迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

あなたは謎ですかきつばた。

2024-05-31 19:06:00 | 浮世見聞記
ラジオ放送の觀世流「杜若」を聴く。三河國八橋まで来た旅僧は、當地名物の杜若(かきつばた)の群生に見惚れてゐるところへ聲を掛けてきた女性に招かれるまま庵へ行くと、女性はその昔在原業平の和歌(うた)に詠まれた杜若の精であると打ち明け、業平ゆかりの装束をつけて古への戀を偲んで舞を舞ふと、業平こそ女性を救ふ菩薩であったと“秘密”を明かして姿を消す──東日本大震災の“義援能”として、渋谷區松濤の舞薹で觀世流 . . . 本文を読む
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雲霞災来……。

2024-05-30 19:45:00 | 浮世見聞記
朝の空に浮かぶ夏のやうな雲を見上げて、明日接近と予想される薹風一號云々以上に、今年も暑苦しい季節の接近を實感する。思えば昨夏の暑さは“熱さ”であり、もはや季節と呼べる風流なものではなかった。白昼の炎天下で、骨董市の見世番をしてゐた若い女性が、湯上がりのやうな表情で「あつい、あつい……」と喘いでゐた様は、いかにも氣の毒であった。夏が“災害”であることは、すでに官も公認としてゐるところである。いかに“ . . . 本文を読む
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一點好點なる時空風景。

2024-05-29 19:31:00 | 浮世見聞記
昨日の荒天が一転して今日は好天、せっかくのお出かけ日和ゆゑ、東京都冩真美術館の「時間旅行」展を觀に行く。百年前の1924年──大正十三年を旅の起點に、この美術館の蒐集品より様々な作家が捉へたその時代の瞬間を、それぞれが得意にする仕事(わざ)を通して訪ね歩く。1936年(昭和十一年)に發表された、“森永ミルクチョコレート”の宣傳冩真。(※一部作品を除き、展示室内撮影可。以下同)堀野正雄による撮影で、 . . . 本文を読む
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ウラよりオモテを舞ふ。

2024-05-28 19:11:00 | 浮世見聞記
大阪府吹田市の萬博記念公園内にある國立民族學博物館の特別展「日本の仮面 芸能と祭りの世界」を觀る。日本各地の祭禮などで演じられる藝能で用ゐられる、または用ゐられてゐた假面の數々を、豊富な分量で紹介した企画で、假面をつけて舞ひ、踊る活動をしてゐる私としては、是非とも觀ておきたかった。ヒトが假面を付ける行為をいつから初めたのか定かではないさうだが、縄文時代の遺跡から、土を焼いて作られたかなり明確な姿の . . . 本文を読む
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ニッポン徘徊──まほろば令和

2024-05-27 20:36:00 | 浮世見聞記
奈良縣は東大寺の北郊、静かな山腹にある三笠霊苑に建立された、安倍晋三元首相の慰靈碑を拝す。和州選出の與党議員の有志によって昨年七月建立された慰靈碑にて、あの卑劣にして痛ましい銃撃事件の犠牲となった安倍晋三元首相には、特に人災疫病禍元年において非常に助けられた一國民として、必ず御禮を述べに伺いたいと願ってゐたことが、今日に叶ふ。政治家とは國民から貶されることも仕事のうち . . . 本文を読む
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快適なり不快適。

2024-05-26 19:42:00 | 鐵路
東急東橫線にて、どう考へても失敗作としか思へない、平日夕方の帰宅混雑時間帯に一部の“隔停”で運行してゐる有料座席指定車“Q SEAT”を、今月七日より開始時間を前倒して二本増發する代はり、二両を一両に減らして運行してゐることを、今頃になって驛の案内で知る。實質、規模の縮小。實質、失敗を認めたやうなもの。東橫線“隔停”の、昔ながらの混雑を緩和するため、一部編成をそれまでの八両から十両に増やしたものを . . . 本文を読む
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春華忘芳。

2024-05-25 19:09:00 | 浮世見聞記
小物を買ひに橫濱の中華街まで出かけ、ハシゴの挙げ句に本来の目的とは違ふ、しかし面白い物が手に入る。料理と一緒で、中華の歴史的文物は私と云ふニッポン人の感性にはよく合ふ。なにしろ、“お隣さん”じゃからの。わが町で、今年も紫陽花が御目見得する。そのとき、今さらながら重大な看過に氣が付く。今年は牡丹にも芍藥にも、逢ふのを忘れてゐた、と……! . . . 本文を読む
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福腹京野菜!

