今宵、満月が赤く染まる。
赤い満月といふと、江戸川乱歩の戦後の名作「月と手袋」を思ひ出す。
冒頭に出てくる赤い満月の描写が、 乱歩の尋常ならざる作品世界を強烈に印象づけてゐたものだ。
今宵の皆既月食のことを何かの媒体では、“スーパーなんとか”と、わざわざ横文字の名称を付けてゐたが、なんでもかんでも横文字にしたがるその感性が、私は嫌ひだ。
満月といふと、
かぐや姫はここで罪を犯 . . . 本文を読む
横浜市岩間市民プラザの「サイレントシネマ&活弁ワールド」へ出かける。
童話の世界を素直に活動写真化した演出に微笑みがこぼれる「ジャックと豆の木」(1902年 米)、私にはホラーよりも夫想ひな若妻の純真さが美しかった「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922年 独)と、モノクロの世界が坂本頼光の声量豊かな活弁士ぶりによって、色彩豊かに展開される。
私が今回いちばん楽しめたのは、両作品の間に上映された「月 . . . 本文を読む
今年も恒例の「手話狂言 ・初春の会」を、国立能楽堂で観る。
黒柳徹子さんとベテラン手話通訳者の名コンビぶりが楽しい「お話し」を幕開けに、ろう者俳優たちが狂言三番を、多彩な表現力でたっぷり魅せる。
『太郎冠者が向かふ脛』の結句がなんとも傑作な「萩大名」、自分こそが一番と争ふことの馬鹿らしさを戯画化した「膏薬煉」──
最後の「釣針」は、男女の出逢ひはしょせん“縁”以外のなにもの . . . 本文を読む
新成人の晴れの日を詐欺と裏切りで踏みにじった大罪人が、ようやく公けに姿を現し、頭を下げながらも「詐欺のつもりはない」などと嘯ひたと云ふ。
だうせ、そんなところだらうと思ってゐた。
大人として、最低の人種である。
「かういふオトナになってはいけません」の、典型的見本である。
頭を下げたのは、報道陣向けのポーズにすぎないことを、はやくもその場で曝したわけである。
しかしこれが、オトナの . . . 本文を読む
荒天の昨日から一転して、今日の東京は朝から晴天。
雪害不可避な田舎鉄道と無駄に線路をつなげた路線以外は、首都圏の公共交通はほぼ正常に機能してゐる。
陽に照らされた雪が雫となり、雪掻きをしてゐる人々を見ると、再び平和が訪れた安心感に、ほっこりする。
このやうな大雪に見舞われると、すぐに「東京は雪に脆ひ」と、判で捺したやうに嗤ふのがゐる。
これだけヒトとモノがぎゅうぎゅうならば、 . . . 本文を読む
日が暮れてから、世田谷ボロ市へ出かける。
早々に店じまいを始めてゐるところもあり、
「いまからは早すぎだろ……」
と苦笑しつつ、綺麗な着物がたくさん吊ってあるお店で、縁あって商売道具になるものを庶民的な値段で手に入れる。
かうして少しずつ買ひ集めていくのが、手作りの楽しみだ。
綺麗な着物と言へば、自治体が成人式をやり直す救済策を検討してゐることについて、
「税金の無駄遣ひだ」
と . . . 本文を読む
横浜人形の家“あかいくつ劇場”にて、「糸あやつり人形一糸座 新春公演」を観る。
1635年(寛永12年)、初代結城孫三郎によって旗揚げされていらい380年以上にわたって続いてゐる「結城座」の糸あやつり人形芝居には、かねてより関心があった。
今回観たのは十代目結城孫三郎の三男、三代目結城一糸が平成15年(2003年)に独立して立ち上げた一座の公演で、
幕開けに結城一糸が新春らしく「寿三番 . . . 本文を読む
JR線の駅で、こんなポスターを見かける。
かうして0系と比べると、現在の新幹線はいかに人相が悪いかが、よくわかる。
0系は今なお、“夢の超特急”の呼び名にふさわしい斬新さと、憧れを感じさせてくれる。
