迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

萬物はひとつ蓮のうへ。

2019-03-31 11:26:48 | 浮世見聞記
ラジオで、和泉流狂言「呂蓮」を聴く。旅僧に頼み込んで妻に無断で出家した男が、その姿を妻に見つけられた途端、「旅僧が無理矢理かうした」と喚き立て、あげくに旅僧を転倒させ妻と去って行く──都合が悪くなるとすぐ他人(ひと)のせいにしたがる人間の身勝手を抉り出した、黒い笑ひの一幕。そして夫婦のつながりとは縁よりも“宿命”であることを、じわじわと悟らせる一幕。笑はせやうとすることほど、つまらない物はない。本 . . . 本文を読む
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春の華の春團治。

2019-03-30 17:01:46 | 浮世見聞記
「二代目 桂春團治ライブ十番」のCDが、やっと手に入る。昭和26年、大阪の朝日放送が開局記念に録音し、翌27年2月まで毎週火曜日に放送した二代目桂春團治の落語十三席のうち、現存する十席の音源を初CD化したもので、落語のライブ録音としても最初のものといふ逸品。朝日放送のホールで録音されたこの十席は、実際にお客を前にしてゐることもあって、かなり乗ってゐることが、高い調子で早間に運ぶ語り口からも窺へる。 . . . 本文を読む
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やっと、「つきほしひ」。

2019-03-29 15:25:36 | 浮世見聞記
"寒の戻り”の天候なれど、川の向こうの町で鶯の初音を聞く。聲が甘いところをみると、まだ雛かもしれぬ。今年もやっと聞けた.…。と安堵しつつも、昨年まではよく耳にした私の住む町では、いまだ初音に接していないことが気に掛かる。昨年末あたりから埃くさい土方が入り込んで樹木を伐り払ひ、そこへ安普請な家屋やら集合住宅を建て始めたので、春の使者にそっぽを向かれたのだらうか?よそから移り住む人間など . . . 本文を読む
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健全な過激。

2019-03-28 18:38:58 | 浮世見聞記
私などはまさに、ザ・ドリフターズのコントに大爆笑して育った世代だが、現在はミュージシャンとしてのザ・ドリフターズも楽しんでゐる。いづれも明るく、元気で、前向きな曲調は、現在(いま)聴ひても、「ようし、今日も頑張って生きやう!」といふ気持ちになれる。そのうちの一曲、「志村ケンの全員集合 東村山音頭」は、脱退した荒井注の代わりに加入したもののしばらくは不発だった志村けんが、ようやく大ブレ . . . 本文を読む
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ヘタも上手いもなかりけり。

2019-03-27 16:11:16 | 浮世見聞記
府中市美術館の「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」展を見る。一見すると、我が目を疑ひたくなるやうな珍作迷作揃ひだが、よく見れば、さう見へるやう“上手く”描かれゐることに気が付く。この展覧会にはもちろん出展されていないが、法隆寺金堂で発見されたかの有名な落書きを、ヘタクソと見る者はいないだらう。あれをヘタクソと感じる者こそ、へそまがりとなむ言ひける。もっとも、大正末期に佛人画家ルソーに影響さ . . . 本文を読む
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気になった時は呼んでゐる。

2019-03-26 17:41:26 | 浮世見聞記
一冊の本を求めて、新橋駅前で恒例の古本市に出かける。はじめは新橋へ出かけるのを億劫に思ったが、もしかしたらあるかもしれないその一冊を、そんなことで手に入れ損のふは愚かなりと、昼過ぎに覗いてみる。さいわひ、目的の一冊はすぐに見つかる。あらあらあら……。現在では見つけ難いこんな本まで……!しかも値段が私に味方する。ほうれ、出かけるもんじゃらう。その四冊のためにすっかり重たくなった鞄を提げ . . . 本文を読む
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粉飾される“勝者”。

2019-03-25 20:11:16 | 浮世見聞記
國學院大學博物館の企画展「武士を描くものがたり─比べてみる軍記の世界─」を見る。藤原純友、平将門に俵藤太、そして源平合戦のもののふたち──軍記物語の主人公が、時代と共にその時代の意向に沿った人物へと変質させられていくさまを、実際の文献を並列して示し、解き明かしていく。私が現代手猿楽「扇之的」の原典に求めた平家物語のそれにおひても、那須与一がそのとき携ゑてゐた矢の本数が、初期と後世とではまったく異な . . . 本文を読む
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人も神も動物も。

2019-03-24 22:41:34 | 浮世見聞記
池袋の東京芸術劇場にて、「第50回 東京都民俗芸能大会 人と神と動物たち」を観る。七つの参加團体による演し物のうち、葛西里神楽が演じた「伊吹山」を、特に興味深く観る。倭健命(ヤマトタケルノミコト)が草薙の剣を帯しなかったばかりに伊吹山で悪神に敗れ落命する話しで、かうした英雄(主役)が斃れる神楽といふものを、初めて観た。実際、内容が内容なだけに、当地でも上演頻度は低ゐらしい。葛西里神楽による伊吹山の . . . 本文を読む
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てつみちがゆく──あの響きが復活!

