迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

明日への覺書。

2019-04-30 20:03:01 | 浮世見聞記
⇨『平成』(1989年正月~2019年4月)①浮世に何も産み出せなかった三十年と四ヶ月。②作り出されたものは、そのほとんどが「負」の遺産。③なんら物事の解決が見られなかった時代。④次の時間へ持ち越しどころか、全ては有耶無耶にされ、人々の記憶から忘却されるのを待つ。⑤浮世は何一つ平らに成らず、むしろ「格差社会」なる現象を生み出す。※ただ、強いて言へば、男女の社会的扱ひにおゐては、表面上 . . . 本文を読む
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これは武蔵山関の御縁にて。

2019-04-27 19:47:36 | 浮世見聞記
大相撲の春巡業「横浜アリーナ場所」を観戦する。会場に入ると、ロビーでは物販が軒をつらね、また力士との記念撮影には長蛇の列が。みんなに愛される人は、相手を待つ人より、相手にみずから歩み寄る人であることを、その和やかな交流から知る。客席に入ると、土俵では公開稽古の最中。激しくぶつかり合う音、鋭く発せられる気合ひの聲──そこはすでに、命を懸けた男たちの神聖なる最前線。いつであったか、この土俵上で挨拶させ . . . 本文を読む
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お庭の地図をつくる。

2019-04-26 19:08:13 | 浮世見聞記
あの時はいい思ひ出の無かった町も、のちに自分の楽しみで訪れると、けっこう便利な街であることに気が付ひたりする。定点と定点を結ぶ“線”だけの生活は、あまりにつまらない。いろいろな町を知るといふことは、それだけ自分の“庭”も広がるといふことだ。あの町にはあれがある。その町にはそれがあったな──さうした記憶が、生きる計画を立てる時の、楽しみとなる。そして私は、さらに詳しい地図が欲しくなる。買ひ求めた地図 . . . 本文を読む
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他力の本音。

2019-04-24 16:22:58 | 浮世見聞記
杖をついてヨタヨタと歩く一人の老齢女性が、トラックの脇で納品作業中の人に、「これ以上は辛くて歩けないから、すぐそこの医院まで、このトラックに乗せて連れて行ってくれ」と小銭を握らせ、頼み込んでゐた。仕事中の人に、仕事用の車に乗せろとは、なんて図々しい老人だと思った。しかし、その老齢者の気持ちも、わからなくはない。あの足取りでは、さぞ辛からう。めざす医院まであとちょっと──その“ちょっと”が辛いことも . . . 本文を読む
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てつみちがゆく──東急2000系改め東急“9020系”

2019-04-23 17:16:20 | 鐵路
田園都市線用9000系として平成の初めに登場し、平成末期に田園都市線から引退した2000系が、平成最後の年に9020系として生まれ変はり、大井町線専属となる。車体はそのままに足回りだけを交換し、別形式として再登場させる東急のお家藝が遺憾なく発揮されたこの車両、遅ればせながらやっと出逢ふ。2000系時代の特徴とも言へる、斜めに仕切りを入れた車内の貫通扉は、9020系にもちゃんと受け継がれてゐるのが、 . . . 本文を読む
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國は惡家老で榮える。

2019-04-22 17:26:48 | 浮世見聞記
映画「バイス」(原題 VICE 2018年 米)を観る。バイスとは“バイス・プレジデント”──副大統領のことであり、また同時に 「悪徳」「邪悪」といふ意味もあるらしゐ。この一篇は「9・11」当時の米國大統領、子ブッシュの“バイス”だったディック・チェイニーの“バイス”ぶりを、2時間10分強にわたってこき下ろした社会派劇。政治とは、いま目の前に立ちはだかる現実との仁義なき闘ゐであり、それに打ち勝つた . . . 本文を読む
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さうではあらうけれども。

2019-04-21 16:42:13 | 浮世見聞記
調べ物をしてゐたら、思ひがけず師匠の写真に出会ふ。初めて目にしたそれは、師匠が亡くなった年に撮影されたもので、師匠が公けに姿を見せた、ほぼ最後のものでもあった。そこに記録された師匠の表情には、私がよく記憶してゐる、“冴ゑ”が見られなかった。そんなはずはなゐ……!この時の師匠は、誰よりも私がよく記憶してゐるつもりだ。その私の記憶のなかに、かういふ表情の師匠はなかった。私の心に衝撃が走る . . . 本文を読む
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大藏虎明の仕事。

2019-04-20 19:27:50 | 浮世見聞記
横浜能楽堂で、「東次郎 家伝十二番」の第一回を観る。狂言方大藏流の山本東次郎が横浜能楽堂で月に一度、二番の狂言を来年三月にかけて上演していくこの通し企画の初回では、「三番三」を”三社風流”といふ珍しい型で上演。金春流猿楽師がいつも通りに「翁」をつとめ、つづひて「三番三」となり、“揉の段”を舞ったあとに後見座で素襖を脱ぎ、小袖に半切姿となった上から、本物の鎧を身につける。その姿だけでも特異だが、そこ . . . 本文を読む
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我は変はらじ四方の藤波。