それは現在の鉄道が、もっとも喪ったものではないだらうか。
新型車両はどれもセンスを疑ひたくなるやうな陳腐なものばかり、また近頃の人為的ミスによる事故の多さは、一体だうだ。
どこかで、「 . . . 本文を読む
川崎大師平間寺へ行く。
三が日の余韻と大安とが重なったゆゑか、本堂には護摩祈祷の参会者がすし詰めになってゐた。
祈祷の開始前に坊さんが実に物慣れた調子で、ありがたいやうに聞こえる説教を参会者に垂れ始めたが、その傍らでは怪しい教祖のやうな面相の誘導係が、もっと詰めろと高飛車な調子で、着座してゐる参会者を無理に押し込んでゐる。
やがて、大太鼓の伴奏も高らかに、坊さんたちの大合唱で護摩祈祷が始 . . . 本文を読む
先日いただいた招待券を使って、両国寄席で桂春蝶の落語を聴く。
噺は上方らしくハメモノ入りで、「七段目」。
平右衛門に扮した若旦那が本身の刀を手にして、
「富岡八幡宮ちゃうねんから」
と、際どいクスグリを入れてもサラリと聴かせるところが腕前。
そして、いかにも関西藝人らしい雰囲気を醸し出してゐた亡父の二代目とはまた違ひ、現代の都会的な雰囲気をまとってゐながら、きっちりと上方の古典を聴かせて . . . 本文を読む
今年の成人の日は、東京では午後から雨となった。
自分のときは大雪だった。
もっとも、オッサンどもが心にもない祝辞を宣ふ式典などハナから出る気もなかったので、一日中部屋に籠もってゐたが……。
確か前もってだったか、羽織袴姿を両親と共に写真館で撮影したあと、地元の神社に参拝してお祝ひとしたのだと、記憶してゐる。
成人の日といふと、毎年マスコミが永年幼稚どもを面白おかしく取り上げて不快になる . . . 本文を読む
横浜都市発展記念館で、「みなとみらいの誕生」展を見る。
明治以来の一大造船地帯、そして一大貨物地帯だった横浜臨海部が、新都心“みなとみらい”へと生まれ変わるまでを、精選された資料で紹介した企画展。
現在のみなとみらいの景観は、早い時代に緻密に計画され、それが正確に実現化されたものであることを知る。
私は、建築中の赤レンガ倉庫を写した古写真もさることながら、「みなとみらい21」計画が着工した . . . 本文を読む
三遊亭小圓朝の落語を聴かうと両国寄席へ出かけたが、急遽休演で弟弟子の代演を立てるとのこと。
それでは来た意味がないので今日は諦めたが、受付で「次回お使ひ下さい」と、親切に招待券をいただき、かえって恐縮す。
そのまま神保町へ行き、いつも立ち寄る中古レコード店をのぞひてみたところ、上方落語の珍品モノCDを見つけ、取り敢へずフトコロが許す数だけ手に入れる。
大阪在住時 . . . 本文を読む
山手線の駅で見かけた観光ポスターのキャッチコピーに、「ああ、いいな」と惹かるる。
本当の発見や出逢ひは、自分の足で歩き、自分の目で見ることにある。
近頃の、
手許ばかりで周りを見ない明き盲目どもには、
わかりますまい。
食事のため入った新宿のデパートで、お獅子と恵比寿さまがお囃子も賑々しく、売り場をお練りしてゐた。
かうした思ひがけないところで福の神に出逢ふと、
“さういふ幸 . . . 本文を読む
ことし平成三十年(2018年)は、明治元年(1867年)から150年に当たると云ふ。
ニッポンが近代化を謳って西欧諸国に追随したときから、日本人は日本人らしさを喪った。
なんでも異人の素振りを真似し、異国語を口にすればカッコいいなどと勘違ひした異人かぶれや、異国かぶれを量産した150年。
横文字をあざとく連発して洋楽のウンチクを垂れるFMラジオ放送を耳にすると、私などはイライラしてしまふ。 . . . 本文を読む