琵琶の音に誘われて、その若武者は灯火の向こうに姿を現した。
美しい面差しは、この琵琶をわたしのもとに預けて出陣した、あの日のままだった。
若武者は、わたしに何かを語りかけてきた。
しかし、村雨のごとく木の葉を鳴らす風の音に掻き消され、わたしはそれを聞きとることができなかった。
やがて美しき白面に、苦悶の色が浮かびはじめた。
額から流れる玉のような汗は、灯明に照らされて血潮の輝きとなり、 . . . 本文を読む
東急田園都市線の南町田駅改札口の端に設置されているコインロッカーの裏には、かつて使用されていた改札ボックスが、現在も一基だけひっそりと遺されている。
東急ではかなり早い時期から自動改札機を導入していた印象があったので、ちょっと意外な気が。
かつてはこのボックスの中に駅員さんが立って、鋏をチョンチョン鳴らしながら切符に切り込みを入れたり、手際よく回収したり、目の覚めるやうな早技でキセル犯の襟首を . . . 本文を読む
一年前のこの日、それまでの生活は全てが過去となった。
その瞬間のことを、わたしは生涯忘れないだらう。
そして一年前のこの日を境に、
世界中の人間の“本音と建前”が、
白日の許に、
曝された。 . . . 本文を読む
“神は、試練を乗り越えられる者にのみ、それを与え給う”―
窓を開けた時、わたしは再びその言葉を思い出した。
迷惑だな。
苦笑。
いや。
あらゆることに脆いこの街に住み続けていることが、
すでに試練なのかもしれぬ。 . . . 本文を読む
お婆さん 「あの…、(券売機で)切符の領収書が欲しいんですけど…」
二次元好きっぽい駅員 「“領収書”ンとこ押したら出ますから」
お婆さん 「…。あの、(操作方法が)わからないんですけど…」
二次元好きっぽい駅員 「ですから、“領収書”ンとこ押したら出ますから!」
お婆さん 「……」
途方に暮れて再びタッチパネル式券売機へ戻るお婆さんの背中を、わたしは追わずにはいられなか . . . 本文を読む