喜多六平太記念能楽堂で、金春流の「融」を観る。
この曲は全篇を通して、左大臣源融の邸宅跡-「六條河原院」が舞台である。
しかも今やそこは、主人亡きあと相続する者がいなかったため、すっかり廃墟と化している。
背後に松が描かれただけの能舞台に、その無情さが観る者の心に描けるかどうかで、この能はだいぶ味わいが違ってくる。
もっとも、廃墟ならいまのご時世、いたるところに展開されている。
. . . 本文を読む
江戸の昔より浮世絵にも描かれた藤の名所で、あたらしい季節が芽吹きはじめた。
「今年も、逢えましたね」
有象無象が押しかけて、
俗臭を振り撒いてしまふ前に、
わたしはあなたにそっと、
耳をかたむける。 . . . 本文を読む
リサイクルショップで、こんなレンタルビデオ店落ちのDVDを見つけた。
「新霊幻道士 風水捜査篇」。
霊幻道士役で一躍有名になったラム・チェンインが、現代香港を舞台に道士の能力を持った刑事役に扮して、妖術使いの日本人女性と法力バトルを繰り広げる、といったストーリーで、1990年の制作。
ラム・チェンインが唯一出演していない第四作目以降も、彼が亡くなるまで細々と制作され続けた霊幻道士シリーズのう . . . 本文を読む
横浜みなと博物館で、創業125年を迎えた神奈川新聞社の報道写真の数々を紹介した、「報道写真が映す戦後の横浜港」展を見る。
いづれも、その時代のその瞬間と、真剣に向き合って生きる人々の表情が克明に記録され、それは今も鮮烈な印象を放ち続けている。
まさに“真”を“写”した一瞬であり、その延長線上に、現在の我々の生活があることに、あらためて気付かされる。
戦前の報道写真は、空襲で灰燼に帰し . . . 本文を読む
国立能楽堂で、金春流の「蝉丸」を観る。
舞の名手がシテをつとめるだけに、観るのを楽しみにしていた。
シテの“逆髪”は延喜帝の皇女ながら髪が逆立つ奇病のために心が乱れ、いつしか御所を抜け出し方々をさまよい歩くようになった、薄幸の女性である。
そのさまよい歩く様を描写したのが“道行”、流麗な節のついた謡にのせて華やかに舞う見せ場で、わたしも以前に二度、この件りを舞い仕ったことがある。
彼女 . . . 本文を読む