Kinema DENBEY since January 1. 2007

☆=☆☆☆☆☆
◎=☆☆☆☆
◇=☆☆☆
△=☆☆
▽=☆

ある過去の行方

2014年05月14日 14時23分21秒 | 洋画2013年

 ☆ある過去の行方(2013年 フランス)

 物語をつくるのはむつかしい。

 そんなことはぼくみたいな素人がいったって仕方がないことなんだけど、

 でも、むつかしい。

 それが、登場する人間に誰ひとり悪者がいなくて、

 現在、登場人物たちが追い込まれている状況のなんらかの原因が過去にあったとして、

 それを探ってゆくときに、決して回想場面を使わず、

 くわえて感情と感情がぶつかったりすれちがったり、

 ときにはおもいこみだけが突っ走る告白によったりして、

 観るものが過去のなんらかの事実を推測し、判断しなくちゃいけない物語を、

 なんにもないゼロの状態から作っていかないとしたら、

 これはもうむつかしくて仕方がないだろう。

 しかも、欧米が抱えているのは移民問題で、

 こいつが微妙に、たとえばヒロインの二番目の夫の帰国や、

 ヒロインの不倫相手の妻(植物人間になってる)が洗剤を呑んだ、

 クリーニング店の従業員とかが、そうした問題を抱えてて、

 それが登場人物の人生にかなりの影響を与えてるもんだから、

 ややこしい人物関係を余計にこんがらからせる。

 ただ、

 どろどろした人間関係の中にも、そこかしこに愛はあって、

 ここに登場してくる人達は実をいえば皆が愛し合ってて、

 でも、自分の欲求に正直で、嘘をいうことが下手で、

 自分を表現することが不得意であるために、

 感情が爆発してしまうと自虐的な行動や破滅的な罵倒で衝突してしまう。

 よくもまあ、こんなめんどくさい関係を物語にしたもんだけど、

 どうしても前半は関係を説明しなければならない分、退屈になる。

 ぼくのように炭水化物を胃袋に入れて観に行った者には、

 いやまじ、拷問みたいな単調さだったし。

 でも、ピアノの不気味ながらも魅惑的なメロディは、

 なんともいえないサスペンス感を盛り上げてる。

 会話の繰り返しや悲劇の繰り返しに加えて、

 音楽までもが単調に繰り返される。

 絵づくりがじっとりと落ち着いた色と構図なものだから、

 精神面だけでなく、なにもかもが重苦しく感じられる。

 いや、アスガー・ファルハディ、すごい。

 ちなみに、神経質なヒロインのベレニス・ベジョは綺麗だけど、

 長女を演じたポリーヌ・ビュルレは、困っちゃうくらい、えらく可愛い。

 こりゃあ、もう一度、じっくり観ないとあかんな~。

コメント

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

2014年04月06日 23時24分20秒 | 洋画2013年

 ☆ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(Nebraska 2013年 アメリカ)

 デジタルで撮ってるわけだから、

 白黒といっても昔のような白黒専用のフィルムというわけでもないし、

 もっといえば、白黒の撮影と照明のあて方も違っているんだろうから、

 なんでわざわざ色を抜いたのかっていう素朴な疑問もあるんだけど、

 まあ、監督のアレクサンダー・ペインが、

「象徴的、典型的な外観を生みだすためにそうしたんだ」

 といってるんなら、それでいいわね。

 淡々としたロードムービーで、

 これといった目新しさや斬新さがあるわけではなくて、

 ものすごく優しい息子がその姿勢を崩すことなく父親に尽くしてあげる姿は、

 いやまじ、とても真似のできない理想的なもののようにおもえたし、

 それだけでも微笑ましい映画だった。

 まあ、人間ってやつは、お金のありそうなところに群がるもので、

 そのどうしようもない汚さや虚しさが漂ってて、

 そういう心貧しい連中に対して、

 ほんのちょっとした見栄を張るラストは、溜飲は下がった。

 物語は多少のカリカチュアはあるにせよ、

 それなりのリアリズムで統一されてて、それがまたしみじみしてて好い。

 ぼくは、好きだな。

コメント

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

2014年04月05日 13時12分01秒 | 洋画2013年

 ◎オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ(Only Lovers Left Alive 2013年 アメリカ)

 ティルダ・スウィントンがいかにも吸血鬼らしくてええわ~。

 肉感的なところを徹底して削ぎ落したような彼女は、

 ほんと、白い魔女だの吸血鬼だのが似合う。

 そんなことはさておき、

 冒頭、レコードの回転に合わせて画面(世界)が回っていくという絵柄は、

 吸血鬼もまたレコードのように過去の遺物になってしまったって意味なんだろか?

