迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

古景瑞冩。

2024-01-31 15:35:00 | 浮世見聞記
東京都文京區の印刷博物館にて、「明治のメディア王 小川一眞と写真製版」展を觀る。明治十年(1877年)、十七歳にして武州の富岡製糸場前で冩真業を始めたのち、二十代で渡米して高度な印刷技術を學んで帰國、明治二十一年(1888年)に二十八歳で神田三崎町で印刷業を始めた冩真技師にして印刷技師の小川一眞(おがわかずまさ)の、近代日本における情報革命の足跡を、數多の美しい製版冩真たちから追って . . . 本文を読む
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“バリアフリー障害”。

2024-01-30 19:43:00 | 浮世見聞記
電車に乗ってゐて、前々からひとつ疑問に思ってゐることがある。車内には車椅子用の場所が設けてあるにもかかはらず、實際に車椅子利用者が使用してゐるのを、まず見ないことだ。たまに乳母車置き場になってゐるのを見るくらゐで、車椅子の場合、そのほとんどが扉前(出入口)の真ん中に、鎮座ましましてゐる。おそらく、その扉が下車驛でエレベーター近くに當ってゐて、便利なためだらう。しかし、出入り口にあれだけの寸法の物が . . . 本文を読む
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延命稲荷。

2024-01-29 19:30:00 | 浮世見聞記
東京都大田區中央五丁目、池上本門寺裏を行く高臺の道を大森方面へ下る途中で、真新しい鳥居が目に入り、氣になって立ち寄る。扁額には「黒鶴稲荷」とあり、令和五年の建立云々。境内は新築の高齢者施設の裏手にあたり、芝生で綺麗に整地されたなかに、鳥居に背を向けた形で白木の社殿あり。どふやら鳥居と参道が、裏手に面してゐるらしい。社號の“黒鶴”とは聞き慣れないが、郷土史によれば天正十八 . . . 本文を読む
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未来霧中。

2024-01-28 18:00:00 | 浮世見聞記
品川區西五反田、中原街道から少し入ったマンション沿ひに見かけた地藏尊。傍らの案内板によれば、建立縁起は不明云々、大昔に中原街道(旧道)を敷設の際に落命した人夫たちの、慰靈のためと推定云々。もとの地藏は東京大空襲で著しく破損したため、昭和五十七年(1982年)に再建云々、その際、五十年後に開封するタイムカプセルを新地藏尊の下に埋設云々。開封は2032年。あと八年。八年後には、浮世はいろいろな意味で、 . . . 本文を読む
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耳で觀る手立て。

2024-01-27 16:13:00 | 浮世見聞記
ラジオ放送の寶生流「國栖」を聴く。身内争ひから大和國國栖へ難を逃れた浄見原天皇(天武天皇)一行と、土地の漁師老夫婦との、鮎を介した交流ぶりが好きな曲。追手が天皇にいよいよ迫ってゐることを察した漁夫は、とっさに川舟を伏せてそのなかに天皇を隠し、舟のなかを見せろと迫る狂言方つとめる追手たちを、舟は漁師の住家も同然なればそんなことは許さない、押し通さうとするならば一族総出で反撃すると鬼気迫る勢ひで追ひ拂 . . . 本文を読む
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早早春賦。

2024-01-26 17:51:00 | 浮世見聞記
櫻の時期には名所となってなかなか喧しくなる、目黒川沿ひに行く。もちろん、櫻は蕾にもなってゐない。そりゃさうだ。冷たい川風が、そんな私を嗤って吹き過ぎる。忘所で、梅花を啄む鶯らしきを見かけて、冩真に撮りたかったが、生憎と好機を逃す。私はメジロならば見かけたことはあるが、ウグイスは目にしたことがない。そもそもあの小鳥が、ウグイスであったかどふか……?春は、まだ今日ではないやうだ。 . . . 本文を読む
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耳聡十色。

2024-01-25 20:51:00 | 浮世見聞記
世田谷區太子堂の圓泉寺を、久しぶりに訪ねる。境内に聖徳太子を祀った御堂のあることから、“太子堂”と云ふ地名が興ったその語源の脇で、地元住民らしき爺さんが、ひとり太極拳らしき身振りを交へて、なにかを大音聲で語ってゐた。いささか、やかましい。やがてスッキリした顔で立ち去っていく爺さんとすれ違ひながら、聖徳太子は爺さん一人で十人分のこゑを聞かされたことだらう、と思った。 . . . 本文を読む
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この浦舟や着きにけり。