2024-05-24 15:07:00 | 浮世見聞記
スーパーへ買ひ物に行って、九條ねぎをふんだんに使った和風サラダ、と云ふものを見つけたので、即決でカゴに入れて、食事のお菜にする。長ねぎは、武州産より京都産のはうが好きだ。京都で平安時代から栽培されてゐる傳統野菜、と云ふ點に惹かれてゐるのと、かつて大阪に住んでゐた時代、暇さへあれば京見物に出かけてゐた、あの頃の懐古氣分がだいぶ手伝ってゐる。……そして、脂っこいものより、さういふサッパリしたもののはう . . . 本文を読む
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再縁神戸の堅牢。

2024-05-23 23:13:00 | 浮世見聞記
今年の正月に神戸を旅し、國道174號線から定番のメリケン波止場を訪ねたあとで、事前に手に入れてゐた往年のメリケン波止場の古い冩真資料を見返して、波止場の背後に冩ってゐる左側の白い建物に記憶があり、この旅で撮った冩真も見返して、商船三井のビルであることを知る。阪神淡路大震災でメリケン波止場は損壊したが、この洋風の古きビルは耐へ抜いたのである!古い冩真に遺る建 . . . 本文を読む
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光陰を偲ぶ皐月の戯場(しばゐ)かな。

2024-05-22 18:50:00 | 浮世見聞記
昨年亡くなった四代目市川左團次の一年祭追善狂言「歌舞伎十八番の内 毛抜」を觀に、歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』の昼の部へ出かける。私が歌舞伎座の三階席や幕見席へ足繁く通ってゐた學生時代、ちゃうど役者として脂の乗った時代を迎へてゐた市川左團次はお馴染みな役者の一人であり、堂々たる容姿を生かした骨太な役で魅せる一方、繊細な情で魅せる役、舞踊の素養が光る役など、様々な役(かほ)で見物を樂しませてくれる名 . . . 本文を読む
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カゲなる妙。

2024-05-21 18:34:00 | 浮世見聞記
ラジオ放送の金春流「天鼓」を聴く。妙音を奏でる鼓の献上を拒んだ所有者の少年(後シテ)を水に沈めて殺し、以来音を出さなくなった鼓を何とか鳴らさうと、少年の老父(前シテ)を呼び出して「次は自分の番か……」と疑はれ、老父の振る撥に鼓が共鳴すればたちまち感涙して機嫌を直し、その晩に少年の音樂葬を思ひ立つ身勝手な發想の唐國皇帝こそが、この曲の陰のシテ(主役)であり、陰であるだけに曲中に當人は姿を現はさず、す . . . 本文を読む
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法の御聲は泡沫(うたかた)に。

2024-05-20 20:00:00 | 浮世見聞記
鎌倉歴史文化交流館の企画展「鎌倉の廃寺─寺社の興亡─」を觀る。 鎌倉の寺院と云ふと、中世における新興宗派の“聖地”との印象が強いが、この地には實に七世紀後半の律令制時代より佛の庭が存在云々、さりながらしょせんヒトの手で運營されるものなれば、寺運つたなく時勢に圧されて廃絶した寺院も多くあり。さうした今や跡形もない往年の姿を、微かな痕跡より出土した遺品などから偲んだ企画展で、(※展示室内撮影可)廢絶寺 . . . 本文を読む
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夢に戀しき初音かな。

2024-05-20 18:30:00 | 浮世見聞記
夕方、棲家の窓より今年はじめて鶯のこゑに逢ふ。年々の余計な“人流”によって、我が町内も少しづつ五月蠅く汚くなっていく様子が感じられ、樹木も減ってかつてほどには鶯のこゑにも逢へなくなり、それもさうかと今年も殘念に思ってゐたところだったので、たとへ今の一瞬だけでも我が悽家にゐながらにして逢へたのは、本當に嬉しい。……浮世における「利益」とは、ムダばかり量産することを云ふのだらうか? . . . 本文を読む
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てつみちがゆく──早すぎた“未来”。

2024-05-19 17:20:00 | 鐵路
兵庫縣の姫路驛の南西にそびえる手柄山に保存公開されてゐる、旧姫路モノレールの車両に逢ひに行く。昭和四十一年(1966年)四月一日、姫路城の復元工事完成記念と東京オリンピックの協賛事業として開催された、「姫路大博覧會」の手柄山會場と、姫路驛とを結ぶ當時斬新な輸送機關として計画されたが、(※姫路大博覧會の復元模型)實際に開業したのは會期も後半の同年五月十七日と、初日に間に合はなかったところに既にその後 . . . 本文を読む
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薫風薫活。

2024-05-18 16:05:00 | 浮世見聞記
 地下鐵の驛から地上に出て目にした東京の天氣と氣温の予報に、暑さよりも寒氣を覺ゆ。まだ湿度の低いのが幸ひか。それでも、ふらりと入った見世で面白い物を見つけて手に入れて、お出かけした甲斐はあり。銀座の歩行者天國を吹き抜ける風が心地よい。今日のところはこれくらゐで引き揚げるのが、よかろ。 . . . 本文を読む
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