2019-04-19 18:29:42 | 浮世見聞記
白い暑さに、藤の花があちこちで開きはじめる。藤は、強い生命力の象徴。“細く長く生きる”とはかういふことかと、その麗らかな姿に魅入る。毎年その季節が訪れると必ず咲く花は、何事も無いことこそがいちばんの平和であることを、静かに教へてくれてゐる。物事が変はるといふことは、その物事が不幸せの根源であるからにほかならぬ。しかも、変わったのちの保障など、何も無いのである!徒らな冒険の飽くなき繰り . . . 本文を読む
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巨星の御墨付き。

2019-04-17 17:52:35 | 浮世見聞記
県立神奈川近代文学館の特別展「巨星・松本清張」を見る。私がはじめて読んだ松本清張の作品は、税務署の内実を曝いた「歪んだ複写」で、新聞記者が鉛筆で記事原稿を書く場面に、“昭和”を感じたものだった。以来、代表的な作品をはじめ、手当たり次第に諸作読み続けて現在に至るが、不惑になってからの作家業といふ“遅れ”を取り戻すかのやうな量産ぶりは、やはり作品によって出来不出来の落差も大きい。傑作は徹底的に傑作だが . . . 本文を読む
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町内名所図会。

2019-04-16 18:01:00 | 浮世見聞記
いつも通る陸橋下を、いつものやうに通らうとしたら、頭上で数羽の鳩の聲が聞こえる。顔をあげると、橋脚と橋桁の接するあたりから、細い木が生ゑてゐることに気が付く。その根元では、鳩が巣を作ってゐる様子である。橋脚も橋桁も共にコンクリート製で、まさかそんなところから木が生えるとは!草木の生命力、畏るべし!普段通ってゐる道なのに、そのことに今まで全く気が付かなかったとは、「灯台下 . . . 本文を読む
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うちの近所の天皇さん。

2019-04-15 19:12:59 | 浮世見聞記
国立公文書館で、春の特別展「江戸時代の天皇」を見る。江戸前期の徳川和子(とくがわ まさこ)入内から、後期に即位した現天皇家の祖、光格天皇の時代までを、当時の公家日記や、視覚資料として緻密に描写された絵巻物より通覧する。江戸時代前期、法令(法度)で威圧する“関東代官”徳川幕府との対立は、後水尾天皇の突然の譲位といふ大事件によって、ひとつの山場を迎へる。この一大決行は側近の公家たちにすら事前に知らされ . . . 本文を読む
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伝、伝、伝を、装飾する。

2019-04-14 20:37:53 | 浮世見聞記
世田谷区上野毛の五島美術館にて、春の優品展「和と漢へのまなざし」を見る。“大東急”の実質的創業者であり、“強盗慶太”と異名をとるほどの強烈な個性を発揮した五島慶太は、私が敬愛する人物のひとり。語呂の響きの面白さと敬慕を込めて、敢ゑて「強盗慶太」と呼ばせてもらってゐる五島慶太氏の蒐集品より、今回は歌仙や能書家たちの作品を鑑賞する。……といっても、そこに墨書されてゐるものの意味や価値は、さっぱりわから . . . 本文を読む
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麿のあそび。

2019-04-13 19:42:03 | 浮世見聞記
東海道かわさき宿交流館で、日本今様謌舞楽会による「今様(いまよう)」公演を観る。今様とは、平安時代に大流行した『今の様(さま)を詠う最も新しい歌謡』のことで、それに白拍子が即興で舞をつけて舞ふ、宮中の娯楽芸能だった。もともとは庶民の間で愛詠された音曲だったが、後白河法皇が大ひに好んだことから宮中でも催されるやうになり、法皇はつひに「梁塵秘抄」を著すまでになる。その後は廃れた今様を、七十年前に京都を . . . 本文を読む
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野暮は揉まれて塵となる。

2019-04-11 16:19:46 | 浮世見聞記
人の流れが変はる季節となり、交通機関は五月いっぱい遅滞する。その要因たちは、いづれもひとつの雛形を模った姿形(なりかたち)で、しょせんは馴染めぬ景色のなかを、都会人気取りにさまよい歩く。やがて手にした機器に振り回され、奥の迷路にはまり込み、都会(ここ)は人の住むところでないと、夢の枕でひとり哭(な)く。なにも無い人は、なにも無いところへ帰るべし。『キツケヌ冠上ノキヌ、持チナラハヌ杓持テ、内裏マシハ . . . 本文を読む
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