梅ヶ枝を
箙に挿したる若武者が
太刀抜き払い
立ち向かふ
匂い立ちたる
花の香に
敵(かたき)はたちまち心を乱し
残らず討たれ
果てにけり。
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孤独死。
人間としての交流が希薄になり、それが常識化した現代―その、帰結。
過疎化は地方だけの問題ではない。
都会では、人間同士の過疎化が進んでいる。
雨が降り出すと主婦たちが、
「雨だよ―!」
と大きな声で隣り近所に知らせ合いながら、外に干した洗濯物を取り込んでいた幼い頃の“ごく当たり前”の光景は、もはや過去のものだ。
過去を美化したがる人間の悪いクセをそのまま . . . 本文を読む
なりふり構わずのけ反り、
大笑いをしてみせる。
“救いの主”を前に、誰もが必死だ。
すべては、
この谷底の集落から抜け出すために。
その蠢くありさまに、
慄然とする。
わたしは自身の護符を強く握りしめ、
かねてより見つけておいた細道を、
振り返ることなく駆け登る。
“救いの主”はそのあとすぐに、
いなくなった。
忽然と。
驚くことはない。
すべ . . . 本文を読む
深夜に千鳥足を見ると、
たまらなく哀しい気分に襲われる。
なにが楽しくて生きているのだろう。
いい服装(なり)をして、
みっともない。
その千鳥足をひっかけようとしている若者の顔を見たら、
そう見えるように若づくりした、
年寄りだった。
こちらのほうが、
よっぽど
みっともない。 . . . 本文を読む
あなたに
あやまりたいことがある。
どうしても。
あなたと逢ったここにいれば、
あなたはまた、
ここを通るかもしれない。
かもしれない?
逢いたいひとには
面白いくらいに
逢えない。
だから
だから
けふも
ここで待つ。
たぶん、
その爪で、
刺し通されることだろう。 . . . 本文を読む
向かいの席に座ったその人は、わたしを見て、驚いたやうな瞳(め)をした。
わたしはてっきり、あの人がわたしの目に、再び見えてしまったのかと思った。
見たくないと願うわたしの心底を、嘲るかのやうに。
わたしはすぐに、その人はわたしを誰かと勘違いしていると思った。
そう、思うことにした。
ほら、瞳(め)が違うだらう。
宿に着いたわたしのもとに、二通の便りが届いていた。
一通は明 . . . 本文を読む
階段から頭が見えた時、
わたしはおや、とおもった。
あのひとは、
もういないはず。
立ち止まって戸惑うわたしのよこを、
知らぬ気に通りすぎる。
わたしは振り返る。
うしろ姿が見える。
消えてしまえ。
しかし。
またこの季節になれば、
必ず見えてしまうことだろう。
また見えてしまうことに。
わたしは手にしていたものを破り棄てる。
めでたいことじゃ。
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あなたは
この空の下に
いる
わたしも
この空の下に
いる
あなたが
この空を見上げるならば
わたしも
そうしよう
空
青い空
透き通った空
こうすれば
離れていても
見つめ合っていることに
なるかしら
あなた
と
さながら見みえし
昔男の冠直衣は
女とも見えず
男なりけり
業平の面影 . . . 本文を読む
夢のなかで
決して
逢わない人がいる
いつも
おもしろい景色ばかりを
見せるからだろう
わたしは
その人の居場所を
知っている
でも
逢いには行かない
そこには
青く塗られた芝生が
広がっているだけだから
爪を噛むなど
愚かだ
逢わないのは
合わないから
わたしは
この道を
信じて拓く
さあ
けふも
次の宿をめざして
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『親の子を思う気持ちは、永遠の“片想い”と同じである』
と、誰かが言っていた。
お風呂で、
幼い子の体をタオルで拭ってやる親の姿に、
私は深い“情愛”を見出だす。
片想い―
そういうものなのかもしれない。 . . . 本文を読む
上野の東京国立博物館で、「北京故宮博物院200選」展を見る。
モノクロームな書画よりも、皇帝が実際に身に付けていたと云う色彩美豊かな“朝袍”や装身具、調度品などに、自分が生まれる遥か昔の隣国に存在していた文化を実感する。
しかし、華やかなものを見れば見るほど、かつてそれらを“表舞台”で手にしていた人間たちの、“裏舞台”に思いを馳せてしまうのは、自分の悪いクセか?
さて、今日 . . . 本文を読む