2019-03-20 10:17:26 | 鐵路
JR西日本が、来年の春に往年の“新快速”117系を改造した長距離特急列車「WEST EXPRESS 銀河」を運行すると発表した。「銀河」と聞くと、私などはやはり、東京~大阪を走った往年の寝台急行「銀河」を思ひ出す。私も大阪に住んでゐた時代に二度乗ったことがあり、国鉄夜行列車の最後の砦のやうな、うらぶれた雰囲気が好きだったものだ──24系客車最後部の方向幕式ヘッドマークを写真に撮ってゐ . . . 本文を読む
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矢先といふ縁?

2019-03-18 13:03:48 | 浮世見聞記
“ロックンローラー”内田裕也氏が、79歳で亡くなったと知る。近年は個性的な言動が、報道屋に面白おかしく取り上げられてゐた印象が強い。先日、大好きなザ・ドリフターズの動画を検索してゐたら、たまたまこの“ロックンローラー”の、「ジョニー・B.グッド」が引っかかった。私はこの“ロックンローラー”にはまるで興味はなかったが、「ジョニー・B.グッド」は映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で聴き馴染んだ名曲 . . . 本文を読む
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生存の行方。

2019-03-17 18:40:45 | 浮世見聞記
図書館へ行く途中、道端のアスファルトの裂け目に、虫らしきを見つけて足を止める。虫にあらず。地中の木の根が盛り上がって表面のアスファルトを押し上げた結果、裂け目が出来て顔を覗かせたものなり。凄まじゐ生命力!人間と植物──先に滅ぶのは、おそらく人間だらう。 . . . 本文を読む
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小栗判官と漁師浪七と名馬鬼鹿毛、そして……。

2019-03-16 23:40:43 | 浮世見聞記
神奈川県藤沢市の藤澤浮世絵館で、「小栗判官物語と遊行の縁」展を見る。江戸時代には歌舞伎や浄瑠璃、また読本などを通じて大衆に流布されてゐたと云ふ小栗判官と照手姫の物語も、現代ではほとんど知られていない。私も二十年ほど前に、木挽町の劇場で三代目の市川猿之助がお家藝として主演した「當世流小栗判官」を観たことで、辛うじて知ってゐるだけだ。しかし江戸時代には、歌舞伎の人気狂言として何度も脚色されてゐた。その . . . 本文を読む
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時代もまた季節なるか。

2019-03-15 23:35:28 | 浮世見聞記
梅と河津桜の季節は過ぎ、いま次の季節が蕾を開かんとする。まだまだ不完全だが、鶯の聲らしきを聞く。近くの私学で卒業式があったやうで、キモノに袴姿の女のコが、正装した両親とにこやかに歩いて行く。ただ、キモノの柄が浴衣の花柄じみてゐるのを、面白く思ふ。昼下がり、鉄道敷設の飯場の窓から、面白いものが顔を覗かせてゐた。いつになったら開通するのかわからないその新線が通るやうになったとき、私はこのことを思ひ出す . . . 本文を読む
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今様「いかけ屋」。

2019-03-14 18:27:14 | 浮世見聞記
週に一度やって来る、屋台の焼き鳥屋。我が姫様と散歩の途中に立ち寄り、鳥肉の間にニンニクを挟んだ一品を食するのが楽しみなりけり。いつであったか、この焼き鳥屋が店を開く場所の近くにある小学校から下校する子供(ジャリ)たちによる、メニューの張り紙を剥がして行くイタズラが絶ゑなゐので、近寄って来たら飴をやり追ひ払ふことを考ゑたところ、今度はその飴を目当てに、子供が蝿の如く集(たか)る来るやうになったと云ふ . . . 本文を読む
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勇姿の誘ない。

2019-03-13 18:15:19 | 浮世見聞記
日本の「国技」とされながら、日本人ではない力士が頂点──横綱にある現在の大相撲。 神奈川県出身の横綱は、意外やいまのところ、ただ一人。 戦前に活躍した第三十三代横綱“武蔵山”、その人なり。 その武蔵山を特集した企画展を、彼の地元である横浜市港北区の図書館で見る。 明治42年(1909年)、橘樹郡日吉村(現 横浜市港北区日吉本町)の裕福な家に生まれた彼は、父親が事業に失敗して遁走した . . . 本文を読む
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