☆ある過去の行方(2013年 フランス)
物語をつくるのはむつかしい。
そんなことはぼくみたいな素人がいったって仕方がないことなんだけど、
でも、むつかしい。
それが、登場する人間に誰ひとり悪者がいなくて、
現在、登場人物たちが追い込まれている状況のなんらかの原因が過去にあったとして、
それを探ってゆくときに、決して回想場面を使わず、
くわえて感情と感情がぶつかったりすれちがったり、
ときにはおもいこみだけが突っ走る告白によったりして、
観るものが過去のなんらかの事実を推測し、判断しなくちゃいけない物語を、
なんにもないゼロの状態から作っていかないとしたら、
これはもうむつかしくて仕方がないだろう。
しかも、欧米が抱えているのは移民問題で、
こいつが微妙に、たとえばヒロインの二番目の夫の帰国や、
ヒロインの不倫相手の妻(植物人間になってる)が洗剤を呑んだ、
クリーニング店の従業員とかが、そうした問題を抱えてて、
それが登場人物の人生にかなりの影響を与えてるもんだから、
ややこしい人物関係を余計にこんがらからせる。
ただ、
どろどろした人間関係の中にも、そこかしこに愛はあって、
ここに登場してくる人達は実をいえば皆が愛し合ってて、
でも、自分の欲求に正直で、嘘をいうことが下手で、
自分を表現することが不得意であるために、
感情が爆発してしまうと自虐的な行動や破滅的な罵倒で衝突してしまう。
よくもまあ、こんなめんどくさい関係を物語にしたもんだけど、
どうしても前半は関係を説明しなければならない分、退屈になる。
ぼくのように炭水化物を胃袋に入れて観に行った者には、
いやまじ、拷問みたいな単調さだったし。
でも、ピアノの不気味ながらも魅惑的なメロディは、
なんともいえないサスペンス感を盛り上げてる。
会話の繰り返しや悲劇の繰り返しに加えて、
音楽までもが単調に繰り返される。
絵づくりがじっとりと落ち着いた色と構図なものだから、
精神面だけでなく、なにもかもが重苦しく感じられる。
いや、アスガー・ファルハディ、すごい。
ちなみに、神経質なヒロインのベレニス・ベジョは綺麗だけど、
長女を演じたポリーヌ・ビュルレは、困っちゃうくらい、えらく可愛い。
こりゃあ、もう一度、じっくり観ないとあかんな~。