 もはや希少価値以外に何の価値もなくなり、

 滅んでゆくのをただ待っているような心寂しい生き物としてだけ存在してる。

 なんとも儚い話ながら、

 もともと、吸血鬼は吸血鬼たりえる人間を世界中を回って探し求め、

 そして仲間にすることで自分たちを特権階級のひとつとしてきた。

 いわば特別な貴族といっていいようなものだったはずなのに、

 いまや、吸血鬼は哀れな絶滅危惧種でしかなく、

 自分たちが生息している場そのものが、

 かつては世界でも有数の都だったり、工業の一大中心地だったりしつつも、

 今では落ちぶれた連中だけがひっそりと生きてるだけの町になってしまった場所で、

 そんなところで身を隠して、宝物のような品を少しずつ売っては、

 ワインを愉しむように買い求めた血液を呑んで生きてゆくしかない、

 っていう状況に追い込まれている。

 結局、種を保存し、かつ自分たちを生き永らえさせるためには、

 血液銀行から血液を買うだけでは足りず、

 どうでもいいようなランクの人間までも吸血鬼とし、

 さらには処女の生き血しか呑めないはずが、

 そこらの場末の人間の血を糧にしなければならないという、

 哀れなほどの落ちぶれたありさまに成り果てている。

 あ~、なんか身につまされるわ~。

 とはいえ、

 絵作りはいかにもジャームッシュだし、

 重苦しいながらも洒落た音楽もまた、いかにもジャームッシュらしくて好い。

 社会から取り残されつつも、世間とは一線を画すことで矜持を保っていた者が、

 おろかしい一部の者によってその最後の一線を断ちきられてしまい、

 かろうじて保っていた世界すなわちプライドある生活の崩壊とともに、

 プライドを捨ててまでしても生きていきていきたいという、

 この世に生きる者すべてが備えている根源的な本能を肯定せざるを得ないという、

 なんとも哀れな話なのだよね。

コメント

REDリターンズ

2013年12月20日 23時54分14秒 | 洋画2013年

 ◇REDリターンズ(2013年 アメリカ 116分)

 原題 RED 2

 staff 監督/ディーン・パリソット 脚本/ジョン・ホーバー エリック・ホーバー

     キャラクター創造・原案/ウォーレン・エリス カリー・ハムナー

     撮影/エンリケ・シャディアック 美術/ジム・クレイ

     衣裳デザイン/ベアトリス・アルナ・パスツォール

     SFX/VFX監修/ジェームズ・マディガン 音楽/アラン・シルヴェストリ

 cast ブルース・ウィリス ジョン・マルコヴィッチ アンソニー・ホプキンス

     ヘレン・ミレン キャサリン・ゼタ=ジョーンズ イ・ビョンホン

 

 ◇メアリー=ルイーズ・パーカーが、ノッてる

 続編というのはたいがいそういうものだけど、

 なにより主人公たちの説明をしなくて済むのが楽だ。

 いきなり事件が展開させられる。

 ま、今回は、

 ヘレン・ミレンは『クイーン』のエリザベス女王を、

 アンソニー・ホプキンスは『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターを、

 それぞれパロディにし、それを愉しんでるところもあったりして、

 アクション・コメディはしかめっ面しないで愉しむしかないわね。

 ただ、なんだか、世界の平和をしょって立ってしまうのが、

 あまりにも短絡的な感じがしないでもないし、

 大御所を並べると、どうしても見せ場を順番に作らなくちゃいけないのが、

 なんだかちょっぴり、ハリウッドも辛いんだな~とおもわざるを得ない。

 そういう中で、ほんとに愉しんでるように見えるのが、

 メアリー=ルイーズ・パーカーだ。

 ブルース・ウィリスの恋人だから事件についていくっていうだけではなく、

 拳銃大好き女の子だから事件に巻き込まれたくて仕方ないっていうのがいい。

 たしかに、

 自分の好きな男が、

 キャサリン・ゼタ=ジョーンズみたいなお色気たっぷりお姉さんに気がありそうなら、

 当然、やきもちを焼くし、その嫉妬が行動力のみなもとになるのはわかるけど、

 拳銃をぶっぱなしたい、とか、カーアクションをやってたいとかいう衝動が、

 彼女を突き動かしているのだという設定は、好い。

 だから、

 次の任務があるといって、

 ラテンの某国で拳銃をぶっぱなすおまけが生きてくるんだけどね。

 

コメント

悪の法則

2013年12月15日 16時16分07秒 | 洋画2013年

 ◇悪の法則(2013年 アメリカ 118分)

 原題 The Counselor

 staff 監督/リドリー・スコット 脚本/コーマック・マッカーシー

     製作/リドリー・スコット ニック・ウェクスラー

         ポーラ・メイ・シュワルツ スティーヴ・シュワルツ

     製作総指揮/マイケル・コスティガン マーク・ハッファム

              コーマック・マッカーシー マイケル・シェイファー

     撮影/ダリウス・ウォルスキー 美術/アーサー・マックス

     衣裳デザイン/ジャンティ・イェーツ

     衣裳/エンポリオ・アルマーニ(マイケル・ファスベンダー)

         ジョルジオ・アルマーニ(ペネロペ・クルス)

         ポーラ・トーマス(キャメロン・ディアス)

         ヴェルサーチ(ハビエル・バルデム)

