野外で、見たことも聞いたこともない歌手たちが合同ライブを催しているところに、出くわした。
こういう催しは休日になれば至るところで誰もがやっていることで、光景としては大して面白くもない。
誰もが、かじりつきそうなほどマイクに口をくっつけて、似たり寄ったりな声で、似たり寄ったりな歌を熱唱している。
もし、あのマイクが故障かなにかで使えなくなったら、果たしてどれだけの者が、おのれの肉声だけでおの . . . 本文を読む
七十年も昔に流行した蚊を媒体とする熱病が、いまになって復活していることには、
「じつは、何者かによる“テロ”ではないのか……?」
という奇妙な印象と疑いを、つい抱きたくなる。
そんななか、近所の緑ゆたかな公園前にあるバス停のベンチで、蚊除けのうちわが備えられているのを見た。
地元の人が置いたのだろう。
蚊を殺さず、あくまでも「払う」という考え方に、なんとも床しいものをおぼえた。 . . . 本文を読む
かつての“李香蘭”こと山口(大鷹)淑子さんが、亡くなっておられたと知った。
わたしは学生時代、演劇部に一年ちょっと在籍していたことがあり、その時に満映女優である彼女が日中の狭間で苦悩する姿を描いた芝居に出た。
わたしは漢奸裁判で彼女を無罪とする、裁判長役だった。
演じるにあたり、自伝「李香蘭 わたしの半生」(新潮文庫版)を読んだり、彼女の歌のレコード復刻版CDを聴いたり、折よく青山劇場で再 . . . 本文を読む
国立能楽堂で、金春流の「枕慈童」を観る。
菊の葉に垂れた露を飲んだ少年が、そのままの姿で七百年も生き続けている、というお話し。
不老長寿は人間サマ永遠の願望でござる。
もっとも、見た目はシワクチャでも心は少年少女の日のまま、というご老体は事実、おわします。
すなわち、
「その年齢(とし)までナニ学んで生きてきたんだろ、このヒト……」
という種族ですな。
夜は国立能楽堂からほど近 . . . 本文を読む
十四世喜多六平太記念能楽堂で、喜多流の「実朝」を観る。
鎌倉幕府の三代将軍がシテで、いかにも古典物らしい雰囲気があるが、実は昭和二十五年に喜多流十五世宗家によって初演された、“新作能”の部類に入る曲。
鶴岡八幡宮に参拝した旅僧が、由比の浦(由比ヶ浜)で景色を楽しみながら休息していると、日没の頃になって船を漕ぎだそうとする老人に出会う。
老人こそ、かつてこの浦から宋(中国)へ渡ることを夢 . . . 本文を読む
古本市で、150円と値札のついた新書を見つけた。
この値段ならばよかろうと会計へ持っていくと、主人から、
「162円です」
と言われ、一瞬なにを言っているのか、わからなかった。
そんなわたしに主人は苦笑して、
「消費税分です」
と言い足すに及んで、
「あぁ……」
と、ようやく意味を悟りこちらも苦笑い、差額を払った。
古本はたいてい今も、値札通りの金額で並んでいるところが多い。
. . . 本文を読む