地域─」展を見る。
明治新政府によって整備された洋式軍隊は、西南戦争といふ内戦を経て、海の外へと乗り出して行く。
日清戦争後の日露戦争では、一般から徴兵された多くの人が犠牲となったが、それでも今回展示された資料の多くが、意気揚々とした調子に彩られてゐる。
それは、明治ニッポンの経験した戦争はすべて遠い海の向こうの出来事であり、ま . . . 本文を読む