     音楽/ダニエル・ペンバートン

 cast マイケル・ファスベンダー ペネロペ・クルス キャメロン・ディアス

     ハビエル・バルデム ブラッド・ピット ブルーノ・ガンツ ナタリー・ドーマー

     ジョン・レグイザモ(カメオ出演)

 

 ◇ニーチェか

「深淵を覗き込む者は深淵もまたこちらを覗き込んでいる事を忘れてはならない。

 怪物と戦う者はその過程において自分が怪物にならないよう気をつけねばならない」

 とはいえ、

 この映画の主役たちは皆、怪物になりきれずに深淵に呑み込まれてしまうのね。

 けど、そんな哲学的な話だとはおもえず、迫力ばかりが押し出されてた。

 ちなみに、

 舞台になってるアメリカとメキシコの国境の町、

 シウダー・フアレス(エル・パソ・デル・ノルテ)はやばい。

 世界で2番目に危険な町(1番目はホンジュラスのサン・ペドロ・スーラ)だからだ。

 いやまったくそのとおりの展開で、

 バキュームカーがいまだにがんがん現役なのも、

 それだけ下水道が完備されていないってことで、

 麻薬も汚水も一緒くたというのが、善も悪も一緒くたってことの象徴なんだろね。

 男はほんとにアホで、

 愛人のためなら犯罪も犯して、

 3・9カラットの黄色がかったHランクのダイヤモンドを買ってやったりする。

 2000万ドルの儲けを4人で分配すれば、ひとり500万ドル。

 巨額だ。

 ダイヤを買ったところで、一生遊んで暮らせるのはいいけど、

 うんこと一緒に流れていっちゃったお金の変わりに命を奪われてゆくさまは、

 なんともいえず、後味が悪すぎる。

 なによりこの難解さと、

 怪物に追われる者たちの一方的な逃走と戦慄、そして敗北感。

 観終わったときよりも、

 しばらくしてからの方がより映画の世界が見えてくるのは、

 それだけ、ぼくに直観力と洞察力が欠けているからなんだろな~。

コメント

マリーゴールド・ホテルで会いましょう

2013年12月10日 12時39分34秒 | 洋画2013年

 ☆マリーゴールド・ホテルで会いましょう

  (2013年 イギリス、アメリカ、アラブ首長国連邦 124分)

 原題 The Best Exotic Marigold Hotel

 staff 原作/デボラ・モガー『These Foolish Things』

     監督/ジョン・マッデン 脚本/オル・パーカー

     撮影/ベン・デイヴィス 美術/アラン・マクドナルド

     衣裳デザイン/ルイーズ・スターンスワード 音楽/トーマス・ニューマン

 cast ジュディ・デンチ マギー・スミス トム・ウィルキンソン デーヴ・パテール ビル・ナイ

 

 ☆色恋は永遠

 インド、ジャイプール

 高級リゾートホテルになる予定の超おんぼろ廃墟ホテルに泊まることになった、

 いろんな事情を抱えたジジババの物語なんだけど、

 ホテル復興を夢見るインド人の青年の母リレット・デュベイは、

 ちょっと高慢な感じはあるけど、綺麗だ。

 それにも増して、青年の恋人テナ・デサイーは、

 もうたまんないくらい超綺麗だ。

 インド人の彫りの深さと神秘的な瞳にはやられちゃうよね。

 でも、7人のジジババの内、

 18年間ジャイプールに棲んでたゲイのひとりは、

 最愛の印度男と再会して命の火を消すし、

 定年まで我慢して連れ添っていた老夫婦は娘に貸した貯金が返ってくるや、

 ゲイに惚れていた妻の方が、その傷心を隠したままロンドンへ帰るし、

 残された夫は、

 テナ・デサイーの兄の会社に勤め始める未亡人と好い仲になるし、

 人種差別に凝り固まっていた元家政婦は、

 スードラの下女と知り合ったことで人種差別の愚かさに目覚め、

 ホテルの建て直しのためにひと役買うことになるし、

 いくつになっても女遊びの止められないラジオ好きな色情じーさんは、

 高級会員制クラブで知り合いになった在インドの老イギリス婦人をひっかけて、

 カーマスートラを必死に学んで朝まで連続セックスに挑むし、

 おなじように色恋は永遠と豪語する孫を愛するばーさんは、

 やっぱり会員制クラブで知り合った元英将校と色恋沙汰に発展する。

 うん、人間、いくつになっても色恋に溺れないとあかんのだね。

 第2の人生を求めて右往左往するジジババの姿は、

 身につまされるけれども、人間臭くていい。

 このバイタリティは見習わないとね。

 ちなみに、

 原題のThese Foolish Thingsは、直訳すれば、これらの愚かな物事、となる。

 意訳すれば、ほんとにバカバカしいことながら、みたいな感じかもしれない。

 ただ、ジャズのスタンダードにも、このThese Foolish Thingsはある。

 These Foolish Things(Remind Me of You)ていって、

 日本語の題名は「思い出のよすが」とかって感じになってる。

 作詞エリック・マシューウィッツ、作曲ジャック・ストレイチー。

 こちらは、イル・ド・フランスを舞台にした、男の思い出話だ。

 映画の中身とは、関係ない。

コメント

ウルヴァリン:SAMURAI

2013年12月05日 00時29分44秒 | 洋画2013年

 ◇ウルヴァリン:SAMURAI (2013年 アメリカ、オーストラリア 126分)

