迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

いまさらあってもしょうがない。

2012-02-02 21:03:21 | 浮世見聞記
懐かしい人々に、何人も夢枕で出会った。



こちらへ手招きする人もいた。

しかし、招かれた先には、何もありはしない。


それなのに、わたしは心を惑わす。


黒い服を纏った青白い手が、わたしの袖を掴む。

“さぁ、みんなあなたを待ち望んでいる”

その囁きは、

甘露の音色となって、

疲れたわたしの心を、

桃色に潤す。



疲れた?


何に?




わたしはその時、

目を醒ます。




蹴飛ばした枕を拾い上げ、

自分の心が思いのほか脆弱である現実を知る。



しかし、


見上げた先の青空が、澄んだ色に広がっているのも、確かな現実。

立ち止まって魅入ることが出来る自分に、

わたしは、

自らの手で煤を払い、

まだまだ歩き続ける力があることを知る。




わたしは自分の耳許へ囁く。


“今日の宿までを歩こう”
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あるとき (ししまる)
2012-02-04 20:34:31
とおぉい 昔

細い一本の髪の毛が
必死になって
私を支えていた

小雨の降る
小さな町の夜更け
だれもいない道路を
片手に 鼻緒の切れた下駄を下げて
トボトボと濡れながら歩いている
私を

たった一本の髪が
必死に支えていた

ふっと
その姿が見えたと思ったとき
一本の髪は

雨になって
見えなくなった

あの時 何に気づいたのか
私は今 ここに生きている

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