水道橋の能楽堂で、宝生流の「鵺」を観る。
源頼政が射落した物怪を、松明をかざして見れば、頭は猿、手足は虎のごとく尾は蛇―
舞台では前シテが閉じた扇を松明に見立て、面(おもて)の表情でその姿を映し出す。
ああ、
いる……。
そこにたしかに、
深紅の血にまみれた、
人間と同じ“生き物”が。
わたしは舞台上に倒れ伏す物怪に問ひかける。
あなたはなぜ、帝をなやませたのですか? . . . 本文を読む
宝生流の「三笑」を、水道橋の能楽堂で観る。
嘆くか怒るかのどちらかが多い能のなかで、珍しく“笑ふ”場面がある、珍しい曲だ。
もっとも、狂言のやうにのけ反って笑ふのではなく、三人の直面(ひためん)の演者が表情をつくることなく、両手の先を一度ちょんと合わせてそれでおしまいといふ、至極あっさりした型のため、ぼんやりしていたら見逃してしまふ。
この曲に登場する三人は、いづれも俗世とは縁を切った自由人 . . . 本文を読む