 原題 The Wolverine

 staff 監督/ジェームズ・マンゴールド

     脚本/マーク・ボンバック スコット・フランク クリストファー・マックァリー

     製作/ヒュー・ジャックマン ジョン・パレルモ

         ハッチ・パーカー ローレン・シュラー・ドナー

     撮影/ロス・エメリー 美術/フランソワ・オデュイ 衣装/イシス・ムセンデン

     音楽/マルコ・ベルトラミ 挿入歌/由紀さおり『生きがい』

 cast ヒュー・ジャックマン 福島リラ TAO 真田広之 スベトラーナ・コドチェンコワ

 

 ◇日本刀は両手で持つのだ

 日本びいきの外国人は、

 どうしても日本刀が神秘的なちからを持っていると信じたいんだろうか?

 忍者についてもそうで、

 いまだに日本がこういう国だとおもわれてるのかとおもうと、

 ちょっとだけ残念になる。

 とはいえ、まあ、いろいろ意見はあるだろうけど、

 エンターテイメントはどれだけ愉しめるかが問題で、

 そういう点からいえば、苦笑するところは多々あるにせよ、愉しめたかも。

 JR東日本が全面的に支援協力したらしく、

 対決の場になったのは東北新幹線の東京~郡山間を走る「なすの」で、

 ここでとんでもない身体能力をもった日本人どもが登場する。

 新幹線の上で決闘できるような日本人はそうそうざらにいるもんじゃない。

 さらに、郡山へ向かったはずが最終的に到着した先は長崎なんだから、

 こういうところはほんとにアメリカ人は拘らない。

 さすがだ。

 途中、どこの駅かわからないんだけど、繁華街の中にラブホがある。

 しかも、このラブホは受付がいまどき珍しい開けっぴろげの対面式だ。

 まじかよ、とおもった。

 で、開いてる部屋が、

『地下牢の部屋』『ナースの部屋』『火星探検の部屋』

 ってんだから、なかなか凄い。

 でもさ~普通、火星探検の部屋とかは選ばなくない?

 外人さんにしてみれば、日本のラブホは世界でも稀な文化で、

「おー、いったいなんで、日本人は、

 あんなに興味ぶかい性のワンダーランドを創れるんだ?」

 という仰天と尊敬があるんだろうけど、

 もうそういう時代じゃないし、いまどき、そんなラブホはなかなかないよね。

 ちょっと脱線しすぎたけど、

 それにしても、

 ウルヴァリンことローガンが長崎で被爆したとは知らなんだ。

 そういうことを考えると、

「よくもこれだけ破天荒な物語を作ったもんだ」

 とおもわないでもないけど、

 増上寺、秋葉原、高田馬場、新宿、鞆の浦、今治など、

 次から次へと、ふんだんにロケできているのは、

 なんとも羨ましいよね。

コメント

東ベルリンから来た女

2013年11月30日 19時20分26秒 | 洋画2013年

 ☆東ベルリンから来た女(2013年 ドイツ 105分)

 原題 Barbara

 staff 監督/クリスティアン・ペツォルト

     脚本/クリスティアン・ペツォルト  ハルーン・ファロッキ

     撮影/ハンス・フロム  美術/K・D・グルーバー

     衣裳デザイン/アネッテ・グーター 音楽/シュテファン・ビル

 cast ニーナ・ホス ロナルト・ツェアフェルト ヤスナ・フリッツィー・バウアー

 