2024-01-25 15:42:00 | 浮世見聞記
觀世流「高砂」を、ラジオ放送で聴く。早春の水平線に朝日が昇るが如く、力強く爽快に謠ふのが心得云々、しかし字句も節付けもなかなか難しく、お素人が臨むには手強い曲と記憶してゐる。しかし祝儀曲の第一であることから、曲の一部がいくつかの“小謠”となって、かつてはお祝ひの席で親しまれてゐた。いつであったか、初老の女性が親類の結婚式でこの「高砂」の小謠をやりたいからと、忘流能樂師の . . . 本文を読む
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“神國”無殘。

2024-01-24 19:10:00 | 浮世見聞記
橫濱市西區みなとみらいの神奈川大學みなとみらいキャンパスにて、冩真展示「『神国』の残影」を觀る。戰前戰中の大日本帝國が占領した支那や朝鮮、東南亞細亞の大陸に創建された數多の“海外神社”は、移住したニッポン人たちの心の拠り所となると同時に、ここがニッポン領であることを視覺的に示す役割も果たしてゐた。しかし敗戰後はそのほとんどが破壊、または爆破さ . . . 本文を読む
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殘影殘照。

2024-01-23 18:08:00 | 浮世見聞記
地下街への入口あたりで、一昔前に亡くなったはずの“先輩”とすれ違って驚き……、いや、もちろんそれは、“先輩”とよく似た人だった。しかし、あれから年齢を重ねたら、たぶん現在はああいふ容貌だらうと、年齢相應さにおいても、よく似てゐた。街なかで、健在の人に似た人を見ることはあっても、故人と似た人を見ることは、私はまず無かった。すれ違ったあとで、振り返りはしない。後ろはすべて過去。帰らぬ過去。地下街を通り . . . 本文を読む
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人智現實。

2024-01-22 19:32:00 | 浮世見聞記
町なかで、“地震に強い水道管”の埋設工事現場を見かける。東日本大震災以降、あちこちでかうした公共工事を目にするやうになった。ところが、このたびの能州における大地震では、この“地震に強い”はずの水道管が多く斷裂云々、地球の威力のほどを思ひ知らされる。……やはりどふも我々ニンゲンは、“なにか”に嘲笑(わら)はれてゐる氣がしてならない。 . . . 本文を読む
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日曜来陽。

2024-01-21 21:05:00 | 浮世見聞記
長期予報通りに今日は朝から雨、それを見越して今日は外出の予定を入れず、部屋で溜まった本の“整理”に充てる。昼には雨が小降りになり、昼過ぎには雲が切れてやうやく空が覗いたを幸ひ、散歩に出る。帰宅してからは大相撲初場所の中繼を樂しんで、今年は春巡業を觀に行かうかどふか考へれば、氣持ちは早くも春風に乗って、先(あす)へと行く。 . . . 本文を読む
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匂梅美暖。

2024-01-20 20:07:00 | 浮世見聞記
近所で蠟梅で見頃となってゐることに、にほひで氣が付く。雨模様の寒空に、一服の甘露。 昼には贅澤な會食。されど腹八分に留むる。そのはうが、美味も際立つゆゑ。あヽ、いと寒し。とく部屋に帰り、暖をとりつつゴロ寝せん。 . . . 本文を読む
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初春に寒風散らす櫻かな。

2024-01-19 23:51:00 | 浮世見聞記
昨夏に淺草で才氣煥發ぶりを發揮した尾上右近の「京鹿子娘道成寺」が、今度は歌舞伎座初春興行の夜の部で上演云々、これはまたぜひ觀たいと、樂しみに出かける。淺草公會堂の自主公演で“初演”した時には、才氣が迸(ほとばし)るあまり踊りがやや粗っぽくなるきらいがあったが、今回はそれがまろやかに仰えられ、しなやかで大人っぽい白拍子へと著しく進化してゐて、これぞ大芝居の道成寺、(※六代目尾上菊五郎の白拍子花子 昭 . . . 本文を読む
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水恩静癒。

2024-01-18 17:14:00 | 浮世見聞記
前から一度ちゃんと見たいと思ってゐた、川崎市高津區久地の「久地圓筒分水」を見に行く。二ヶ領用水を上流から圓筒の下へ流し込んで上から溢れさせ、それぞれの水路へ均等に水を振り分ける画期的な装置は、昭和十六年に平賀榮治氏によって完成云々。ヒトがクチでは云ふ「平等」を、しっかり具現化して見せたところに、氏と装置の偉大さがあることは、云ふまでもない。この有形文化財にして土木遺産のそばの水門からは、二ヶ領用水 . . . 本文を読む
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