国立劇場敷地内の伝統芸能情報館へ出かけ、手猿楽師としての“勉強”をする。
このたび新しく学んだこともあれば、
知ってゐるつもりで実は知らなかったこと、
ちゃんと憶えてゐたつもりが実は勘違ひして憶えてゐた事柄など、
たくさんの出逢ひに学ぶ楽しさを再発見した、有意義なひととき。
私が国立劇場で傳統芸能の基礎を学んでゐた当時、これら資料は劇場本棟にあった閉架式の図書室に収められており、暇 . . . 本文を読む
東京都千代田区の国立公文書館で、「平家物語──妖しくも美しき──」展を見る。
「平家物語」と、その異本のひとつである「源平盛衰記」を中心に、平家の栄枯盛衰に絡んで現れる、多くの魑魅魍魎に焦点をあてた企画展。
その怪異のひとつひとつが、平家滅亡への伏線、或ひは予兆として捉へられ、脇筋ながら源頼政の鵺退治は謡曲の名品「鵺」の原話となるなど、平家物語は諸行無常を縦軸とした深大な運命物語であることを . . . 本文を読む
十年前の平成二十年夏、愛知県の明治村に移築保存されてゐる“旧宇治山田郵便局”にて、十年後の自分に宛てて書き送った手紙が届く。
それまで十年と二ヶ月いた組織を「自分の意志で」離れ、新しい世界へ歩み出さうとしてゐた当時の私が、夏の鉄道旅行の行程で明治村を訪れた際、その記念のつもりで、したためたものだ。
「これから東海道本線に乗って東京へ帰り……」の一文に、新たな第一歩を踏み出さうとしてゐた瞬間の . . . 本文を読む
岐阜県では栗が早く落下し、佐賀県では銀杏の葉が黄色くなるなど、今夏の異常天候が樹木にも影響を及ぼしてゐるなか、近所の百日紅が、新しい木肌をのぞかせてゐる。
熱さはまだ続いても、季節は必ず移りゆく。
まだまだ油断はならねども、この異常な暑さならぬ“熱さ”をなんとか乗り越えて、次の季節の準備を心づもりしなければ──
つるつるとした若い木肌を指先でそっと撫でて、
今年も「夏」を生きたと、感慨 . . . 本文を読む
横浜市港北区綱島東の諏訪神社祭礼にて、日吉佐相太夫社中の神楽を観る。
昨日に続ひて35℃を超える気温のなか、本当に奉納されるのかしらと心配だったが、本殿脇に仮設された舞台はちょうど日陰にあたってゐて、予定通り14時、神楽囃子より奉奏さるる。
お神楽は伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が黄泉國における穢れを払ふ「御祓払ひ」より、
三人の神様が誕生する「墨之江大神(すみのえのおおかみ)」。
. . . 本文を読む
近所の空き地や古い空家が、今年に入って次々と更地になり、いまそれぞれに、新しい家屋の建築が進行してゐる。
おかげで、掻き出した土を満載にした大型トラックや、土埃にまみれた重機やらが、我が町の狭い道を朝から往復して、暑さとは別のところで顔を顰めたくなる。
このヒトたちはいつになったらいなくなるのだらう、と思ふ。
いなくなった跡には、全国各地で見られるやうな、画一的な安普請が密に建ち並んでゐる . . . 本文を読む
今日も身近なところでヒトが熱中症で搬送され、私もさすがに疲れを感じさせられたこの季節、今を盛りに咲き誇ってゐるのが、ヒャクジツコウ、百日紅、さるすべりだ。
学生時代に読んだ三島由紀夫の「近代能楽集」のなかに“百日紅”といふ名詞が出てきて、それで読みともども覚えた花だ。
百日紅の“花言葉”は「雄弁」「愛嬌」などださうだが、私はどうも、この花言葉といふものが馴染めない。
もともと西欧貴族の言葉遊 . . . 本文を読む
陽気の良いときに散歩へ出かける公園の一角に、一軒のカフェありけり。