 ☆1980年、東ドイツ

 そのバルト海に面した小さな村の話だ。

 西ドイツへの移住申請をしたことで目をつけられた女医が、

 東ベルリンからその村に監視をつけられたまま左遷されてる。

 彼女は国外脱出する気だ。

 なぜって、恋人が西側にいるからで、西にいって自由になりたいと熱望してる。

 毎日が緊張の連続で、ときおり家宅捜査もされ、それだけではなく、

 彼女は裸に剥かれて身体検査を受けなければならない。

 その際、余計な物を所持していないか、膣の中まで検査される。

 人権なんてものは存在しないのだと突きつけられるような軟禁状態で、

 ここで出会った医師に惚れられ、緊張が徐々に解けていき、

 やがては強制労働場から脱走してきた少女を匿い、

 自分の代わりに脱出させ、自分は医師と恋をし、東に棲むことを決意する。

 むろん、ベルリンの壁の崩壊は目前に迫ってるわけだけど、、

 好い面の皮なのは、西側の恋人だ。

 必死になって東側まで逢いに来て、ダンヒルの煙草とか差し入れしてるのに、

 彼女は自分の悩みを聞いてくれそうな優しげな同僚の誘いに応えるわけで、

 これについては、ぼくみたいにモテナイ男は「そんなばかな」といいたくなる。

 西側の男は多額の金を用意して、恋人をひたすら待ってるのに、

 その金は労働場を脱走してきた少女のために使われるわけで、

 たしかに人道的にいえば、少女は妊娠してたし、自由になりたいと欲してたし、

 自分はもしかしたらこの先も脱国できるかもしれないし、てなことから、

 自分のために用意してくれた海からの脱出劇に少女を行かせるんだけど、

 西で待ってた恋人は、少女をまのあたりにした瞬間、

「げ」

 というんだろな~とおもうと、なんだか、その男が可哀想で仕方がない。

 つきあってる男が必死に自分を救おうとしてくれてるのに、

 しかも、逢いに来てくれて、

 森の中やらホテルやらで何回もセックスまでしてるのに、

 いくらなんでもそりゃないだろ…と、モテナイぼくはおもってしまう。

 もちろん、映画の主旨からはまるで離れて、感動することすら忘れてる。

 こんなアホはぼくはさておき、

 映像は非常に落ち着いてて、ぴりぴりした緊迫感とリアルさに満ちてる。

 夏なのかどうかもよくわからない寒々しさで、

 もはやいい年になってしまった女医の人生の空しさもひしひしと感じる。

 ポスターはあまりにも若く綺麗に処理されてるけど、

 銀幕の中の彼女は凄絶さすら感じる。

 壊れたピアノの他にはなにもない部屋で暮らし、病院に通う。

 ピアノの調律師が同僚の男の善意で、派遣されてくるけど、

 それもまた監視のためかと感じ、最初は断る。

 けど、男の善意なんてものは、好きだから善意を見せるわけで、

 好きでもない相手に善意なんて見せない。

 その善意を、彼女は「下心ないんだろな」って受け止めたんだろか?

 そのときは下心はなくたって、恋愛感情に発展するってことを、

 彼女のように頭の好い女医でも、わからなかったんだろか?

 ま、

 結局、恋人は棄てられるわけだから、

 遠く離れてしまえば愛は終わるのかしらね。

 まあ、それだけ、彼女は祖国なのに孤独だったってことなんだろう。

 生まれ故郷にいても孤独感に包まれなくちゃいけない国は、

 やはりまちがってたんだろな。

コメント

グランド・イリュージョン

2013年11月22日 18時31分41秒 | 洋画2013年

 ◇グランド・イリュージョン(2013年 アメリカ 116分)

 原題 Now You See Me

 staff 監督/ルイ・レテリエ

     脚本/エド・ソロモン ボアズ・イェーキン エドワード・リコート

     原案/ボアズ・イェーキン エドワード・リコート

     撮影/ラリー・フォン ミッチェル・アムンゼン 美術/ピーター・ウェナム

     衣装デザイン/ジェニー・イーガン 音楽/ブライアン・タイラー

 cast ジェシー・アイゼンバーグ メラニー・ロラン モーガン・フリーマン マイケル・ケイン

 

 ◇Four Horsemen of the Apocalypse

『ヨハネの黙示録の4騎士』をもじった『the Four Horsemen』なわけだけど、

 秘密結社のthe eyeもなにやらフリーメーソン的な印象がぷんぷんしてる。

 まあ、この先、続編が作られたら、

 そのあたりのことも触れてくるかもしれないけど、

 今作は、そういう小難しいことはいっさいなくて、

 ひたすら4人のマジシャンと、かれらを利用した復讐劇に徹してる。

 マジックのネタ発見人モーガン・フリーマンと事業家マイケル・ケインは、

 5人目のホースメン、マーク・ラファロとの因縁話に関係してるだけだから、

 次回作があれば、この大物ふたりは出演しないのはわかる。

 狂言回しになってるメラニー・ロランにはなんとかして残ってもらいたいんだけど、

 たぶん、ほかのゲストがキャスティングされるんだろう。

 まあ、そんなことはともかく、

 全編にわたってマジックショーを見てるような疾走感があるのは好いんだけど、

 その分、主役のはずの4人の過去や経歴がまるで語られてないものだから、

 どうしても感情移入がしにくくなる。

 それと、モーガン・フリーマンが次々に種明かしをしていくのは痛快なんだけど、

 そのスピーディさに誤魔化されたような気分にならないでもない。

 実際、銀行破りにしても、現金強奪にしても、

 少人数で可能なものとはとてもおもえないし、

 マジックショーの演出にしてもおなじことだ。

 照明ひとつとってみても、

 おおがかりな人数を配置しなければ、できることじゃない。

 そんなふうに観始めちゃうと、どうしても途中で興醒めになってくる。

 エンドロールになって、おもしろかった、とはおもうものの、

 時間が経つに従って、

 観てる途中の疑問がむっくりと起き上がってきちゃうんだよね。

 タネのあるマジック、という前提があるものだから、

 余計に、そんなことをおもっちゃうのかもしれないね。

コメント

トランス

2013年11月17日 19時38分29秒 | 洋画2013年

 ◎トランス(2013年 アメリカ、イギリス 101分)

 原題 Trance

 staff 監督/ダニー・ボイル 脚本/ジョー・アハーン ジョン・ホッジ

     撮影/アンソニー・ドッド・マントル 美術/マーク・ティルデスリー

     衣裳・スタイリスト/スティラット・ラーラーブ 音楽/リック・スミス

 cast ジェームズ・マカヴォイ ロザリオ・ドーソン ヴァンサン・カッセル

 

 ◎魔女たちの飛翔

 陰毛のない絵画が好みっていう理由はいったいなんだったんだろう?

