用事があって訪れた町の駅前を、夏祭りの神輿が巡行してゐた。
担ぎ棒の上に人が立って気勢を上げるのは、かうした祭りではよく見られる光景だが、男女混合で担ぐその神輿には、色白で細足の若い女性が立ってゐた。
両手の扇子を振り振り、男気取りで気勢を上げてゐたが、膝が内側を向いてゐるあたり、しょせんはオンナだ。
聞いた話しでは、人が神輿の担ぎ棒に立つのは行儀が悪い、とされてゐるらしい。
それはともか . . . 本文を読む
東海道は旧戸塚宿の八坂神社に、元禄の頃から伝わるといふ伝統行事「お札まき」を見る。
これは顔を白く塗り、姉さん被りに襷掛けといった女装をした男性たちが、
『サァサこども 天王さんは泣く子がきらひ……』
云々、と渋団扇で拍子をとって囃したあと、ボテ鬘を乗せた音頭取りが掲げる“正一位八坂神社御守護”としたためられた小さなお札を、
渋団扇で煽ぎながら撒く──
一種の厄払ひ行事だ。
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上方落語が聴きたくて、横浜にぎわい座の「第6回 南光南天ふたり会」に出かける。
開口一番の師弟トークから大いに盛り上がり、久しぶりに爆笑する。
前半は南天師が「替り目」で夫婦愛をじわじわと聴かせ、次に南光師が“夢”の怖さをすら感じさせる「天狗裁き」を口演。
中入りをはさんだ後半は、南天師が「代書」で大いに沸かせる。
これは三代目桂春團治の音源で聴いて好きになった噺だが、春團治のものが基 . . . 本文を読む
新潟港からカーフェリーに乗り、人生初めて佐渡島へと渡る。
海上なれど「国道350号線」を行くこと二時間あまり、
水平線に目指す島が現るる。
港に降り立つとすぐに路線バスへと乗り換へ、旧三宮村で下車、
地名の起源である順徳上皇第三皇子の御陵を拝し奉る。
そして阿仏坊妙宣寺を訪ね、
日野資朝卿追善として奉納さるる“佐渡宝生”の能を観る。
佐渡島は現在も三十あまりの古い . . . 本文を読む
会津若松駅で、偶然SLに出逢ふ。
ナマのSLを目にするのは、大阪で伝統芸能の勉強をしてゐた二十年ほど昔、いまは無くなった京都の梅小路機関区における、SL試乗会以来だ。
“何事も、実物(ほんもの)を目にしなければならぬ──”
SLほど、この言葉にぴったり当てはまるものはないと、わたしは考へる。
あの迫力だけは、写真や映像や音響では、決して再現できない。
そして、SLが実は“生き物 . . . 本文を読む