ふだんはオーナーの男性がひとりで切り盛りしてゐるが、繁忙時にはアルバイトの女のコが二人、加はる。
さりながらこのコたち、一生懸命に動ひてはゐるのだが、とにかく要領が悪い。
今日とても、オーナーの穏やかな叱責を喰らひつつ出してくれた抹茶ソフトが、素晴らしい出来映えである。
あのコたち、あそこのバイト歴だけは、だいぶ長いはずな . . . 本文を読む
七月七日以来、実に四十日ぶりに炎暑から解放され、カラリとした涼しさにホッとした一日。
風は明らかに秋の薫り、まうこのまま夏はおしまいになるのかしら、いや、なってほしいと思へども、昼間の日差しはやはり夏の光。
そこでふっと現実に引き戻されるが、しかし夏はすでに後半に入っており、今までは熱さで、そんなことまで忘れてゐた。
部屋で囃子を聞きながら扇を手にとると、妙案がいくつも浮かんでくる。
. . . 本文を読む
先日、橫濱の山手居留地234番館で託した葉書が、手許に届く。
その時まで、託したことをすっかり忘れてゐたものだ。
さうさう、旧「橫濱税関」を写した復刻版を、選んだのだ。
これがいつ頃の撮影なのか、はっきりとは知らぬ。
が、この景色のはるか延長線上に、現在(いま)のヨコハマはある。
……はずなのだが、そこに連続性を見出せないのは、なぜだらう。
. . . 本文を読む
終戦七十三年目の今日、番組に惹かれて今年も「相模原薪能」を観に行く。
裃を着て興奮気味な副市長と、会場を提供した女子大校長先生の、話す内容をちゃんと考えてこなかったと思しき挨拶はともかく、続いて登場した評論家センセイの、「簡単に」と前置きしながら謡曲の詞章以上にナニを喋ってゐるのかサッパリ判らない“解説”が延々と続いたのには、いささか閉口する。
能楽をイタズラに難解なものにしてゐるのは、実に . . . 本文を読む
新宿の京王百貨店で、今日まで「鉄道フェスティバル」を開催してゐると知り、七階の催事場を覗いてみる。
運転シミュレータあり、Nゲージあり、プラレールありにちびっ子たちは大喜び、オジサンたちは童心へ返ったかのやうに瞳(め)が輝いてゐる──
私も浮かれ足でグッズコーナーを巡ってゐるうち目に留まったのが、懐かしい東急デハ3450形のプラモデル。
幼少時代、池上線と目蒲線と云へば、緑色のあの車輌だった . . . 本文を読む
ラジオにて政治読み曰く、
「高校野球(甲子園)によって大人たちは青春を思ひ出し、そして故郷(ふるさと)を想ふ。これは日本人の“文化”と言へるでせう」
と。
野球は全く門外漢の私だが、
その“文化”といふ捉へ方には、
共感できる。 . . . 本文を読む
横浜の旧山手居留地、山手234番館で開催中の「古写真・絵葉書に見る幕末・明治の世界」展を見る。
個人が蒐集した横浜山手居留地の古写真や絵葉書を公開した企画展を期待して、洋館ながら靴を脱がされ二階に上がった先にあったのは、それらの複製を解説文付パネルに仕立てたものが、壁掛けされただけの内容。
むしろ、チラシとポスターに使われた絵のはうが、
“異国情緒ヨコハマ”の雰囲気がよく伝わってくる。
. . . 本文を読む
埼玉県久喜市に鎮座する鷲宮神社の大鳥居が倒壊したと知り、大ひに驚く。
鷲宮神社には、江戸の土師流里神楽の源流である「鷲宮催馬楽神楽(土師一流催馬楽神楽)」が伝承されており、
二年前の夏に現地へ観に出かけた際、いかにも古社らしいかの大鳥居の風情に、心惹かれた憶えがあるのだ。
上段の写真はそのときに撮影したもので、まさかそれから約二年後に、これが倒壊しやうなどとは、夢にも思はず。
原因は . . . 本文を読む