 単なるジェームズ・マカヴォイ演じる競売人の趣味ってわけでもないだろうに。

 もちろん、伏線になってるのはそのとおりで、

 精神療法士ロザリオ・ドーソンが陰毛を剃っているのはなんで?

 って観客に謎かけをするところでは十分に活きてる。

 このことで、

「あ、このふたり、初対面じゃなく、ほんとは前に関係があったんじゃない?」

 とかって察することのできる観客がどれだけいるのかわからないけど、

 中盤、実は、ジェームズ・マカヴォイがとんでもないギャンブル依存症で、

 その借金のためにゴヤの傑作『魔女たちの飛翔』を盗み出そうとしてるんだけど、

 さらに実は、マカヴォイはロザリオ・ドーソンの以前の恋人で、

 DVに苦しめられてたロザリオによって記憶を操作されてて、

 でも、失われた記憶の中でかすかに自分の顔だけ覚えてるように仕組まれ、

 自分の前にふたたび現れるように催眠を受けてたってなことがわかってくるにつれ、

 なるほど、陰毛はそういう伏線だったのかってわかる仕組みになってる。

 このあたり、複雑だよね。

 ただ、ほんとはゴヤの『裸のマハ』を競売にかけたかったんじゃないかと。

 だって、はじめて女性の陰毛が描かれた作品なんでしょ?

 もちろん『魔女たちの飛翔』は、魔女に翻弄される男たちが描かれてるわけで、

 物語そのままの見立てになってるのは、なんともいい。

 多少、偶然性に頼ったご都合主義が見えなくもないけど、

 物語に疾走感がある分、そういうのは気にならない。

 二重三重にどんでんが仕組まれてるのは、いいわ。

コメント

エンド・オブ・ウォッチ

2013年11月09日 12時50分31秒 | 洋画2013年

 ◎エンド・オブ・ウォッチ(2013年 アメリカ 109分)

 原題 End of Watch

 staff 監督・脚本/デビッド・エアー

     撮影/ロマン・バシャノフ 美術/デボラ・ハーバード

     衣装/メアリー・クレア・ハンナン 音楽/デビッド・サーディ

 cast ジェイク・ギレンホール マイケル・ペーニャ ナタリー・マルティネス アナ・ケンドリック

 

 ◎追跡、ロス市警24時間

 みたいな内容なんだけど、

 さすがにジェイク・ギレンホールたちは、

 5か月間も警察で実地訓練しただけあって、

 巡回する警官たちの怠惰さやいい加減さから、

 突入したり銃撃戦におよんだりと逮捕場面の緊張感と凄まじさは、

 けっこうリアルだった。

 同僚たちがぼろ袋のようにぼろくそに殴られて半死半生に合わされたり、

 自分も同僚も銃撃によって重傷や殉死に追い込まれたりと、

 リアルさにどれだけ拘れるかってのが主眼に置かれている分、

 観ている途中から観終わった後にいたるまでの満足感はかなり高い。

 ジェイク・ギレンホールがビデオマニアっていう設定になってるのか、

 デジタルカメラを肌身離さず抱えているのが味噌で、

 それが高じて自分たちの身体に小型カメラを装着して撮影し、

 その映像でもって場面が作られていたりするもんだから、

 実をいうと、最初のあたりは車酔いしたような感覚になり、

 ちょっとばかし気持ちが悪くなったりもしたんだけど、

 それがかえってリアルな印象を持てたような気もしないではない。

 個人的には、

 アナ・ケンドリックのちょっとおばかだけどスタイルもいいし、

 純粋で可愛いだけだったのが少しずつ警官の妻になっていくさまがお気に入りだ。

 ロサンゼルスという名前はもともとスペインの地名だったものなんだけど、

 そこへこのところ黒人ばかりかヒスパニックも移入してきて、

 もはや人種のるつぼっていうより、この両者の角逐場みたいになってる。

 どうしようもないチンピラやギャングはもとより、

 警官も、さらには警官の妻子や一族までも多人種が混淆している。

 そういう民族間の紛争や軋轢がこの町には充満してて、

 アナ・ケンドリックはのんびりぽかんとしてる独身時代から、

 警官の妻になり、その子を出産していくことで、

 この町と人間について見つめ、おとなになっていくわけだけど、

 単なる「潜入、ロス市警」的な番組と違うのは、そういうところだ。

 ジェイク・ギレンホールはぼくは意外に好きなんだけど、

 これまでの好青年とは打って変わった荒々しさが、

 これまた意外に好かったりしたわ。

コメント

ファインド・アウト

2013年10月30日 17時46分28秒 | 洋画2013年

 ◇ファインド・アウト(2013年 アメリカ 94分)

