国立能楽堂で、金春流の能をたのしむ。
「半蔀」は、光源氏とのはかない恋を永遠に回想する女性の、叙情詩。
一瞬の出来事であればあったほど、その思ひ出は色鮮やかに生き続ける―
この曲がこんにちまで生き続けているのも、そんな人間の心に深く根差したものがあればこそだ。
「絃上」は、須磨の浦の汐汲み宿で、藤原師長が得意の琵琶を演奏している最中に雨が降りだし、その雨音を嫌って手を止めたところ . . . 本文を読む
突然の豪雨に見舞われ、しばらくの雨宿りを余儀なくされた。
ちなみに北陸地方では、もとより天候の変動が激しいことから、
“弁当は忘れても、傘は忘れるな”
との言い伝えがあるという。
それは近いうち、全国の夏のキャッチフレーズになっていくのではないだろうか。
お肌の紫外線対策、熱中症対策、ゲリラ豪雨対策、落雷突風対策……。
用心一辺倒の季節を、人間はこれから迎えることになる。
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古都のはずれにたたずむ古刹に、ふと気が向いて立ち寄った。
本堂の戸は開け放たれ、自由になかへ入って参拝できるようになっていた。
広々と敷き詰められた畳に座し、静かに本尊を見つめているうち、
“人はここでは、みな平等なのだ……”
ということに、気がついた。
俗世における立場や境遇がいかなるものであろうと、ここへはみなが等しく、訪れることができる。
ひとはみな、同じに生きている。
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相模大野の文化ホールで、「梅蘭芳生誕120周年記念」と銘打った京劇の来日公演を観る。
梅蘭芳の代表的演目より二作品を通して、在りし日の名女形をしのぶ。
しかし、京劇は文化大革命で女形が廃止され、現在ではその役どころを、女優が替わっている。
女形の継承者としては、梅蘭芳の子息である梅葆玖氏がおられるが、老齢のためかあまり舞台には立っていないご様子。
十年ほど前、その梅葆玖氏を取材したNH . . . 本文を読む
国立能楽堂で、金春流の「頼政」を観る。
源頼政-老境に至って平家に弓をひき、武運つたなく宇治の平等院に果てた源氏の武将。
芝に扇を敷いてから腹を切ったと云うその場所は、“扇の芝”と呼ばれて現在に伝わる。
頼政の霊が法体で現れたとき、わたしは無念を滲ませたその表情の生々しさに、思わず目を見張った。
わたしは、直面(ひためん)なのかと思った。
いや。
たしかに後シテは、この曲専用の . . . 本文を読む