豊竹山城少掾と八代目竹本綱大夫が掛け合ひで語る“山の段”──「妹背山婦女庭訓」の名演CDが手に入る。一度ある場所で見かけた時は結果的にご縁がなく、殘念に思ひ續けてゐたら、またほかの場所で見かけて、いくらか値は張ってゐたが、今度こそ逃してはなるまいと手に入れて、手に入れてからやはりよかった、とホッとする。この日考へてゐた予定や想定や行動とは全く別なところでひょっこり逢ったのだから、浮世は實に魑魅魍魎 . . . 本文を読む
旧新橋停車場 鐵道歴史展示室の企画展「鉄道と制服~ともに歩んだ150年~」を觀る。わが國の鐵道黎明期からJR發足に至るまでの鐵道職員たちの各種制服を、一部實物や複製の展示を織り交ぜて紹介したもので、たっぷりめの仕立てになってゐるそれらから、昔日の鐵道マンたちの任務への誇りをそこはかとなく感じる。制服とは、その會社組織の看板(かほ)である。いつであったか、J . . . 本文を読む
東京都世田谷區太子堂の語源である太子堂──前から氣になってゐた真言宗聖王山法明院圓泉寺を訪ねる。東急世田谷線に「西太子堂」といふ驛があることで知ってゐるタイシドウの名は、境内にあるそのお堂からきており、なかには聖徳太子像が祀られてゐる云々。お堂の脇には別に建てられ聖徳太子の銅像、その裏手にあたる塀外には聖徳太子の名を刻んだ石碑に古い庚申塔が、今日も俗世を見つめ續けてゐる。さて、銅像の薹座には、「和 . . . 本文を読む
dmenuニュースよりhttp://topics.smt.docomo.ne.jp/article/asahi/business/ASR9V67D0R9VULFA00W?fm=dこの二十六日付の發表には、大勢のお仲間同様、私も驚きました。 昭和五十八年に登場し、いまや昭和時代の小田急の面影を殘す唯一の存在である8000形も、内装と機器の大幅な更新を行ない“快速急行”の主力となってからもだいぶ經ち、 . . . 本文を読む
川崎浮世繪ギャラリーにて、「浮世絵に描かれた物語 キャラクター大図鑑」展を觀る。目玉は十七點の鍾馗様像だが、私は仙人が女のふくらはぎのために神通力を失ふ「久米仙人」の一點を樂しく觀る。(※案内チラシより)……ワシじゃとて、見ないわけではないからの。ただ、見せたがりオンナのそれだけは、絶對に見てやらん。 . . . 本文を読む
ラジオ放送の金剛流「夕顔」を聴く。貴人の男と女が、互ひに正体を隠したまま逢瀬を重ねるうち、“なにがしの院”で女ひとりが散る怪しき悲戀噺。源氏物語「夕顔」の巻と和歌の素養がなければ味はひの半減する曲のやうで、だとすれば私などはまさに味はひ不知のクチだが、それでも樂しく聴けたのは、低くよく響く、そして歯切れよい謠のチカラゆゑだ。わからないことを無理にわからうとして却って嫌ひになるより、そこから他にどん . . . 本文を読む
東京都目黒區の中目黒八幡神社の例大祭にて、品川間宮社中の江戸里神樂を觀る。中目黒八幡神社とは普段ご縁は無いのだが、數日前に今日の祭禮で江戸里神樂の奉納があると知ったのはご縁ゆゑ、せっかくなので夕方に出かける。觀たのは、後に倭建命(やまとたけるのみこと)となる小碓命(おうすのみこと)が、父の景行天皇の命 . . . 本文を読む
「卒都婆小町」のシテを二十年ぶりにつとめると云ふ金春安明師だけを樂しみに、橫濱能樂堂へ出かける。『日本全国能楽キャラバン! 横浜公演』なる狙ひのよくわからない企画における上演ながら、能樂における“老女”と云ふものを、私が最高と信じてゐる演者でしっかりと目にしておきたい、と云ふ欲求に、しっかり應へてくれた美麗な舞薹。……だったのは、あくまでシテの小野小町をつとめた金春安明師のみで、他の . . . 本文を読む
今年も企画された神奈川縣主催のオンライン文化祭「バーチャル開放区 2023」に、今年も参加、現代手猿樂「日傘娘」と「春雨おもん」の二作品が公開される。https://www.youtube.com/channel/UCIYeEffvoK7iXq_IcQ02x2Q今年のテーマは『再発見』、人災疫病禍のために手猿樂師として舞薹に上がる樂しみを一年二ヶ月にわたり奪はれたなか . . . 本文を読む
東京都世田谷區上馬一丁目を國道246號線で通るたびいつも氣になるのが、道沿ひの塀越しに見える石碑。なにかの歴史を傳へてゐるやうだが、敷地は私有地なのか、塀と柵に囲はれて近くまでは行けず、明らかに史跡としては公開はしてゐない。囲ひ越しに覗き込むと、石碑の傍には墓石らしきものも並んでゐて、たしかに余人の足を踏み入れるべき場所ではない雰囲氣ではある。ちょっと調べたところでは、裏を旧大山街道が通ってゐるこ . . . 本文を読む
ただ不快でしかない湿暑を避けて、キンキンに冷えたスタジオ内で手猿樂の活動。女形の衣裳を着たのはいつぶりかしら。どの装束も好きだけれど、やはり女形がいちばん心身になじむ。この感触だけは、生涯の財産。忘れてなるものか。 . . . 本文を読む
キャラメル物の飲料に惹かれる私の目に今回留まったのが、KIRINの名品「午後の紅茶」シリーズの新作、“キャラメルティーラテ”。味はほとんどキャラメルとクリームの共演で、紅茶はほとんど脇役ですが、飲後をさっぱり感で締めるところはやはり、お茶の本領發揮であります。自販機賣価¥140でなければ、またいづれ。 . . . 本文を読む
ラジオで喜多流「六浦」の後半部分の放送を聴く。和歌の大家である冷泉為相に見事な紅葉ぶりを褒められた稱名寺の楓が、それを譽として以後は紅葉をやめて常緑となった昔語りを旅僧に聞かせ、さらに法華經の功力によって成佛することを望む、いかにも夢幻物らしい、世界觀がチト理解しづらい曲。しかし謠にはそれに相應しく美しい節付けがなされてゐて、舞にもそれに合った良い型が附いてゐる。ゆゑにどうしても仕舞でやりたくて、 . . . 本文を読む
九月の土日はあちこちで祭禮が行はれ、私の棲む町の、私には縁の無い神社でも賑々しく行はれてゐるのを掠め見る。最寄驛と棲家とを結ぶ道の途中に當り、かなり以前に一度、祭りの雰囲氣に浸り乍ら通り抜けやうとしたが、思った以上の混雑でなかなか前に進めず苛立ったことに懲りて、いらい祭禮當日は大きく迂回するか、せいぜい付近を掠めて通るやうにして、二度と足を踏み入れる愚だけは演じないやう . . . 本文を読む
都電荒川線「鬼子母神前」電停の前を過ぎ、江戸の昔より殘るけやき並木の参道を通って、初めて鬼子母神堂に参詣する。ヒトの棲家が隙間無く建て混んだ都心部におゐて、お堂と木々がのんびりと散在した廣い境内の光景は、ここだけが古へより時間が止まってゐるかのやうな、不思議な感覺にうたれる。室町時代に現在の目白の池辺りで掘り出されたと云ふ鬼子母神の尊像をまつる本堂は江戸時代初期の建立に . . . 本文を読む