県立神奈川近代文学館で開催されている「生誕140年 柳田國男 展」を、ようやく見に行くことが叶ふ。
貧しい家に生まれたがゆゑに農政官僚となり、農業改革に臨んだもののうまくいかず、そこで彼が得たのは、
『農村や農民を知るには、その土地の歴史や生活を知ることが大事だ』
といふ事実だった。
そしてかの「遠野物語」を著し、やがて官僚を辞して民俗学者として大成したのちも、
『真の学問とは、机上 . . . 本文を読む
甲州は山中湖村にて、盛りは過ぎたれど湖畔の紅葉を見る。
木々を彩りしくれないの葉は、とうに湖畔を彩る敷物となりけるが、その上に立ちて眺むる霊峰に、しばし時を忘るる。
足許を見ゆれば、白鳥が鴛鴦と静かに湖面を滑り、
観光客慣れせし数多の鯉は、いっせいにこちらへ口を開け、その間の抜けし顔を水面よりのぞかせり。
人影まばらなる湖畔の晩秋。
白鳥を模せし遊覧船を向かふに眺めつつ . . . 本文を読む
水道橋の能楽堂で、宝生流の「融」を観る。
左大臣源融が心を寄せた陸奥国千賀浦の風景も、今は昔のものがたり。
籬島はあの日のままに見ゆれども、
汐汲む翁の涙はとどまらず、
やがて涸れ池を満面に浸したまふ。
おりからのぼる満月に、
左大臣(おとゞ)の衣は白く映え、
錦糸に彩られし鳳凰は、
金色に翼を翻し、
月の都へ入りたまふ。
ふと目覚めてあたりを見れば、
朽 . . . 本文を読む
大山阿夫利神社社務局の能舞台で、相模国に伝わる民俗芸能がいくつか披露されると云ふので、観に出かける。
少年たちのまとふ王朝装束が目にも鮮やかな倭舞、篠笛の軽快な音色が楽しゐ獅子舞に、歌謡舞踊大会じみた揃ひの衣装が圧巻なささら踊り-
つまらなゐ劇団役者たちのだうでもよゐ寸劇を所々に挟みながら進行するうち、もとより厚く曇っていた空からはポツリポツリと雨が降りだし、神楽が始まると本降りになったた . . . 本文を読む
“伝統芸能デザイナー”の活動として、「猩々」を五分ほどの曲にデザインし、文化ホールのステージイベントのなかで、試演する。
試演なので装束は用ひず、黒紋付に袴の、いわゆる“素”の形式を採り、扇は祖母の形見を用ひる。
私の場合、型をあれこれ考えるよりも、あるとき頭にパッと閃いたものをすぐに書き留め、後で整理することのはうが多い。
今度の「猩々」も、だいたいそんな感じで出来上がったものだ。
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つい先日、朝のJR線の駅で、改札口で肩が当たったあたらなゐで口論になった末、相手をホームから線路へ転落させたがために、おのれは平凡な月給取りから殺人容疑者へと転落した事件があったが、けふもまた、JR線の改札口で、同じことで罵りあふ殿方を観た。
そのどちらもが、仲裁に入った駅員に、
「そっちがけしかけてきた!」
と絶叫しているのが、眺めてゐて可笑かった。
お互ひ心のうちに、『ぶつかってや . . . 本文を読む