Creator's Blog,record of the Designer's thinking

毎月、おおよそドローイング&小説(上旬)、フィールド映像(中旬)、エッセイ(下旬)の3部構成で描き、撮り、書いてます。

ドローイング240. 小説:小樽の翆 171. 馬喰の健さん

2020年09月12日 | Sensual novel

 

 感染症病棟勤めの晃子さんが久しぶりに休みをもらった。といっても家に帰れるだけで、明日は午後からまた病院勤め。夕方翆と一緒に食事にでかけた。

晃子「ときどき一人酒をすることがあって。それが小樽の場末のような場所で、お爺ちゃんの代から細々と続く、店構えも傾いているような古い飲み屋のお上の話ね」

翆「一人酒かぁーー」

晃子「お上さんは文さんというのね、三十代後半かなぁ、小さな飲み屋を続けているの。みるからに地味な人。

でっ、旦那が馬喰をしているわけ。牛馬の仲買人ね。北海道は、まだそんな人が少しはいて、でっ、健さんといって昔気質のオトコね。小樽の仕事がなくなると、全国へ出稼ぎに出かけるんだって。だから、またか、と思って、文さんは一人暮らしが続くわけ。それでも、別れることもなく、ずーーっと奥さんしているのよ。だから、ある時、文さんに尋ねたことがあるの」

晃子「なんで、健さん一途なの?」

文子「あたしって不器用な女なのよ。その辺の若い子みたいに次から次へとオトコを変えてなんて、そんな器用なことができる性分じゃないしさ。だからオトコの人って健さんで、もう十分なのよ」

晃子「健さんとの馴れそめは、どんななの?」

文子「馴れそめは、ある時、健さんが、うちにやってきて、小樽にいるときは毎日きて、冷や酒を飲んで行くの。昔気質のところがあって不器用な人ねと思った。ある時、こんなことをいってた・・・。

健さん「馬喰なんて時代遅れの仕事をしているけどさぁー。それでも頼りにしてくれる爺ちゃん婆ちゃんがいてさあ、牛や馬の病気の相談にも乗るわけ。

本当は獣医師に頼んだ方がいいけど、でも、そんな金ないのさ。だから世間話しながら牛馬の病気の相談にのってみてくれるなんて俺ぐらいしかいないよ。それでも薬はだせないけど、暖めたり冷やしたりしていると、治るときもあるんだよ。

それで夕飯と僅かな足代もらって全国を渡り歩くわけ。世の中って全部が全部さ、経営がうまくゆくとか、成功するわけじゃないのよ。こんなしょぼい商売でも、頼りにされてる人がいるんだ」

文さん「うちだって、昔から商売やっているけど、SNSに紹介されるような店でもないし、むしろ、つぶれない程度に食べられて、いきているだけで精一杯かな。それでもここまで生活できたから神様に感謝しているよ。それでいいとおもってる」

そんな不器用なオトコと、不器用な女と気があったのかな。

気がついたら一緒に生活していた。私って、一人の男の人に抱かれると、もうそのオトコの人のために一生懸命なんでもしてあげようという気持ちになっちゃうの。そうすると不思議なことに男の人って必ず戻ってくるのよね。だから健さんが出稼ぎで帰らない日が続いても、ずーっと待ってるよ。それが1年でも2年でも。これまでにも、そんな事があったからね。そんな時は小樽の空をみながら、今度はいつ帰るかなあって思うんだ。私の生涯で最初で最後のオトコだもん。だから、大切にしている。私ってそういう女なのよ。今でも健さん一途の生活が続いているよ」

晃子「今、健さんは?」

文子「健さん!、また出稼ぎだよ。たいして稼いでこないけど、男の仕事だといって出稼ぎにゆくよ。ここで飲み屋の主でもしていりゃいいのにさ。それだけじゃ退屈なんだろうね」

・・・

晃子「そんな古風な女もいるんだなって思って」

翆「私の生涯で最初で最後のオトコかぁーー、そこかぁー、飲み屋のお上が身持ちが堅いというのは・・・

晃子「身持ちが堅くなきゃ、水商売なんかできないねぇー、そう思わない(笑)」

・・・

この話、続く・・・。

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