 原題 GONE

 staff 監督/エイトール・ダーリア 脚本/アリソン・バーネット

     撮影/マイケル・グレイディ 美術/シャリーズ・カーデナス

     衣裳デザイン/リンジー・アン・マッケイ 音楽/デビッド・バックリー

 cast アマンダ・セイフライド ジェニファー・カーペンター キャサリン・メーニッヒ

 

 ◇狼少年アマンダ版

 役者というのは、ときどき、こういうのが似合うんだよな~といわれることがある。

 もって生まれた雰囲気なのか、それともそういう巡り合わせなのかわからないけど、

 このアマンダ・セイフライドは、そういう星の下に生まれてきたような観がある。

 これまでの『赤ずきん』とか『ジェニファーズ・ボディ』とかいった、

 ファンタジー色っていうか、

 ちょっと童話めいた感じの作品のせいかもしれないけどね。

 もうしばらく、はらはらどきどき少女物が続くんじゃないかと。

 で、この映画なんだけど、

 出だしの、ひとりで地図をかかえて森の中をゆくあたりはすこぶるいい。

 もちろん、ありありの低予算B級サスペンスなんだけど、

 それはそれで十分に愉しめた。

 前に自分が何者かによって誘拐され、どこかの涸れ井戸に落とされ、

 命からがら逃げ出したことを、どれだけ証言しても信じてもらえず、

 精神病の薬なんかを処方されてる女の子が、

 今度は妹を何者かに誘拐されたかもしれないという事態に直面するんだけど、

 もちろん、警察とか行っても聞き入れてもらえないから、

 自分ひとりのちからでもって妹を助け出そうとするっていうだけの筋ながら、

 まあ、アマンダちゃんは頑張ってるわけです。

 ただ、

 連続美少女誘拐殺人犯が、

 どうやら社会から疎外された人間だってわかってくるのはいいとして、

 それはアテ馬になってないと話がおもしろくないはずで、

 途中から拳銃不法所持で警察に追われたりもするわけだから、

 やっぱり、警察内部に真犯人がいないとおもしろくない。

 せっかく、あやしい刑事どもを登場させてるんだから、

 観客の抱いてる期待を裏切るのはちょっとね。

 それとも、予定調和を崩そうとしてるのかしら?

 ま、それならそれでいいんだけど。

コメント

アップサイドダウン 重力の恋人

2013年10月08日 18時59分34秒 | 洋画2013年

 ◇アップサイドダウン 重力の恋人(2013年 カナダ、フランス 109分)

 原題 Upside Down

 staff 監督・脚本/フアン・ソラナス

     撮影/ピエール・ギル 美術/アレックス・マクドウェル

     衣装 /ニコレッタ・マッソーネ 音楽/ブノワ・シャレスト

 cast キルスティン・ダンスト ジム・スタージェス ティモシー・スポール

 

 ◇矛盾を乗り越えられない私

 宇宙のどこかの太陽系に双子惑星があって、

 そこは星と星とがほとんどくっついてるものだから、

 下の星の北極と上の星の南極あたりに都市が発展し、

 人間の行き来も可能になってるという設定なのはわかる。

 でも、物語の途中で、

 ふしぎな形のカクテルを登場させたり、

 おしっこが天井に漏れちゃったりするのを撮りたいがために、

 それぞれの星の分子で構成されているものは、

 それぞれの星の重力に影響を受けるという、

 複雑な設定まで作ってしまったことが、

 この物語の核心になっているのと同時に、

 もうそりゃいっぱいあるさってくらいの矛盾をはらんでしまった。

 致命傷とまではいわないし、

 決して一緒になれないであろうカップルの話を作るには、

 好都合な設定なんだけど、

 映画って、納得できない矛盾に出くわしちゃうと、

 そのあとがどれだけ面白くても、話に身が入らなくなるんだよね。

 この映画がそれで、

 特撮はしっかりしてるし、映像も美しいんだけど、どうもね。

 なにより疑問なのは、

「ふたりの間に子供ができたら、どちらの引力の影響を受けるんだろ?」

 ってことで、

 おそらく卵子と精子がくっついた瞬間にとんでもない事態になるんじゃないかな~と。

 だって、おしっこだってそれぞれの生まれた星の引力の法則に従うんだから、

 当然、唾や汗だってそうだし、精液だってもちろんそれぞれの星の引力に従う。

 こりゃ、無理だよね。

 そんなことを考えてたら、どれだけロマンチックな設定でも、

 身が入らなくなる。

 この映画には、

 どうやら、映画の魅力に惹きつけられる人間と、惹きつけられない人間がいて、

 その両者は、もしかしたら、

 物事を感情で捉える人と理詰めで捉える人なのかもしれない。

 でもな~、

 ぼくは本来、前者のはずなんだけど。

コメント

サイド・エフェクト

2013年09月29日 19時51分22秒 | 洋画2013年

 ◎サイド・エフェクト(2013年 アメリカ 106分)

