迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

いさんのむこうにみるべくは。

2014-08-30 20:11:31 | 浮世見聞記
箱根登山電車で強羅へ登り、標高約660メートルの山中にある奥座敷で催された、謡曲仕舞大会に参加する。 これまでに習得した曲のすべてを大いに謡い、そして舞う。 こういう芸事はとにかく、場数を多く踏んだ者が勝ち、である。 -などなど、もっともらしいことはさておき、今回のもうひとつの楽しみは、生まれてからまだ一度も乗ったことのない、箱根登山電車に乗ること。 この我が国初の本格的な山岳鉄道 . . . 本文を読む
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ニッポン徘徊―大山の古式舞

2014-08-28 22:31:25 | 浮世見聞記
小田急線の伊勢原駅より、かつての大山詣りの参道を路線バスで行くこと、約二十分。 大山阿夫利神社の「倭舞」と「巫女舞」を見る。 明治の初めに奈良の春日大社より伝わった神楽舞で、現在は秋季例大祭において、大山の麓の社務局に設けられた行在所で、地元の中高生たちによって神前奉納されている。 衣冠に身を正した神職たちの祝詞が済むと、氏子たちとわたしのやうな何人かのもの数寄が見守るなか、三名の楽人が奏 . . . 本文を読む
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かたみのころもをみにそえて。

2014-08-24 21:24:08 | 浮世見聞記
久しぶりに能の舞台へ上がり、「高砂」を舞い仕る。 先週に黒川能でこの曲を観て、旅のよい思い出となっているだけに、その気分を壊さないやう、つとめる。 装いは夏らしく、浴衣に袴をつける。 浴衣は、祖母の形見を男物に仕立て直したうちの一枚を、用意した。 芝の鳶職の家に生まれ、若い頃は清元をたしなみ、その後は晩年まで踊りを生き甲斐とした祖母。 遺してくれた浴衣の柄はいずれも、生粋の江戸っ子 . . . 本文を読む
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しんとうめっきゃくすればひもまたすずし。

2014-08-20 23:18:18 | 浮世見聞記
先週に訪ねた東北地方の暑さに比べて、首都圏のはどうも不必要なものを上乗せしたような、余計なものを感じる暑さだ。 いまや、 「暑いから外出は控えよう」 から、 「キケンだから外出は控えよう」 へと呼び掛けが変わっているのだから、まったく異常事態だ。 「ひるのいこい」を聴こうとラジオをつけたら、高校野球の中継でお休み。 熱中症の危険性が本気で叫ばれている今のご時世、よくそん . . . 本文を読む
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あらむつかしのことのはや。

2014-08-19 07:17:50 | 浮世見聞記
某ラジオ番組の公開放送で、中年のパーソナリティーが聴衆の若者たちに、 「わたしが大学を卒業したとき、まだ皆さんは跡形もなかったわけで……」 と口にしたのを聴いて、オヤと思った。 辞書は「跡形(あとかた)」の意味を、 “そのものが無くなったあとにのこる、しるし” と、示している。 つまり、跡形もないとは、痕跡すらもないことを、意味する。 『まだ皆さんは、跡形もなかった』 ……? . . . 本文を読む
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ニッポン徘徊-みちのくで時を忘るる。

2014-08-14 23:14:35 | 浮世見聞記
羽越本線の象潟(きさかた)駅から、西へ歩くこと約二十分。 広大な水田地帯に、盛り土のような小山が点在している。 古墳群のやうに見えるが、さにあらず。 秋田県にかほ市の象潟は、その名が示すとおり、かつてこのあたりまで、いくつもの小島が浮かぶ入江だった。 水田のなかの小山は、当時の小島の名残りだ。 江戸時代には松島と並ぶ景勝地とたたえられ、かの松尾芭蕉も、 『きさかたや 西に西施が ねぶの . . . 本文を読む
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てつみちがゆく-ローカルエリアの現在

2014-08-13 22:21:39 | 鐵路
昨年に京葉線から東北本線(宇都宮線)へと転属した、205系に乗る。 “湘南カラー”の帯をまとった姿も、なかなか悪くないと、わたしは思う。 かつては中距離近郊型の王者115系が、またつい最近までは211系が担当していた、駅間の長いローカルエリアを、首都圏の通勤型電車としてつくられた205系が、内装も乗り心地も往年のままにふっ飛ばす-そのギャップが、わたしには楽しい。 ローカルエリアといえども . . . 本文を読む
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とわのひとみにこいをする。

2014-08-07 21:46:40 | 浮世見聞記
世田谷美術館の「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」を見る。 修復成って世界初公開となるクロード・モネの「ラ・ジャポネーズ」(1876年)、女性がまとっている着物は、これまで歌舞伎の衣裳をモチーフにしていたと考えられていたが、どうやら謡曲の「紅葉狩」を図案化したものらしい。 言われてみれば、袖のところに楓が描かれている。 ちなみにわたしは、「紅葉狩」という能が好きだ。 美女に化けた鬼が . . . 本文を読む
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ちからはつよいほうがかちなのか。

2014-08-05 22:17:40 | 浮世見聞記
銀座の画廊を会場におこなわれた、金春流宗家の講座を聴きに出かける。 テーマは「獅子の舞について」だったが、そこから派生するさまざまなお話に、宗家とは能楽の歴史そのものなのだということを、実感する。 その多岐にわたるお話のなかで、ほぼ同時代に発生したと考えられる“猿楽”と“幸若舞”のうち、後者が中央の舞台から姿を消したのは、 「時の権力者だった徳川幕府から、猿楽よりも高い地位を与えられて、そ . . . 本文を読む
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うちなーのゑいにふしたるまなつのゆめの。

2014-08-03 22:10:50 | 浮世見聞記
都内でおこなわれた現代舞踏家・市川淳一氏のリサイタルのなかで、「猩々」を謡う。 猩々は中国の妖精だが、市川氏は独自の解釈で沖縄に設定を置き換え、役を舞う。 稽古がわずかな日数しかとれず、ほとんどぶっつけ本番でのぞんだ舞台だったが、能とはまた違う“土”の匂いを感じる作品に仕上がり、 「こういう考え方もあるのか……」 と、謡いながらちょっぴり感動する。 舞台という板の上で、一人は立 . . . 本文を読む
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