◇男はつらいよ 寅次郎真実一路(1984年 日本 107分)
監督/山田洋次 音楽/山本直純
出演/渥美清 倍賞千恵子 吉岡秀隆 前田吟 笠智衆 三崎千恵子 太宰久雄 大原麗子
◇第34作 1984年12月28日
「ごじらだっ」
「あれは、ごじらではありません、どちらかというとえりまきとかげに似ております」
とかいう夢からして嫌な予感はしていた。
寅のいつもぶら下げてるお守りを水戸黄門の印籠のように掲げるとお守り光線が出てやっつけるのだが、最後の悲鳴が「寅さ~ん」で、目が覚めるとGodzillaの被り物をかぶった子供におこされるという寸法だが、なるほど、いかに松竹とはいえ「ギララだ」というたらあかんのね。
ところで、これは米倉斉加年の物語だ。
これまで巡査や夢の準レギュラーで貢献してきたことへのねぎらいのようで、米倉贔屓の僕は嬉しかったりする。
しかし、きびしいな。一杯おごってもらったからといっていきなり勤め先を訪ね、待ち、望郷のおもいを刺激し、嫁の大原麗子に横恋慕し、さらに留守宅まで上がり込み、あまつさえ占いの婆のいうことに惑わされ、とらやの金を寄越せと大喧嘩する。ここまで阿呆なのかととことん追い込んでいくのだが胸が苦しくなるくらいの無知と貧困と情けなさだ。
我が身をふりかえれば、寅やとらやの方がましだしまともだとおもうものの、目を背けたくな身につまされるな。
「こいつは自分じゃなんにもしないくせに口先ばかりえらそうなこといって」
というおいちゃんこと下條正巳の台詞にはぐさりとくるわ。
まあしかし、米倉斉加年を探して鹿児島まで旅立つ大原麗子にくっついてゆく寅という展開をおもしろいとおもうかおもわないか、これは、寅とその無邪気な純粋さかあるいは無知による迷惑なお節介かどちらと捉えるかは、観客次第だろうね。
でも、大原麗子にしても、その縁者たちにしても、笑顔が多くて大丈夫なんだろうか。まあここで、シリアスになっても仕方ないか。
とはいえ、うなぎ温泉で寅をかたって宿泊していたことを知ったとき、どこかに泊まろう、という大原麗子に対し、タクシー運転手桜井センリの家に泊まるという寅に「つまんない、寅さん」という大原麗子に「奥さん、おれはきったねえ男です」と、無法松のような台詞をとばす寅について「人妻に恋して旦那がこのまま行方不明になってほしいとする自分の醜さを汚いとおもっているのか」という博の解説と「おれは罰当たりな男だ、おれは醜い」という寅の心持ちは、なるほど、これまでにはなかったものかもしれないね。
それにしても大原麗子の胸の内はどうだったんだろう?
米倉斉加年のことを生きていてほしいと心の底からおもってたんだろうか?
たしかに心配していたことに疑う余地はないだろう、見つかったときは嬉しかったろう、これから先も幸せな家族として過ごしていくだろう。でも、寅との旅は愉しかったはずだ。となると、どうなんだろうね。女心は複雑だな。とかいう人間の暗黒面をおもうと☆はひとつ増やさないとあかんのだろうな。
だから、☆三つで◇にした。