 原題 Side Effects

 staff 監督・撮影・編集/スティーヴン・ソダーバーグ

     脚本/スコット・Z・バーンズ

     制作/スコット・Z・バーンズ ロレンツォ・ディ・ボナベンチュラ

         グレゴリー・ジェイコブス

     美術/ハワード・カミングス 視覚効果監修/トーマス・J・スミス

     衣装/スーザン・ライアル 音楽/トーマス・ニューマン

 cast ジュード・ロウ ルーニー・マーラ キャサリン・ゼタ=ジョーンズ チャニング・テイタム

 

 ◎ソダーバーグ、引退作品

 まあ、自分で引退するっていうんだから、

 本気で、今後、劇場用映画を撮る気はないんだろう。

 世の中には引退を宣言できる人間ほど恵まれている人間はない。

 それだけ、その個人的な才能について、世間が認めているからだ。

 幸せな半生っていうべきだよね。

 さて、本作だ。

 題名のSide Effectsの意味は、薬の副作用。

 ってことからもわかるように、話の核心は副作用だ。

 ヒッチコック的なスリラーとかいうのがいちばん楽だし、

 ああ、なるほどね~とかわかってくれる人は多いんだろうけど、

 あんまりヒッチコック的な印象はなかった。

 鬱病に処方された薬が原因で、ほんとに夢遊病になり、夫を殺すのか?

 インサイダー取引で服役した夫のせいで貧乏暮らしが嫌だったんじゃないのか?

 夢遊病説は彼女とレズビアンの関係にある女医の私説なんじゃないのか?

 鬱病で車ごとぶつかって自殺しようとしたのにシートベルトを締めるのか?

 どうして過去に自殺した患者を持っている精神科医をわざわざ指名したのか?

 てな感じの伏線がいたるところに散りばめられているのは、

 なにもヒッチコックじゃなくてもありそうな展開なんだもん。

 とはいえ、カッティングと構成はさすがだし、絵づくりも好い。

 やっぱり、引退しなくたっていいじゃん、ソダーバーグ。 

コメント

エリジウム

2013年09月24日 22時54分33秒 | 洋画2013年

 ◎エリジウム(2013年 アメリカ 109分)

 原題 Elysium

 staff 監督・脚本/ニール・ブロムカンプ

     製作/ビル・ブロック ニール・ブロムカンプ サイモン・キンバーグ

     撮影/トレント・オパロック 美術/フィリップ・アイヴィ

     衣裳デザイン/エイプリル・フェリー スーツデザイン/ジョルジオ・アルマーニ

     音楽/ライアン・エイモン

 cast マット・デイモン ジョディ・フォスター シャールト・コプリー アリシー・ブラガ

 

 ◎2154年、ロサンゼルス

 Elysiumは、ギリシャ神話にある。

 Elysian Fields、エリュシオンてのがそれで、

 祝福された人々が死後に住む楽土とか、理想郷とかいった意味だ。

 で、そこに至上の幸福があるっていうんだけど、

 たしかに貧困も病気も差別もない世界があるなら、それは理想郷にちがいない。

 けど、それは1%のエリートのためのもので、

 99%の人々は貧困と病気と差別の中で、暮らしてる。

 ってのが、この映画に描かれてる世界なんだけど、

 もちろん、現在のアメリカ、あるいは地球を見立てているのはまちがいない。

 監督のニール・ブロムカンプが描いているのは『第9地区』でもそうだったけど、

 人種差別や格差社会だ。

 日本人はどうもそういうことに鈍感で、

 若き天才SF監督の声がどこまで届いているのか、よくわからない。

 ただし、ブロムカンプはなにも革命を引き起こそうといってるわけでもないし、

 世界を包んでいる人種差別や格差社会はこんなふうにしたらよくなるとか、

 そんな理想論をぶちあげようとしてるわけでもない。

 ぼくたちが直面してる世界のありさまを淡々と描くだけじゃ物足りないから、

 そこにSF観っていうか、カリカチュアされた世界を現出することで、

 そこから現代世界に視点を移してみないか?と話しかけているって程度な感じだ。

 でも、それでいいんだろね。

 にしても、乾燥した地球のありさまは実にリアルで、

 なんだか、まだ『第9地区』の続きを観てるような気がしたわ~。

 ただ、スペースコロニーのエリジウムは、

 所詮、テクノロジーの生み出したまやかしの世界で、

 だとしたら、いったいほんとうの理想郷はどこにあるんだろう?って話だよね。

 ブロムカンプはそれについて回答を出してないんだけど、

 それは当たり前の話で、

 ぼくらが考えないといけないんだろな~。

コメント